満月衛星。-ss-朋也くんとメイドさん達 〜はーりぃめいどふぃっしゅ編〜 満月衛星。 ss - 朋也くんとメイドさん達 〜〜

 それは、いつもの放課後のことだった。久しぶりにことみと一緒に部室へと向かっていた時のことだ。

「この間ね、くまの人形の型紙を見つけてきたの」
「商店街でか?」
「うん。それでね、あの子にも家族を作ってあげたいなって思ったの」
「そうだな。それじゃあ、早速今からでも買いに行ってみるか?」
「ううん、品物はいっぱいあったから、慌てなくても大丈夫。それに今はみんなで一緒に過ごすのが楽しいから、ちょっとだけ、あの子には我慢してもらうの」

 やわらかく笑いながら言ったことみに俺は、わかったとだけ返事をしてことみの手を握った。気分は校内プチデートだった。
 一瞬帰りがけに商店街で買ってことみを驚かせようかとも考えたが、折角一緒に買い物に行くチャンスができたんだ、むざむざそれを不意にすることもない。

「事情はよっくわかったわ。今週末は商店街で買い物ね」
「……杏、てんめぇどっから現れやがった」
「ほーほほのほー、『そうだな。それじゃあ、早速今からでも買いに行ってみるか?』の辺りからよっ」

 声色真似るだけじゃなくて顔まで真似るな。おまけにそれって話が人形の話題に移ってすぐじゃねぇか。なんで気付かなかったんだ、俺。

「おはよう、ことみちゃん、それから岡崎」と智代。
「ことみちゃん岡崎さん、おはようございます」と、これは古河。
「こんにちはことみちゃん。岡崎くんはさっきぶりです」これ藤林な。

 ……結局全員雁首そろえて揃ってるでやんの。そんなことはどーでもよしと「みんなおはよう」と挨拶することみ。俺もそれにあわせて彼女たちに挨拶を返す。
 それにしても、なんでこんだけ人数いて気付かなかったんだ、ますます疑問だぞ、俺。チクショー、なんていうか、駄々漏れしてたのか、さっきの会話。おっそろしく恥ずかしいぞ。オイ。
 この間までがこの間までだっただけに、その反動が来てるんだろうか? いい加減ことみばっかりに意識が行き過ぎるのもヤバイな。いや、彼女に意識が行くことはぜんぜん悪いことじゃないんじゃないか?
 そんなこんなをあーだこーだ考えていると、チョンチョン、チョンチョンと制服の後ろを引っ張られた。

「あん?」

 くる→りと首を180度後ろに向けると、そこには見知らぬ女の子がオドオドした様子で立っていた。
 ……それも、メイド服で。

「お、おい、そのメイド服、どこで見つけてきたんだ?」恐る恐る聞く俺。
「あの、これ、貰ってくれませんか?」


 相手は全く聴いちゃいなかった。それどころか、そいつはどこから取り出したのか、なにやら木製の星型の何かを俺に差し出して言った。

「なんだこりゃ?」
「これですかっ」

 さっきのオドオドした様子はどこへやれ、パッと嬉しそうな顔をして女の子が勢い良く迫ってきた。
 思わず身を引いて返事をする。

「ああ、それ」
「これは……大好きな、ですね……」

 台詞を最後まで言うことなく、そいつはほわぁ〜んとした表情になる。……どうやらステキな夢想の世界へと旅立っていったらしい。
 なんなんだ、いったい。


『朋也くんとメイドさん達 〜はーりぃめいどふぃっしゅ編〜』


 とりあえず、意識がどっかにイっちまったらしいメイド服の女の子を演劇部室まで拉致った。拉致ったは良いが……どーしよう?

「そりゃあんた、どーするもこーするも……記憶飛ばしたりとか?」
「春原じゃないからな、辞書ブン投げてどうこうなんて、考えるなよ?」
「しないわよそんなこと」

 まるでアホの子を見るような目で見やがるよ、このメイド長。ホント、ご主人様って単語、意味を成さないよな、ここ。
 全員着替え終わった演劇部室で、額を寄せ合って緊急会談を開く。
 黒板にはでかでかと議題が書かれている。ちなみに議題は「この子どこの子誰なのよ?」だとさ。命名はメイド長である。こいつ、意外とセンスねぇよな。

「なんか言った?」
「なんも」

 笑顔が怖いったらありゃしない。余計なことを口に出す前にさっさと本題を切り出すことにする。

「で、こいつはいったい何物なのかね?」
「うちの学年じゃ見たことないわね」と杏。
「うちの学年もだ」智代も続く。
「と、言うことは一年生?」
「そう言うことになるんじゃないか?」

 ことみの考察に相槌を打つ。見てくれなんかは、さらに下の学校を思わせる。ただ、実際そうだったら、この学校のセキュリティに激しく疑問を抱かずにはいられない。でもまぁ、裏庭の窓の鍵がぶっ壊れてても気づかない学校だからなぁ、意外と何でもできそうだ。

