満月衛星。
ss
- ポジティブ・メイカー 前編
『ポジティブ・メイカー 前編』
「ほんわぁ〜」
「…………」
「ほわわわわわぁ〜」
「…………」
ぶっちゃけどうよ、この状態?
俺と風子は今、古河の家の近くの公園のブランコに乗っている。
いや、別段乗ってるだけならそれはそれでいいんだよ。ただ、シチュエーションに問題があった。
問題その1 『風子がトランスしてる』
問題その2 『悪戯ができない』
問題その3 『風子が乗ってるのはブランコに乗った俺の膝の上。ろくに動けない、という理由により問題その2に突き当たる』
問題その1とその2にはまぁ目を瞑ろう。瞑ろうじゃないのよ。ああ瞑るともさ。
だがしかしだなぁ、3つ目の問題。これ、問題。凄く問題。大問題、ビッグ問題、ビッグプロブレム。 ……一回言えばいいじゃんな。
ちなみに、こんな状態の風子に、是非とも悪戯を仕掛けてやりたかったのだが出来なくなってしまったのは、以下のようなやり取りがあったためだ。
「しかし、デートしようつってくるのが公園か……」
「岡崎さんは公園は嫌いですか?本来だったらビリヤードとかを嗜みたかった風子が、岡崎さんに合わせたデートスポットを選んであげたのですが」
半分くらい引き摺られるようにして連れてこられたのが、ここだった。「滅茶苦茶お前の趣味だろう」とはあえて言わない。
ま、公園が嫌いなわけでもないし。それに俺に場所を選べといわれたって、選べないし。
おまけに何処と無くウキウキとした表情の風子に、「公園は嫌いですか?」なんて言われてしまえば、「嫌いです」なんて台詞は、仮に本音だったとしても言えない。
こういう嬉しそうな表情の風子に、俺はそこはかとなく弱かった。
「嫌いじゃないけどさ」
「何か言いたい事でもありますか?」
「あー、お前って、ほんとガキな」
「いきなり何を言うんですかっ!岡崎さん失礼です。プチ最悪ですっ。風子これでもご近所では有名なくらいに大人びた子です。オードリー・ヘッブバーンも裸足で逃げ出すくらいですっ」
「そーかよ」
「そのあまりの子供っぽさにか?」と言う茶々が喉元まででかかったが、すんのところで腹に戻す。アブねぇアブねぇ。
あさっての方向に顔を向けつつ、目だけを風子の方に向けて見ると、風子はじーっと俺を見ていた。
「…………」
「……なんだよ?」
やはり、じぃーっと俺を見ていた風子が、不意に
「……風子大人の女ですから、大人っぽく岡崎さんの上に乗ってあげます。岡崎さんを大人の魅力でノックアウトさせるのですっ」
とか抜かしやがった。まぁ、大人っぽい云々は別にしても、彼女を膝の上に乗せるって言うシチュエーションについては、ノックアウトされなくも無い、むしろされそうだった。
だが、それからブランコに乗った俺の上に「プチ最悪ですっ」とか抜かしながらまたがり(じゃあ乗るなよな……)秋の陽気に当てられたのが、上記会話の約1分後。
それからまったりすること数秒、風子が逝ってしまわれた……
「さて、どうすっかね?」
一人ゴチにそんなことを呟く。
古河が居ればひとっ走り早苗さんのパンを買ってきてもらって、こいつの口に突っ込んでやるところなのだが、非常に残念なことに今は居ない。
早苗さんのパンをこいつに突っ込んだ時のこいつのリアクションを想像するだけで……
ゲラゲラゲラゲラ、ああ〜笑えてくる。
むぅ、勿体無い。
でもなんだかんだ言って……こいつ、かわいいよな。……って言っててはずかしいんだけどさ。
こいつの噂が飛び交い始めるまで、俺はこいつのことを知らないはずで、それなのに、いつの間にやら、しかもこいつと出会う前から、こいつのことが大好きで、かてて加えて、こいつも俺のことを好きだったという。
こんなことってあっていいのだろうか?そう考えると、少しだけ、怖くなった。
でも、風子の顔を見てると、そんな怖さも吹っ飛んでしまう。
そういう凄さが、こいつにはあるんだろうな。
そんなことを考えつつ風子を見ようと顔を下ろす……ってオイッ!?風子が居ねぇ。
変わりにあいつがいつも抱えてる人手が俺の膝の上に鎮座していた。
「風子がヒトデになっちまったぁ〜〜〜〜〜っ!!!……ってそんなワケあるかっ」
とりあえず、べたにひとりボケ、ツッコミを繰り広げたところで冷静に帰る。
どうやらボーっとしちまったらしい。風子が俺を、って言うかヒトデを置いていくとも思えないので、近くに居るはずだ。
辺りをキョロキョロと見回していると、不意に後ろの草むらから声が聴こえた。
「風子、ヒトデになりました」
「…………」
いや、明らかに声はヒトデからじゃなくて、後ろの草むらから聴こえてきてるんだけどな。
