満月衛星。
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SS
- 想いを乗せて
『想いを乗せて』
ジリリリリリリリリリ……
うるっさいっ!バシッ!シーン……。
五月蝿く泣き止まない目覚まし時計を黙らせて、あたしは再びベッドで丸くなる。そばでは同じくボタンが丸くなってる。う〜ん、ぷりちー。
あたしの名誉のために言っておくけど、目覚まし時計はちゃんと手で止めたわよ。断じて辞書を投げて壊したわけではないので、あしからず。
物は大事にしないとね。
そんなわけで、この日のあたしの家の朝は、夏休みだというのに早かった。
前日にラジオ体操が始まる1時間30分ほど前に起きるように言われていたから、早いなんてもんじゃない。
……ねむいー、起きたくないー。……よし、おきない。おやすみぃ。
決意を決めて一分もしないうちにガチャリ、と無粋にドアを開ける音がした。ノックもなしに部屋に入ってこないの、と批難の声を上げようかと思ったけど、やめる。
これからあたしは再び睡眠という名の浪漫飛行に飛び立つんだから、そんなことに構ってはいられない。
「ほら、杏、さっさと起きちゃいなさいっ」
お母さんだった。たとえお母さんでも、そこは譲れない。あたしは無視を決め込んで、タヌキ寝入りを決め込む。
「……ぷひ?ぷひぷひー」
「あらーボタンはえらいわねぇ、私が呼びに着たらちゃんと起きて。ほら、杏、あんたも起きなさい。今日からお祖父さんのところにお墓参りにいくんだから」
「…………」
お母さんの言葉は引き続き、無視。タヌキタヌキ。
ガバッ、という音が聴こえて、あたしの包まっていたタオルケットが剥がされた事を、あたしは感覚で感じた。
次ぎにシャーッという音が聴こえてカーテンも開け放たれたことが解る。
ふっ、甘いわ母よ、今は夏とはいえ、早朝。あたしの眠りを妨げるほどにはならないわよ。
「杏……いつまで寝てるつもり?」
「ぷひー」
知れたこと。あたしが爽やかに起きられるまでよ。
ボタンの方はあたしにではなくて、お母さんの方に何かを訴えているようだが、目を瞑って相変わらずタヌキを決め込んでいるあたしには、何を訴えようとしているのか知る由も無い。
「最後通告よ、杏。起きなさい、さもないと……」
「ぷひーぷひー」
お母さんの声のトーンがいくらか下がるが、あたしの知ったことではない。でも、ボタンの方は違うらしく、あたしになにやらなにやら起きろ起きろといっているようだ。
けど、そんなこと言われた程度で起きたら、女が廃るってなもんよ。最後通告だろうが、最終警告だろうが、置いていくだろうが、すれば良いわ。
仮に置いていってくれようものなら、部屋に朋也を呼んで、クーラーの聴いた部屋でのんべんだらりとできるってなもんよ。……マジで置いていってくんないかしらね?
「そう……起きないのね。なら、実力行使に出るわよ。『拝啓。朋也、元気にしてる?あた―――』」
ガバッ、ダッ、バッ、
すばやく起きて、マッハでお母さんに駆け寄り、光の速さで手紙を取り返す。
そのままお母さんと一定の距離を保ち、朋也に寄せた暑中見舞いの葉書を胸に抱える。
「ななななななな、なに娘の手紙を勝手に音読してるのよっ!!?」
朝っぱらでおまけに寝起きだというのに、あたしのは顔を火照らせ大音量でわめき散らした。
「やっぱりおきてたじゃない。タヌキは感心しないわよ?」と腰に手を当ててニンマリと笑うお母さんが悪魔に見えて仕方がない。
っていうかタヌキ寝入りはバッチリとばれていたらしい。まぁ、バレたと分かっていても、し続けたでしょうけど。
「だから言ったじゃない、最後通告だって」
「それにしたって、して良いことと悪いことがあるでしょっ」
「起きないあんたが悪い。おまけにそんな大事な手紙だったら机の上に丸投げにしとかないの」
「ぐっ……」
「ぷひぷひー」
ビシッ、と正論をたたきつけられてしまった。正論を叩きつけられることほどムカつくことも無いわね。ボタンも、だから言ったのにといった風にあたしを見ている。
言いよどむあたしに対して、お母さんのほうは余裕綽々なご様子。それにしたって娘の部屋にある手紙を勝手に読む、普通?
