満月衛星。-ss-眠い日のこと 満月衛星。 ss - 眠い日のこと

『眠い日のこと』

 その日は朝から眠かった。理由? んなもん知るかっ、眠かったんだから仕方がない。
 授業を聴く気はさらさらなくて、かといって教師の声を子守唄に寝るのにもいささか飽きた。と、言うわけで、受ける気のない授業をサボって教室から飛び出した。
 もっとも、実際は眠かったから背中を丸めて、とてとてー、がらがらー、がらがらー、といういかにもやる気のない音と共に教室を出たんだから、飛び出したというよりは単に教室を出た、って言う方が正解なんだけどな。
 まぁその辺は深く気にするな、言ってみたかっただけだ。そんなわけで教室を出て資料室へと俺は足を向けた。



 トイレで適当に時間をつぶしてから資料室に入ると、授業が始まったおかげで宮沢はいなかった。
 きっとさっきまでここに居てやつらの相手をしていたに違いない。
 ちっ。
 何故か湧き上がる不満に舌打ちしつつ、こんなことをしに来たんじゃなかったと思い直してその辺に適当に寝っ転がる。
 所詮地面、寝心地は最悪だったが、朝からやまない眠気とここの主が残していった雰囲気のような物が、俺を眠らせてくれた。



 目が覚めると、見慣れない天井がそこにあって、ああそういえば資料室で寝てたんだっけとさっきまでのことを思い出した。
 あぁ、今何時だ? そう思って時計を見ようとすると、左腕が重いことに今更ながら気がついた。
 なにごとかと思って腕の重みの原因を確かめて、俺は思わず固まってしまった。
 たまげたってのはきっとこういう時に使うんだろう。
 魂消たと書いてたまげたと読むわけだが、文字通り魂が消えるかと思ったのはここ最近でも何度かある。けどこれは今までの最上級だと思う。

 宮沢が俺の腕枕で寝ていた。

 膝枕するよりも圧倒的に顔が近い。無防備すぎる寝顔が色々な意味で怖い。シャンプーの匂いだろうか、甘い匂いで頭がクラクラする。
 だがここで凄いことになっちゃったら、後々とんでもないことになりかねない。理性を総動員させて欲望を押さえ込む。
 起こしたいような、でも宮沢に甘えてもいいとかほざいたの俺だし、って言うかそれ以前にずっとこのままで居たい。
 どっちかって言うと、今は俺が甘えたい。

 いやダメだダメだダメだダメだっ!!

 耐えろ。
 耐えるんだ俺っ!
 耐えて耐えて耐え抜くんだっ!!

 そうだ、俺は元々ここに何しに来たんだっ?
 昼寝しに来たんだろっ?
 そう考えて眼を瞑ると、それが返って不味かった。目で見えない分頭の中で変な妄想が広がる。妄想広がるの止めいっ!!
 っていうか寝てくれっ、寝ろよっ、むしろ寝ちまえっ、頼むから寝てくれよ俺っ!!
 お願いだから寝てくれよぅ〜

 ………………

 …………

 ……


 ぐぅ……



「朋也さんの寝顔、かわいかったですよ」
 結局、日が沈むまで俺と宮沢は起きなかった。正確には、宮沢は起きていたから、寝ていたのは俺だけということになる。
「嬉しくねぇなぁ。って言うか起きたんだったら俺も一緒に起こしてくれよ」
「そうしたら朋也さんの寝顔が見れなくなっちゃいますから」
「さいですか。つーか男の寝顔なんて見てて楽しいか?」
「楽しいですよ。朋也さんの寝顔ですから」
「…………」
 黙りこんだ俺の顔を覗き込む宮沢はどこか嬉しそうで、じゃれ付いてくる猫を想像させた。
「あ、照れちゃいました? 照れた顔もかわいいですよ」
「……今日は俺をいじめる日か?」
「いいえ、朋也さんの困った顔が見たい日です」
「あんまり嬉しくない日だな。逆に宮沢の困った顔が見たい日だったら嬉しいかもしれないが」
「それはまた今度で」
 笑顔でかわされてしまった。相変わらず猫を連想させる今日の宮沢が俺を見て言った。
「ところで朋也さん、今からまた甘えてもいいですか?」
「さっきまで十分に甘えてたのにか?」
「ハイ」
 そうも笑顔ではっきりと返事されてしまうと断れない。
「そうか。で、なに?」
 とだけ返した俺に、宮沢は少しはにかんで
「校門のところまででいいです、腕を組んでもいいですか?」
 といってきた。こうも視界良好な暗闇だと後が物凄く怖かったが宮沢が居る間は少なくとも安全だろうと踏んで、俺はそっと腕を差し出した。
「ありがとうございます」
 ぱぁっと日が差したような笑顔と礼を俺に向けて腕を絡ませる。
 絡めた腕から伝わってくるぬくもりを離すのが嫌で、宮沢に合わせていた速さをさらに緩めた。
 どうかしましたか? と首を傾げて見上げる宮沢に
「腕絡めると歩きにくいからさ」
 と答えた。
「そうですね」
 と返事した宮沢は苦笑していて、なんだかとてもこっぱずかしくなってしまった。



 宮沢と別れて春原の部屋に行くと、体中包帯でグルグル巻きに去れたミイラ男がベッドの上で寝ていた。
 俺がいつもの場所に落ち着くと、ミイラ男はガチガチと震えながら口を開く。よほど怖い目にあったらしい。
「ねぇ岡崎、骨ってさ、ありえない方向に曲がるんだ。知ってた?」
 知らない。断じて知らない。おまえが誰だかも知らないし、そんな事実を知る予定は俺にはない。
 あ〜あ、春原のやつ、どこ言ったんだろうなぁ。まぁ別に帰ってこなくてもいいけど。
「あんたの目の前に居ますからねぇっ」
 おまえ、春原か。なにがあったか知らないけど、ご苦労さん。
「……岡崎ってさ、絶対人生ミシン糸で綱渡りしてるよね」
 動くのも億劫らしく、寝たまま喋るミイラ男は、数分後には気を失っていた。
 どうやら今一番に考えなくちゃいけないのは、明日からどうやって安全にすごすか、ということらしい。
 考えたくねぇーっ!!



 ……寝るか。








おわり







---あとがき---
 頑張って書いた作品、頑張った割には浮かばれなかった作品でもあります。
 色々言いたいことはあるんだけど、まぁなんていうか……ゴメンよ、とSSに謝りたい気分なのです。
 ゴメンよ。

 それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/09/11)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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