満月衛星。-ss-日々を繋ぐ 満月衛星。 ss - 日々を繋ぐ

『日々を繋ぐ』

 夜が静か、なんて言ったのは誰だったかしらね? そいつはきっと回りを何も観ていないアホよ。
 本当の夜はとってもにぎやか。遠くの方で夜行性の鳥達は踊ってるし、虫達はこやかましく活動するし、風に揺られる木々はざわざわと歌を歌う。
 そしてあたしと朋也は、そんなにぎやかな空き地で2人、花火をしてた。

 朋也の隙を付いてこそこそと隠れて少し離れた所でロケット花火の導火線に火をつける。ジジジジジ……、って音を立てて導火線がカウントダウンを開始する。
 狙いは朋也が避けられるか避けられないかギリギリのところ。あっさり避けられたら面白くないし、確実に当たるところなんて更に面白くない。
 飽くまで、観たいのは当たるところじゃなくて、狙われて慌てふためいてギリギリで避けるまでのザマ。想像するだけで思わずニヤリと笑いがこみ上げてしまう。

「杏ー、何やってんだぁ〜?」
「朋也狙ってんのぉ〜」
「ほどほどにしとけよぉ〜……って、俺じゃねぇかよっ!」
「あったりぃ〜、んでもって発射ーっ!」

 気付くのが遅いわよっ! それだけ言うとロケット花火はピューとか言う音を立てながら、確実に朋也に向かって飛んでいった。
 「お゛お゛っ!!?」とか言ってあたしが狙ったように見事にギリギリでかわす。なんていうか、よけた朋也よりも、そのギリギリのラインを狙った自分の腕にうっとりするわ。

「お、おまっ、あっぶねぇだろっ! もし当たったらどうするんだっ!!」
「ダーイジョブよ、あたしの腕を信用しなさいって」
「いや、そーじゃなくて、花火を彼氏に向けてぶっ放すなっつーのっ!」
「ほほほほほ〜、安心しなさい。弾はまだまだ有るわよぉ〜。そんなわけで、6番管から12番管まで開けぇ〜」
「安心できるかっ!! んでもって、1番管から5番管まではどうした? って言うかそれ以前にオイ、ちょっと待てちょっと待て、6番管から12番管!? 7発もあんのかよっ!!?」

 律儀に一つ一つツッコミをいれつつ慌てふためく朋也を尻目に、ロケット花火を少しづつ点火する間隔を狭めながら火を点けていく。
 ジジジジジ……とか言う音をハモらせながら7つの弾丸が順繰りにカウントダウンを始める。

「発射準備、よーそろー」
「いいわけあるかーっ」
「ってぇーっ!」
「ノォーーーーーーっ!!!」

 花火の飛んで行く音と、彼氏の間抜けな悲鳴が、夜の空き地に木霊した。あたしはそれを、腹を抱えながら観ていた。

 ……………………

 ………………

 ……



 パラパラ……カリカリ。カリカリ……パラパラ……カリカリ……

 そんな感じの音が静かな空間で聴こえる唯一の音。人は沢山いるけど話し声はほとんど聴こえてこない。
 それもそのはず、ここは図書館の読書室。普段もそうだけど夏休みのこの時期は特に勉強をしに来る学生で席が埋まる。
 そんな周りとおんなじ様に黙々と宿題をこなしていた。別に夜に家でやったって変わらないんだけど、1人でやるよりも2人でやった方がいいかなぁ〜なんて思ってたんだけど……

「zzzzzz……」

 一緒に宿題をやりたいと思った相手、朋也は見事に寝てたりする。あたしも考えが甘かったわ、あの朋也だもん、宿題をまともにやってるはずがなかったわ。
 本人曰く、「夏休みの宿題? そんなもん高校に入ってから一回も提出したことねぇよ。別段進学するわけでもねぇし、今年も出さなくても大丈夫だろ」って言うことらしい。
 恋人同士で宿題見せっこしたり教え合いっこしたりって言うフラグのひとつでも立つかなぁ〜って考えてたあたしの目論見は、見事に外れる。……ちぇっ。