「はいはい、爽やかに起床ができたなら、さっさと準備しちゃいなさい。お父さんも椋も、もうご飯食べ終わっちゃってるんだから」
「どこが爽やかな朝なのよっ」
あたしの負け犬の遠吠えもむなしく、お母さんはボタンを抱えるとさっさと部屋から出ようとドアへと向かった。
お母さんが背中を向いているのをいいことに、あたしは思いっきりアッカンベーをしてやる。べぇー。
ガチャリとドアノブを回し扉を開けたお母さんが、不意にこっちを向いた。
おっと、あたしはあわててアッカンベーをしまいこんだ。ふぅ、バレてない……わよね?
お母さんはといえば、そんなあたしの様子を気にした風でもなく、代わりに少し哀れんだ顔であたしを見た。
「杏……」
「なによ?」
「あなた……もう少し字はきれいに書いた方が良いわよ?送る相手が男の子だったら、なおさらね」
「余計なお世話よっ」
そういいながら、あたしは傍にあった枕を手加減することなく思いっきりブン投げてやった。
おっと、とか言いながら部屋から出際のドアでガードしたお母さんは、最後にあたしにアッカンベーをして、今度こそ本当に部屋から出て行った。
……バレてたか。
とりあえず、爽やかな朝は迎えられなかったから、半ば自棄で2度寝をしようとベッドに倒れこもうとしたあたしの耳に、とんでもない台詞が飛び込んできた。
『拝啓。朋也、元気にしてる?あたしはあんたのおかげで―――』
キャ――――――っ!!!
「起きる起きる起きる起きる起きるからぁーーーーーーっ!」
お母さんってば、手紙の内容、もしかして覚えてるっ!!?起きるという意思表示をお母さんに伝えると、内容はそこでぴたりと止まった。
さっさと支度をしないと、あたしの精神が危うい。下手にダラダラと準備をしようものなら、手紙の続きがお母さんの口から漏れそうだった。
そんなわけで、これ以上の内容の流出を避けるべく、あたしは自分でも信じられないくらいのスピードで身支度をして、リビングへと飛び込んだ。
多分、自己ベストをマークしたんじゃないかしらね?
そんなこんなで自己新でリビングに赴くと、そこには双子の片割れの椋だけが食後のお茶をすすっていた。
椋はあたしがリビングに行ってきたのを見つけると「お姉ちゃんおはよう」と微笑んだ。
「おはよう」あたしもそれだけ返す。
「お姉ちゃん、朋也くんに手紙だすんだね」
「ん、まぁ……ね?なんとなく、こういうのもありかなって思って」
あれだけはっきりとした音量で手紙の内容を喋り歩けば、バレるもクソも無いわよね。
なんとなく……とは答えたけど、本当はそれだけじゃない。実はひとつだけ種を植えてある。
朋也がそれに気付いてくれればいいんだけど、果たして気付いてくれるかしら?