「ちっちゃくてかわいいです」
「それにメイド服、とっても似合ってます」
「まぁどっちかって言うと着てるって言うよりも、着せられてるって感じがするわねぇ」

 なにやら的外れな感想をくれる古河と藤林の話題に杏も乗っかる。まぁ確かに、と女の子を見てみる。
 サイズは微妙に合ってないらしく少しダブついてる。それがこの子の小ささを際立てるのに一役買っていて、ただそれが別に違和感無いのだから、メイド服ってのは偉大なコスチュームだ。

「素直に似合ってるって言いなさいよ」
「人の心を読むなっつーの」
「ご主人様はすぐに顔に出るのよ」
「??? ご主人様、考えてること顔に出るの? タオルいる?」
「いや、そーゆー意味じゃないからな」
「そうよ、それに朋也にタオルが必要だったら、ことみに用意するのは洗面用具一式ってことになっちゃうわよ」
「ことみちゃんも、そんなに考えていることが顔に出るのか?」
「そりゃあもぉ、出るわよぉ〜。分かり安すぎてこっちが恥ずかしくなるくらいにね」

 ニヤリと杏に怪しい笑みを向けられたことみは、メイド服のすそであわてて顔をごしごしとぬぐった。ンなことしたって何も書いてないからな。のっぺらぼうにすらなれやしないぞ。
 ……しかし可愛いな、ちくしょー。

「かわいいな」

 智代の呟きに、かわいいでしょ? と杏が嬉しそうに笑って答えた、俺たちをみて。……ちくしょー。
 そんなこんなな勢い、別名やぶれかぶれとばかりに、言ってやった。

「あのな、言っとくが、俺の彼女だぞ。お前が自慢してどーする?」
「いいのよ、あたしは。ことみの友達なんだから。それに」
「それに?」
「あたしのおもちゃだし」

 言い切っちゃったよこいつ。人の彼女おもちゃ呼ばわり。すんげぇ堂々としてるし。こうまで堂々とされるとリアクションに困る。

「おもちゃですかっ」
「そうよ。昼も夜もあんなことしたりこんなことしちゃったりすんだから……羨ましいでしょ?」
「羨ましいですっ。風子も一度でいいのでロザリオを渡してお姉さまと呼ばれてみたいですっ」
「ああ、それもいいわね。そしたらあたし妹がひぃふぅみぃよぉで四人できちゃうのね」
「ハーレムですかっ」
「むしろサバトって感じね」
「鯖とバトルですか? 生臭そうですね」
「そうじゃないわよ、サバトってのは……まぁ、やりたい放題ってことよ」
「鯖とやりたい放題ですかっ。えっちですっ」
「ああーっ!! もぉ〜わけがわからんっ!!」

 いきなり杏のセリフに割って入ってきた、これまたいつの間にかどっかの世界からお帰りなさいしてた女の子が杏と繰り広げるわけのわからない世界に、キレた。俺が。ちゃぶ台があったらひっくり返したかったが、生憎とこの場にちゃぶ台はない。後ろじゃ「落ち着いてください、ご主人様。どうどう」と藤林がなだめて俺の袖を引っ張っているが、ンなことも意にかえさずにビッ、と指を指して聴いた。

「大体お前」指を指されたメイド服を着たちびっ子は自分を指して首をかしげる。
「風子ですか?」
「そう、お前だ。お前はいったい何物だ?」

 言ってから気づいた、己のセリフの間抜けっぷりに。何物だて……。後ろじゃ杏が腹を抱えて爆笑してやがる。ああ〜、こっぱずかしい。
 そんなこっぱづかしいセリフもなんのその。残りのボケ専少女帯は真面目にお前何者だの質問に賛同している。……誰かツッコミを入れてくれ、お願い。
 俺の願いも虚しく、風子と名乗ったちびっ子は真面目な顔で答えた。つくづく、神様って居ないよな、と思う。

「風子は……この世に愛と癒しとこの子達を届けに天から舞い降りた、今世紀最後のメイドさんですっ」
「いや、今世紀って、まだ始まったばっかりだからな、今世紀。ついでに言えば、メイドさん、ここにもごっそりと転がってるぞ」
「ニセモノですっ」
「バッサリ切られちゃったわね」と杏。
「風子ちゃん、いじめっ子?」これはことみ。いや、別に本人はいじめのつもりで言ったわけじゃないと思うぞ。思ったことをそのまま言っただけで、それはそれで性質が悪いが。
「確かに、本物のメイドではないな、我々は」と智代。

 ごもっともだ。だが、それ以前の問題も残ってる。

「お前もニセモノだろ?」

 どー考えたってさっき本人が言っていたセリフは胡散臭い。そもそもデマにしか聞こえないしな。あのセリフに真実を見出せって方が無茶だ。

「そんなことありません。風子は本物の愛と勇気だけが友達な、この世に舞い降りた今世紀最初のメイドさんです」
「うわぁ〜、言い切っちゃったわよ、この子」と、あっけにとられてる杏。
「おまけにさっきと言ってることが微妙に違うしな」唖然と呆れる俺。
「風子ちゃん凄いです、本物のメイドさんなんですね」真面目に感心してる古河。俺はお前の方が凄いと思う。
「それで、風子ちゃんはなんでメイド服を着てるんですか?」

 話しを真面目に受け止めた上で、藤林が訪ねた。

「はい。この服を着ていた方が、みんな受け取ってくれると思いまして」

 おいおい、さっきまでの自分は本物のメイドです発言はどこいった?