 仕方がないから宿題は一人で片付けることにする。ん〜、なんかでも、彼氏の寝顔が横にあると、ついつい眺めちゃうのよねぇ〜。
 意外に長い睫してたり、夜更かしコキまくってる割には肌が荒れてなかったり、こうやって眺めて観ると新しい発見がある。
 おお〜っといけないいけない、彼氏をぼんやり眺めてる場合じゃなかったわ、宿題宿題。

 でもとりあえず、宿題を一緒にやってくれない朋也には悪戯を仕掛けとかないとねぇ〜。ふふんふふんふふ〜ん、蛍光ペン出して、きゅ、きゅ、きゅ、きゅ、きゅ、きゅっとねぇ〜。
 昨日はやりすぎて怒らせちゃったけど、今日は横にいてグースカ寝てる朋也が悪い。せめて横で起きてなさいよねっ。
 ああ〜、スッキリしたっ。

 ・

 ・

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「とーもやっ、そんなに拗ねないでよ、ね?」
「拗ねてなんかないやいっ! ちょっと地面にのの字をたくさん書きたくなっただけだいっ!」

 そう言ってあたしに顔を背けて○ンコ座りをして、朋也は地面にのの字を書いてる。朋也の背中に張り付いて、朋也のご機嫌を伺う。
 6番管から12番管までの発射を見事に避けた朋也はあたしにロケット花火をぶっ放されたのがショックだったらしくて、反撃も出来ずに拗ねてしまった。
 あははっ、子供みたい。そんなこと言おうものならもっと拗ねちゃうだろうから、そこは言わないどいて上げる。彼氏割引よ。

「もーお前とは当分花火しねぇっ」
「ま、当分ならいいわよ。今年はもう花火なんてする機会もないでしょうし」
「んじゃお前とはもぉ〜花火しねぇ」
「却下よ」
「却下を却下します」
「却下の却下を却下します」
「却下の却下の却下の却下をします。ってもぉ〜ええわぁーっ!」

 大絶叫して無意味な言い争いを強引に終わらせた朋也は、ビシッ! とあたしを指差して、捌きを言い渡す代官みたいにキッパリと言い放った。

「とにかくっ、花火はもうしませんっ。やるたびやるたびにロケット花火をぶっ放されたらこっちの身がもたん」
「ええ〜、それは嫌ぁ〜」
「嫌じゃねぇよ、マジでおっかなかったんだからなっ!」
「う゛う゛〜〜〜〜……ごめん。もうしないから……」

 朋也の言葉に本気の怒気が感じられた。あたしは申し訳なくなってシュンとなってしまっう。これから先、朋也と花火が出来なくなってしまうのは、ホントに寂しいと思った。
 それに怒ってくれている間はあたしの事をちゃんと気にしてくれている証拠だから、それはそれで安心できるんだけど、朋也には嫌われたくない。
 朋也に嫌われたら、あたしはきっとあたしで居られない。空蝉になっちゃうに違いない。それは、とても怖かった。
 そんなあたしの表情を読み取ってくれたのか、朋也はあたしの方に向き直って少しだけ苦笑して、ポンポンと軽く頭を撫でた。

「わりぃ、俺も言い過ぎたよ」
「うん。でも……」
「でも、はいいからさ。残りの花火、楽しもうぜ、な?」

 それだけ言って優しく自分の唇をあたしに重ねた。触れるだけの唇と唇。でも伝わってくるのは優しい気持ち。
 自然と朋也の背中に腕が回って、あたしは朋也に抱きついた。朋也も返事をするみたいに腕をあたしの背中に回す。
 ゆっくりと抱き合って、それからまた、あたし達はキスをした。

