満月衛星。-ss-あなたの、ぬくもり 満月衛星。 ss - あなたの、ぬくもり

『あなたの、ぬくもり』

 お盆前日。あたしはいつもの様に朋也と駅前のバーガーショップで待ち合わせをして、朋也のお昼時の朝ごはんに付き合っていた。
 あたしがつくりに行っても良いんだけど、朋也はなぜか断り続けている。理由についても「いつかちゃんと話すから」と言われて打ち切られてしまう。
 あたしはその言葉を信じるだけだった。

「ところでさ、明日から盆だろ?お前ンとこはどうするんだ?」
「あたしの家?ウチは毎年恒例。お祖父さんのところに遊びに行ってお墓参り」
「そか」
「だから明日からしばらく逢えないわ。あんたんとこは?」
「俺ンとこも例年通り、春原の家に入り浸ってる」
「なにそれ?例年って言うよりもいつも通りじゃない」
「ま、そういうこった」
「両親の実家には帰らないの?」
「ま、色々と……あってな」

 その「色々」と言う言葉にどれだけのものが込められているのだろう。朋也の声のトーンは少し暗かった。
 そんな朋也の暗い部分を、あたしは照らしてあげたかった。
 光になろう、なんておこがましいことは思わないけど、せめて小さな明かりでも持って一緒に歩けたらなって思う。

 朋也がズコーッとかいう音を立てながらコーヒーをストローで飲む姿を見ながら、あたしは時間を潰した。
 朋也の食事をしてる姿がちょっとかわいいと思ってしまったのは、ちょっとしたあたしの秘密。

 それからあたし達は近くのゲーセンに入って、UFOキャッチャーで大きな有名ピーグル犬を吊り上げようとしてみたり、商店街でウィンドショッピングをしたりと学生カップルらしいことをして時間を過ごした。



 もう夏だってのに、太陽は地面すれすれ。それだけもう遅い時間だってことなんでしょうね。
 町を染める赤が、ちょっとだけ怖かった。

「時間経つの早いな」
「そうね」
「明日からか……何泊だ?」
「3泊。4日目は朝早くに向こうを出るから、昼過ぎには戻ってくるわよ」
「そか、じゃあ帰ったら連絡くれよ。」
「はじめっからそのつもり」
「ん。……それにしても長いな」

 別れ際、苦笑しながらそう漏らすともやに釣られて、あたしも苦笑交じりに返事をする。
 3日、たった3日だ。たった3日だから大丈夫。あたしはそう自分に言い聞かせて、朋也を観た。朋也もあたしを観ている。
 夕焼けが朋也も赤に染めてしまうのが、またちょっとだけ、怖かった。

「ねぇ朋也、ギュッてして好い?」
「珍しいな。いつもはいきなり飛びついてくるくせに」
「いいでしょ別に」

 そういってあたしはプイッと顔を背けた。
 全てを染める夕焼けの赤と、たっただけど3日間逢えないって言う不安があたしを寂しくさせた。そんなことは、勿論いわない。
 でも、いきなり飛びつくんじゃなくて、声を聴いてから、抱きしめたかった。声で存在を確かめてから、体で朋也を感じたかった。

 「いいよ」

 いきなりそういわれて、あたしはバランスを崩す。朋也に腕を引っ張られたからだ。
 そのままあたしは朋也の腕の中に納まる。

「これでいいか」
「うん……」

 それだけ返事してあたしも朋也の背中に腕を回す。
 夏の暑さのせいで朋也のシャツは汗ばんでいて、少しだけ気持ち悪かったけど、今はそんなことは関係ない。
 重要なのは、朋也のぬくもりを感じられるって言うこと。
 ゆっくりと、呼吸するみたいに朋也を感じて、あたし達はようやっと体を離した。

「へへぇ〜、朋也パワー充電完了。これで明日から元気に旅行に行ってこれるわ」
「なんだその怪しげ極まりないエネルギーは」
「失礼ね。朋也パワーはあんたから供給される、あたしの人生における重要なエネルギーなんだからね」
「そりゃすげぇな」
「あぁ〜、信じてないわね」
「信じてないわけじゃねぇよ。それよか杏」

 こらこら彼氏。彼女の重要なエネルギーについての真偽を「それよか」でひとまず置かないでくれる?
 あたしは不機嫌を装って「なによ?」と聞き返した。すると朋也は

「今度は俺からギュッてしていいか?」
「なんでよ?」
「俺も杏パワーの充電」
「へっ?」

 間抜けな聞き返しをしてしまったあたしに、朋也はもう一回言ってくれた。

「だから、俺も杏パワーの充電」
「あんた、さっきあたしが充電してる最中にしなかったの?」
「今存在を知ったからな。知ったからには俺もめいっぱい充電したい」

 「仕方ないわねぇ〜」と言って今度は思いっきり朋也に飛びついてやった。
 ギュッて抱きついて、思いっきりあたしの大好きって気持ちを朋也に注ぐ。
 ついでにもう一回朋也のぬくもりを感じながら、自分に朋也パワーを充電した。今度は朋也もあたしを好きな気持ちを注いでくれますように……

「杏」
「なに?」

 耳元でささやく朋也の声が、ちょっとだけくすぐったい。

「いってらっしゃい。気をつけてな」
「……うんっ、いってきます。」

 嬉しくなって顔を上げて朋也の顔を見る。そして思いっきり満面の笑みであたしは答えた。そして、

「お土産、楽しみにしてなさいよっ」

 といって朋也から体を離し、右手で銃を形作って片目を瞑り、朋也を狙う。Bang!

「ああ、楽しみにしてる」

 朋也は答えて小さく「やられたっ」ってジェスチャーをしてくれた。
 そしてあたし達は互いの家路――朋也はたぶん陽平の所でしょうけど――についた。

 あたしは帰る道すがら、朋也のぬくもりを思い出しては一人で照れていた。
 朋也も同じように感じてくれてればいいなぁ〜とか考えながら……







つづく














---あとがき---
シリーズっぽいものになりそうです。
続きっぽいものを、今現在(05/04/18現在)作っております。
っていうか、長くなりそうだから切ったっていうだけなんですけどね。
切った……っていうのも少し御幣があるんですが、まぁ大体そんな感じ。

少々二人のキャラが変わってる気がしますが、その辺は気にしない方向でひとつ……

まぁまぁ、兎にも角にもここまで読んでくださった皆様に、沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。
ではまた〜
(05/04/18)

感想なんかをメールBBSにいただけると、嬉しく思いますよ。
是非とも、おひとつ……

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