満月衛星。-ss-the SUN ]\ 満月衛星。 ss - the SUN ]\



 いつもと変わらない蒸し暑い放課後。いつものメンバーでいつもと同じ演劇部室でいつもと同じように他愛も無い話しをして、学校が終わる。
 外は生憎の雨模様。夏と言う季節柄の所為か数日振りの雨は、ニュースなどでは悦びのネタとして扱われるだろうが、学校帰りの生徒達にとっては余り喜ばしい物ではなかった。
 そんな感じで放課後に降り始めた雨は一向に降り止む様子は無く、五人は三本の傘を差しながら緑を蓄えた桜並木を下っていった。

 背後に受ける視線にイタイ物を感じながら朋也は、隣で嬉しそうに微笑むことみの顔を覗う。
 こういうとき、イタイ視線を浴びるのは何故か朋也一人の役目だった。ことみの方にも同じような視線が飛んでいるのかもしれないが、本人はそれを一向に気にした風はない。
 はぁ〜、なんでこんな状況になったんだっけかね。そんな事を考えながら朋也は今までの状況を思いだす。


『the SUN ]\』


「……結局、雨止まなかったわね。誰よ、部室で時間潰してればそのうち晴れるなんてアホなこと言ったのはっ」
 学校の軒先で相変わらず止む様子のない雨を見上げながら、杏がいかにも鬱陶しそうな声で言った。
「お姉ちゃんだよ」
「おまえ自爆な」
「朋也ぁ〜っ、何とかしなさいっ!」
「唐突に無茶抜かすなよな。こちとら雨が降り出すまで今日雨が降るっつー事すら知らなかったんだからな。傘すらねぇよ」
 どうにかできるものならしたいと朋也も考えていたが、放課後も遅くなると余った傘も見当たらなく、他人のをパクることすらも出来ない。
 杏の方もパクることは諦めたらしく、苦笑いして傘を差しているいる椋の傘に潜り込んでいた。
「あたしだって知らなかったわよ。天気予報も見損ねたし」
「お姉ちゃん朝はいつもギリギリだもんね」
「こら、椋っ、余計なこと言わないのっ」
 そう言って妹の頭をこずく姉。妹の方はいたずらっぽくペロッと舌を出して小さく肩をくすめている。
 そんな様子をほほえましそうに見ていた渚は、ふと湧いた疑問を朋也にたずねてみた。
「岡崎さんは天気予報とか見ないんですか?」
「こいつにそんなもん観る習慣が有るはず無いじゃない」
 さも当然とばかりに朋也の変わりに杏が答えていた。朋也としては反論の一つもしたいところだったが、如何せんその通りなので言い返すこともできない。
 「ぐっ……」とだけ言葉に詰まっていると、制服のすそをチョンチョンと引っ張られていることに気が付いた。
 視線を制服の袖から、それを引っ張っている腕へと移し、その腕の主のツラへと順振りに移していくと、辿り着いたのはことみの顔だった。
「どうかしたか?」
「あのね、朋也くん、傘持ってる?」
「いや、だからさっきから持ってない持ってないと言ってなかったか? まぁいいや、それで?」
「あのね、もしよかったら私の傘に入って欲しいの」
「…………」
「一般的な名称で言うと相合い傘なの」
 ピシッ! と言う音が走ったのを朋也は確かに聴いた気がした。直後に飛んでくるいつもの視線がいつも通りイタイ。
 「あの、えぇ〜っとだなぁ」などと口ごもっている間に、ことみはどんどんと舌を滑らせて行く。
「相合い傘は一本の傘に男女2人が一緒に入る事を言うの。傘のマークを書いてその下に名前を記すこともあるの……」
 などとことみがまくし立てているのを聴いて、ようやっと朋也も理解した。ああ、こいつ熱暴走してる、と。
 所謂恋人同士と言われる関係になっても彼女の熱暴走はなりを潜めることなく、緊張した時などによくよく発生していた。
「ちょっと、ことみが暴走してるわよ、何とかしなさいよね、御主人様」
「だから御主人様じゃないとゆーとろーに、何度言ったら解るんだか……」
「こうなったらもう私達には止められませんから」
「岡崎さん、がんばってください」
 苦笑をこらえるような表情の椋と渚にまで後押しされて、朋也はやれやれといった風に頭をボリボリと掻いてことみに向き直り、クールダウンさせるために台詞を中断させた。
「ことみことみ、とりあえず薀蓄は置いといて、まずはおちつけっ! なっ!?」
「うん。了解なの」
 どうにかこうにかそれだけ答えると、すぅ〜……はぁ〜……すぅ〜……はぁ〜……と深呼吸を繰り返す。
「だいぶ落ち付いたの」
「そか、で、俺からの返事だけどな。」
 相変わらず傍目には解りにくい熱い視線をうけて、朋也はココロの中で苦笑する。
 熱暴走した後のことみは言語理解に時間がかかる。これまでの経験でそれを学んでいる朋也は、彼女に解りやすいように一語一語を区切ってゆっくりと喋る。
「俺は、傘を持ってくるのを忘れたから、ことみの傘に入れてくれると、とっても嬉しいぞ」
「???」
「いや、ここでハテナマークは飛ばさなくていいからな。」
「……あっ、うん。私も入ってくれると嬉しいの」
「俺の方がタッパあるから、傘は俺が持つな。」
「うん」
 嬉しそうに頬を染めてはにかむことみが、言葉を続けた。
「半分こ……」
 視界の端の方に台詞を聴いていたであろう杏が手で顔を仰いでいるのが見えた。
 「アツイ アツイ」と言うジェスチャーなのだろうことは容易に想像付いたが、それに喰いつくのも癪に触ったので、気にしないことにして、朋也はことみから預かった傘を開く。
 それに続くように渚も傘を開いて傘の花を咲かせた。計三つの花が咲いたのを確認すると「それじゃあ、行きましょうか」と杏が言ったのをきっかけにして、五人は校舎を後にした。