 ……………………

 ………………

 ……



 朋也の顔に髭を描いて宿題の方も一段落付いたあたしは、図書館の表にある自販機に100円硬貨を一枚入れてフルーツ牛乳のボタンを推した。

 ガコンッ、

 取り出したパックジュースのストロー口にストローをさして、そのままチューと吸い込んで喉を潤す。
 はぁ〜……と人心地付くと、この間の2人っきりで花火をした時の事を思い出して、あたしは思わず照れてしまう。

「へへぇ〜」

 頬が赤くなっているのは残暑の熱さのせいだけじゃなくて、それがちょっぴり嬉しかったり、恥ずかしかったり。
 こんな状態になっちゃってる自分が、少しだけ悔しくて、凄く誇らしい。やっぱり、惚れた弱みってやつなのかしらね、これは?
 熱くなった頭をジュースで冷やしては、またこの間の事を思い出して恥ずかしくなって頭をヒートアップさせていると、後ろから声をかけられた。

「ここに居たか」
「朋……也はっはっはっはっはっ!!」
「ナンだよ、お前も笑うのかよっ!」
「そりゃ笑うわよ。って言うか、あんた気付かすにここまで来たのっ!?」
「へっ?気付かずに……ってどういうことだ?」

 そこまで言った朋也はハッ! と気付いた様で、慌てて近くに鏡がないかを捜す。
 勿論そんな都合よく鏡なんかなかったから、図書館の鏡張りになってる自動扉を鏡代わりにして自分の顔を見た。
 そんな事をしてる時に限って都合よく現れるのが、図書館から出て行こうとする女の人なのよねぇ〜。
 いきなり鏡越しに髭面朋也の顔を観ちゃったもんだから、折角のきれいな顔が台無しになるくらい破顔させた。

「のおぉおぉおぉおぉおおっ!!」

 と絶叫して地面を転げ回る朋也。その横を苦笑しながら女の人は通り過ぎて行った。とりあえず朋也にココロの中で謝っておいて、あたしは他人の振りをしておく。
 真っ赤な他人の、それも女の人に見られて、あまつさえ爆笑されれば、そうしたくなる気持ちも、解らなくはない。……ゴメン、あたしにはそんな体験なかったから、やっぱり解らない。
 まぁ、笑い物になる様にしたのはあたしなんだけどさ。

「マジでこういうことすんのやめてくれっつーのっ!」
「今回は謝らないわよ。彼女が宿題やってる横で堂々と居眠りこいてたんだから」
「だからって、これはねぇだろうがよぉ」
「なくないわよ。手伝えなんて上等なことは期待しないけど、せめて起きてちゃんととなりに居なさいよね」
「悪かったよ、けど……」

 なにか言いづらそうな事を言おうとしてる、目を逸らしながらも頬を染めた朋也の言葉の続きが気になって、あたしは「けど、何よ?」と促した。
 観念したらしい朋也は、それでもあたしと目をあわせようとはしないで、頭をボリボリとかきむしりながら、顔を真っ赤にして言った。

「お前の横だと凄く安心して寝られるんだよっ!!」

 それだけ叫ぶように言うと、朋也はそっぽ向いてしまった。
 あたしは嬉しいやれビックリしたやれで、しばらく口を開けたまま呆けていたけど、朋也の言葉が頭の中でリフレインされて、ココロの中に染み込んでいくと、純粋な嬉しさだけが残って思わず後ろから飛びついた。

「へへぇ……朋也」
「うん」
「大好き」
「俺も、好きだよ」

 あたしは今、恋をしてる。








おわり







---あとがき---
 朋也、さっさと顔洗えよな。と、第三者の作者としては思うのです。
 とりあえず今回のお話しは「次回への繋ぎ」のようなものです。
 インタールード的なもんだとでも思ってくださいよ。

 これからどうなるかってのは、大雑把な感じでは決まっております。
 まだ具体的なものは全く決まってないんですけどね。何故なら、まだ一文字も手ぇ付けてないから。
 でもまぁ、後2、3話くらいで終わりますよ。って言うか終わらせますよ。

 それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/06/08)

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