「風子、ヒトデになりました」
再び後ろから声が聴こえる。なにやら俺をからかって遊びたいらしい。……んにゃろめ。
が、種と仕掛けが解った悪戯ほど滑稽なものはない。しかも本人が気付いていないところがさらに滑稽である。
……むっ、ひょっとしてこれはチャンスか?逆手にとって美味いことからかい返して差し上げましょ。
「なんだとぅ!?風子がヒトデにぃっ!!!?」
「ハイ。ときどき変身するんです」
我ながらなんとわざとらしい演技か。
そう思わずに入られなかったが、風子には子のオーバーアクションな過剰演技でも通じたらしい。
操りやすいぞ、マイ彼女。
「そいつは知らなかったっ!!で、変身する時はなんか呪文とかあるのか?」
「あります」
「なんつって変身するんだ?」
「そ、それはですね……」
勢いで あります、なんていっちまったのだろう。ポロリとボロができた。ボロの出た悪戯ってのは突っつくだけで崩れる崩れる。
変身呪文なんて考えていなかったであろう風子はしどろもどろになりながら、う〜んう〜ん、と必死に変身呪文を考えていた。
が、しばらくして諦めたらしい。
「そんな野暮なことを聴く岡崎さんはプチ最悪ですっ」
「逆ギレするなよな」
「風子大人ですから、そんな子供っぽいことはしません。むしろクレバーさで相手の冷静さを失わせていると近所でも有名です」
「さよか。で、結局、呪文ってなんだったんだ?」
そういえば、気が付くとヒトデに話すのがめんどくさくなって草むらの方を向いて話してんだけど、風子はそのことに気付いていない。
クレバーね、クレバー……どこがだ?
「そ、それは……さっき言いました」
「もう一回教えてくれるか?」
「一回言ったので、もうお教えできません」
「大人だったら教えてくれると思うんだけどなぁ〜」
「岡崎さんはプチ最悪ですっ、です」
「大人」ってとこを必要以上に強調して言ってみたら、ホシはあっさりとゲロしたよ。
しっかし彼氏がショックを受けるような呪文だなそりゃ。
「ところで風子?」
「なんでしょうか?」
「さっきっから呪文を唱えてるのに、変身しないのは何でだろうな?」
「……気付きませんでしたっ!!っていうかもしかして風子、はめられましたか!?」
「結構バッチリな」
「ん〜、最悪ですっ」
「解ったから、とりあえず出てこいな」
そういって俺は風子が居る辺りの草むらを見下ろした。おっ、風子発見。
「よっ」
「わっ、おまけに風子、見つかってしまいました。」
発見した風子に軽く手を上げて声をかける。草むらにうずくまっている風子は、どこかバツが悪そうだった。
なんていうか……こんな格好もかわいいとか思っちまってる自分は、もしかしなくても、そこはかとなくアホな子なんだろな。
「で、風子」
「なんでしょう?」
「出てこないのか」
「なんとなく出にくくなってしまいました。」
「だろうな」
悪戯しようとして失敗して、あまつさえ隠れていた場所まであっさりと見つかれば、そりゃバツも悪くなるだろう。
「そんなわけで岡崎さん」
「あん?」
「責任をとって風子をここから出してください」
「責任ですか?」
「責任です」
「はぁ……、解った」
一溜息吐いて風子の脇に手を回す。そのまま力を入れて、おいっしょっ、と持ち上げる。むっ、こいつちと重いぞ?
「わっ、わっ、視界が高いです」
「そか、そりゃよかったな」
正直風子が重かったので、長々と持ち上げて入られない。俺はいったん風子を引き上げるとすぐに下ろした。
「あ、視界が戻ってしまいました。もうお終いですか?」
「また今度な」
「……ハイ」
そう笑顔で素直に答えられてしまうと、ちょっと罪悪感がなくも無い。
今度またやってやるか、とか考えつつもその罪悪感を打ち消すように、俺は話を一番最初に戻すことにした。
「ところで、お前はなんだって草むらに隠れて悪戯をしようなんて考えたんだ?」
「岡崎さんがボーっとして風子の呼びかけに答えなかったからです。岡崎さんは普段からボーっとしすぎです。風子のようにシャキッとしてください」
「…………」
「岡崎さん?」
風子にボーっとしていることを指摘されて、あまつさえ悪戯までされかけた……
「ショックですっ」
「わっ、いきなり叫ばないでください。ビックリします」
「でら最悪ですっ」
「おまけに訳のわからない枕詞までつきました。もぉ〜風子、わけわかりませんっ」
そんなこんなで、二人揃ってしばらく公園でパニックを起こしてしまった。
まさしくアホな子カップルだな、俺ら。
……でら最悪ですっ。
つづく
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