 相変わらず横で嬉しそうに微笑んでいることみを観てから朋也は視線を正面に移した。空から注ぐ恵みの水は相変わらず止むと言うことを忘れたように降り続いている。
「この雨、いい加減うっとうしいよな」
「そう思うんだったら、あんた止ませなさいよね」
「無茶言うな」
「でも雨も降ってくれないと困ります」
「お洗濯物が乾かなくなっちゃったりするのも困りますけどね」
 割と現実的な意見を述べる渚と椋。
「だけど、雨じゃないとできないこともあるの」
「なんだよそりゃ?」
 朋也の疑問い答えるようにことみはニッコリと笑い、「朋也くん、持ってて」と言ってかばんを渡したと思うと傘から飛び出した。
「お、おい、ことみっ、夏場だからってんなことしてっと風邪引くぞっ!」
「おうちに帰ったらちゃんとお風呂に入るから大丈夫なのっ」
「はぁ〜、全く、何やってんだかあの子は……」
「でもことみちゃん、凄く楽しそう」
「見ているこっちまで楽しくなってきてしまうくらいです」
 嬉々として雨の中を踊っていることみの姿は、確かに楽しそうだった。それについては誰も反論しない。
 無邪気な子供が遊んでいるような、まるで雨音でリズムを取って踊っているような、一枚絵として切り出せそうな、光景。
 しばらくそんな光景を見ていると、
「お姉ちゃんっ」
「岡崎さんっ」
 いきなり渚と椋が自分達の持っていた荷物を、それぞれ声をかけた方に押し付けて
「荷物、お願いっ」
「よろしくお願いしますっ」
 とだけ言ってことみの元に駆けだしていった。よほどことみが楽しく見えて、そして羨ましかったのだろう。
 三人が仲良く雨の中をはしゃいでいる光景はどこか微笑ましいものだった。
「おまえは行かないのかよ」
 しばらくボーっと眺めていた朋也が呆れたような、少し羨ましいような感覚に襲われながら、杏に言った。
「あたしはあの子達みたいに無邪気にはなれないわよ」
「邪気ならたっぷり持ってそうだがな」
「なんならあんたに全部ぶつけてあげようか?」
「冗談だ、聞き流せ」
 ニッコリ笑顔で脅迫されれば朋也にはそう返すしか術は無い。視線をボケ専少女隊に戻してみれば、三人は相変わらず無邪気に雨の中を踊っている。
 それがまるで雨よけ踊りだったように気が付けば雨脚は段々と弱くなり、ついにはピタリと止んでしまった。それどころか、曇天の間から日の光までが覗かせてきた。
 雲の隙間から覗かせる夕方の太陽が、木漏れ日のように雲の隙間を縫ってオレンジ色の光線となって差し込んでくる。
 朋也と杏は傘をたたみ、五人ともその場に佇んで空を見上げた。
「あっ」
 いきなりそう言って渚が指を差した。
「虹です」
 渚の言葉を続けるように、椋が呟く。
「こいつぁ……」
「ちょっと出来すぎよね」
 朋也と杏もそれだけ呟いて虹に見とれていた。
 それくらいに空に浮かぶ七色の橋は空のカンバスにきれいなコントラストを描いていた。
「朋也くん」
「ん?」
 視線をことみに落とすと、彼女は虹を背にしてニッコリと微笑んで言った。
「虹、きれいなの」
「ああ、きれいだな」
 夏の太陽みたいに微笑むことみに見惚れた朋也は、目を細めてそれだけを返した。
 彼が発した言葉の正しい意味を、彼女はちゃんと理解しただろうか? まぁ、そんなこと気にしなくてもいいか。
 そう思った、雨上がりの放課後。








おわり







---あとがき---
 作品自体は2、3週間前には既に出来上がっていたんですが、祭りに出すって言うんで随分と暖めることに結果的になってしまいました。
 肌色。の方がウケがいいと思ってたんですが、こっちの方がウケが好くてビックリ。ありがたいことに3票を頂く事が出来ました。
 投票してくださったかたがた、ありがとうございます。

 風子に次いで書けないと思ってたことみでssが作れて私的には大満足。これでまぁやりたいことは大体遣り切ったかなって思う。
 って言うかCLANNAD SSでこんだけ沢山の人出したの初めてだよ。演劇部組みって難しいね。
 相合い傘を喜ぶことみに「半分こ……」って言わせた時、俺天才だ、って思っちゃったよ(爆笑)

 それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/07/18)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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