それは、手紙の一番下に残した、数桁の番号の羅列。
「あたしも勝平さんに手紙だそうかな……」
「誰、それ?」
「えっ、あっ、…………うん。最近、ちょっと気になってる、人」
本当はこんなこと、いくら身内でも言うのは恥ずかしいはずだ。それなのに椋は教えてくれた。
あたしと朋也に気遣ってくれているんだろう。本来だったらあたし達の方が椋に気を使ってあげなきゃいけないはずなのに……
「そっか。で、どうなのよ、その人は?」
「うん……カッコいいよ、朋也くんより」
「ほっほ〜ん、言ってくれるじゃない?人の彼氏に向かってさ」
「うん、でも本当にそう思ってるから」
そんなことを言ってくれる椋はホントにかわいくて、少しだけ、まぶしく見えた。
そっか、椋はもう次に向かって歩き出したんだ。……うん、幸せになろうね、みんな、みんな。
よっし、そうと決まればあたしも椋に負けないくらい、朋也ともっといい恋をしないとねっ。
椋と話し込んでいてすっかり忘れていたけど、さっきっからお父さんの姿が見えない。
お母さんの方は台所で食器を洗ってるのはここからでも丸見えだから、解るんだけどね。
「そういえば、お父さんは?」
「お父さんは車を回してる、お母さんは朝ごはんの片づけしてるよ」
「観れば解るって。あっ、そういえば、あたしの朝ごはんは!?」
「あ、それなら大丈夫だよ、お母さん、残ったご飯でおにぎり握ってたから、それを食べれば」
「ホントに?よかったぁ〜」
台所を見てみると、確かにサランラップに包まれたおにぎりがいくつか。車の中で食べるようよね、あれは。
でもとりあえず思わず安心してしまう。せっかく自己ベストをマークしたて言うのにご飯も食べられないんじゃ、折角の努力も浮かばれない。
一個だけ食べる許可を貰ってサランラップを剥がしておにぎりをほうばる。具は……梅っ。
そんなあたしの一連の様子を見て、椋はクスクスと笑っていた。すると、噂をすればなんとやらか、玄関の扉が開いて、さっき話に出たお父さんの声が聴こえてきた。
「おーい、車、前に回したぞー。早くきなさーい」
「「「はーい」」」
リビングであたしと椋が、台所の方でお母さんがそれぞれに返事をする。
お父さんをあんまり待たせるわけにもいかないから、あたしは椋にお父さんの相手を頼んで、その間にお母さんの手伝いをする。
流石に、3泊4日の旅行で流し台に食器を置いておくわけにも行かない。あたしは一人で食器を拭いているお母さんの援護に回り、食器を元の場所に戻す。
もともと朝ごはんだから、それほど食器は多くなかったけど、やっぱり二人でやれば、それだけ時間も短縮できる。
最後の食器を元に戻したところで、お母さんが静かにあたしに言ってきた。
「ねぇ杏」
「なに?」
「あんた達、ちゃんと幸せになりなさいよ?」
さっきのリビングでのあたしと椋の会話を聴いていたのは解る。
でも、今の台詞からは、なんていうか……それ以前のこと、つまりはあたしと椋と朋也がどろどろな関係になっていたこと、まで知っているような、そん感じがした。
あの時は3人揃って自分のことでいっぱいいっぱいになってたから解らなかったけど、自分達には解らなくても、傍目には色々と冷静に見られる何かがあったのかもしれない。
そんなことを思わせる口ぶり。それだとしても、この母親の勘のよさには、少々参る。流石は同性にして我が母。侮れず。でも……
「大丈夫。あたしは今、十分幸せだし、椋も幸せになろうっていっぱい努力してるわよ」
「そ。なら、もっと幸せになるよう、努力してちょうだい」
「うんっ」
あたしは幸せいっぱいの笑みでお母さんに返事をしてみせる。
その返事にお母さんも納得してくれたらしく、笑顔で「よしっ」と言って
「ほらほら、さっさといくわよ。お父さん待たせると五月蝿いんだから」
「おかーさーんっ、杏ーっ」
「ほら」
そうしてお父さんにせかされるようにして大急ぎで玄関に向かう。勿論、葉書は忘れずにもって。
車に家族一同が揃う。車に乗り込んで、目的地へと、いざ発進。カーステからはFMラジオのDJが今日のお天気だのトラフィックジャムを伝えていた。
いったんすぐ近くのポストによってもらい、葉書を投函した。ちょっとの期待と、おんなじくらいの不安、それから小さく、願いを込めて。
車は再び、目的地に向かって、発進した。
つづく
---あとがき---
ツルツルツルーっと書けたまではよかったんですが、そこからが問題な作品でした。なんていうか……普段の作品よかいまいち納得いかんのですよねぇ〜。
どうすればよかったのやれ、ご指摘等々待っております。甘くもなければなんでもねぇ話ですが、たまには、と言うことで、ひとつ……
なんでもない話ですが、何気に気に入ってます、実は。っていうか、藤林母ちゃんがステキなキャラになりました。こーゆーキャラ、私大好き。
それでは、ホントになんでもない話で申し訳ありませんが、読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
(05/05/01)
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