「それで、メイド服ですか?」
「ハイ。最近需要があると聞き及びました」

 誰だ、そんなデマ教えたの。と考えて、一人の金髪に考えがいたった。

「春原か……」「陽平ね……」

 どうやらメイド長もおんなじ所に考えがいたったらしい。この学校でそんなことをのた打ち回れるのは、ヤツしか居ない。
 まぁ、着たのは本人の意思だから、それはそれとしておこう。ここで春原をどうしたところで、状況は変わらないしな。

「それで、結局、風子ちゃんは何をしているんだ?」智代の質問に我に帰ったように風子はバタバタし始めた。
「そうでした。風子、こんなとこでこんなことしてる場合じゃありませんでした」
「急いでるのでしたら、手伝いましょうか?」
「いえ、これは風子一人でやらなければいけないことですから」

 差しのべられた古河の手を」きっぱりと断って、風子がいった。どうやら決意は固いらしい。

「なんか話しが前に進んだんだか、元に戻ったんだかわからんが、もう一度聴こう。これは、なんだ?」
「これは、ですね……ステキな…………」

 ま、また、ほんわぁ〜と夢想の世界に旅立ってしまった。何なんだ、こいつは。

「振り出しに戻ったわね」ありゃりゃ、といった顔の杏。
「すごろくのゴール手前で振り出しに戻るのマスに止まった気分だな」少しげんなりとして智代が答える。
「んにゃろ」

 あだち作品風に一つ難しい顔をして、俺は風子をズルズルと押してやる。

「ご主人様、どこに行くの?」
「ちょっとな。まぁ、待ってろよ、すぐに戻るから」
「分かったの」

 そんなこんなでズルズルと風子を押して。某所に設置した。まだ夢想の世界に居る風子を見て、ニヤリと一つ笑みを浮かべて、俺はその場を去った。

 ………………

 …………

 ……

「で、結局ご主人様は、あれから一人で戻ってきたわけだけど、風子をどこにおいてきたのよ?」
「まぁ、もうしばらくしたら分かるだろ」

 ことみが入れてくれた茶をすすりながらのんびりとすること10分間。そろそろだろ。

『わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ』

 遠くの方からステキな悲鳴が聞こえてきた。
 悲鳴は演劇部室の前まで来るとキキーーーーッ!! と言う急ブレーキ音とガラガラーッ!! と扉を開ける共に止まった。

「風子、いつの間にやら男子トイレに居ました。これは一体全体どういうことですか?」
「あんたねぇ〜」

 うちの部のメイドさんたちが、いっせいに納得して、同時に非難めいた視線をよこしてきた。細かいことは気にするなっての。

「いやぁ〜、お前さんが急にぼぉ〜っとして、手に持ったそいつと一緒にどっか行っちまったんで心配したんだが、まさかそんなところにまで言ってるとは思いもしなかった。スマンスマン。以後ボーっとしないように気をつけろよ」
「風子ボーっとなんかしてません。どちらかというと普段から隙がないと近所でもっぱらの評判です」
「あんた、今の今までボォーッとしてたわよ」いい加減ツッコミを入れるのに疲れてきた俺の代わりに杏が答えた。ありがとう、メイド長。
「それはあなたの目が腐ってるだけです」

 あ、ヤバイ、その一言はうかつだぞ、娘っ子。俺はあわてて杏を羽交い絞めして手に持ったその分厚い砲弾を一般女子生徒に向けないように全力で努力した。

「落ち着け、落ち着け杏。それは流石に犯罪だっ」
「うるさいわねっ、あんなこと言われて黙ってるわけにはいかないでしょっ!!」
「分かった、分かったから落ち着けって」

 ……この後、怒り狂った杏と、火にアルコールを注ぐ風子を残り全員で沈めるのに、1時間ほどかかった。
 いい加減疲れた。もぉ〜勘弁してくれ。






おわり







---あとがき---
 久々に書いたメイドさんシリーズがこんなんでいいのかね?
 そろそろシリーズを完結させたい気分だ。さて、どうやって完結させようか?
 いい加減誰も感想くれなくなったことだし。もう……ゴールしてもいいよね? なんつってな。
 (06/10/16)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送