満月衛星。-ss-朋也くんとメイドさん達 〜ンなことパパは許しませんっ編〜 満月衛星。 ss - 朋也くんとメイドさん達 〜ンなことパパは許しませんっ編〜

 それは、休み時間のことだった。いつもどおり重役出勤の春原がカバンをドカッと机の上に置くと、話しかけてきた。

「岡崎ー」
「あん?」
「干支ってさぁ、ねーうしとらうーうーりゅーちーぱー……その次ってなんだっけ?」

 先生、アホの子がここにいます。そしてなぜに途中から中国語?
 この年になってこんなこと言ってくれるこいつは、有る意味貴重だ。そのまま穢れないままでいてくれ。そんな訳で、正解を教えてやろう。

「いーあるさんすー、だ」
「そっか、ねーうしとらうーうーりゅーちーぱーいーあるさんすーだねっ、ありがとっ」
「おう。しかしどうしたいきなり?」
「うーん、なんか急に気になっちゃったんだよね。でもおかげでスッキリしたよ」
「そか、そらよかったな」

 どうやらスッキリしたらしい春原は、そのまま寝の体制に入った。
 ああっ、こちとら寝ずに授業にいようとしてるというのに、こいつがゆうゆうしゃくしゃくと寝入ってるってのがムカつくっ。
 どうしてくれよう……ちっ、もっとデタラメ教えてやればよかった。兎にも角にも、このままじゃ俺がスッキリしないから春原の背中に「私はこの近くで翼を無くした天使です。どなたか見つけた方は、私に教えてください」と書いた紙を春原の背中に貼り付けた。
 よし、少し満足した。まぁ誰も何も指摘しないだろうから、春原がこれに気付いてアホな事を言い出すことを、期待しておこう。


『朋也くんとメイドさん達 〜ンなことパパは許しませんっ編〜』


 春原にデタラメな干支を教えた放課後、今日も今日とてのんびりと演劇部室で過ごしていた。
 委員長やれ生徒会長は集まりがあるらしく、今ここにいない。どっかの教室であれやこれやと論議をしているのだろう。ご苦労なことだ。
 そんなわけで現在の演劇部室には俺とことみとネコミミ部長がいる。古河……律儀なヤツだ。

「杏がいないときくらいネコミミはずせば?」
「いえ……その……」

 顔を紅くしてゴニョゴニョと小さくなっていく部長。何事だと思って古河の顔をうかがっていると、真っ赤な顔で一言、呟いた。

「……ご主人様が、かわいいといってくれたので……」

 ぐをぉぉぉぉぉぉっ、か、かわいい。不覚にも油断をしていたところにザックリツボを突かれてしまった。
 こうやって時々、古河に思いも寄らない攻撃を喰らうわけだが、いい加減抵抗力の付かない自分が世知辛い。
 古河に脳みそヤられてリアクションに困っていると、ドアの方から声をかけられた。

「あんた、彼女ほったからしてなにやってんのよ?」
「あえ? 杏?」
「こんにちはです」と藤林。
「自分には勿体無い彼女をほったらかしとは、感心しないな、岡崎」と智代。

 我に返ってドアの方を向くと、どうやら委員会が終わったらしい藤林姉妹と智代がいた。
 ……ほったらかし? そういえば俺が脳みそヤられてる最中ことみのヤツはどうしてたんだ?
 部室をぐる→りと見渡すと、

「うをっ、ことみ!?」

 部室隅の方でいじけてることみがいた。うわっ、地面にのの字とか書いちゃってるよ。

「いいのいいの、どうせ私なんか、渚ちゃんみたいにかわいくないから」

 おまけにわけのわかること口走ってるし。こうも典型的ないじけ方をストレートにされると、こっちもストレートにフォローするしかなくなる。

「えっ、そんな、私なんか全然かわいくないですっ」

 あぁ、古河もそんな過剰に反応しなくていいからな。

「そうか? 古河は十分女の子らしいしかわいいと思うぞ?」

 フォローありがとう智代。古河のフォローはそのまま智代に任せることにして、俺は自分の彼女の尻拭いをすることにする。
 くっそぉー、てめぇでばら蒔いた種とはいえ、なんともかっこ悪すぎる。

「いや、まぁ確かに古河に脳みそヤられたのは認めるが、だからと言って心変わりしたとかそんなんじゃ全然なくてだな」
「でも、朋也くんお洋服引っ張っても全然反応してくれなかったの」
「う゛……」
「うわっ、サイテー」
「うるせー」

 余計な茶々を入れてきた杏にうるせーとは言ったが、なにやら事実なようなので、それ以上はなんとも言い返せない。
 ああ〜……もうっ、こーゆー時ってのは無駄にこっぱずかしい台詞を本人の前で堂々と言わなきゃならんのが辛い。辛いって言うか、キツイ。
 ボリボリと頭をかいてこっぱずかしいのを誤魔化しながらことみの耳元に顔を近づける。

「ことみ、愛してる」

 うをぉぉぉぉぉぉっ! はっずかしぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!
 恥ずかしいことこの上ない。墓穴があったら入りたい。それくらいにこっぱずかしかった。だが、捨て身で言った台詞だけあって、効果てきめんだった。
 一瞬きょとんとしていたことみが、次の瞬間見る見る顔を紅くしていく。むっ、新鮮な反応だ。そういえば、あんまりこういう台詞、言ったことなかったな、俺。
 よしっ、いっちょ大出血サービスと洒落込むか。

「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる……」

 連呼してみた。
 どんどん紅くなっていくことみが面白くって、ますます連呼しまくってみたらことみの頭から湯気が出てきた。
 そしてボンッ!! という豪快な音と

「きゅぅ〜」

 と目をクルクル回してことみがぶっ倒れた。
 やべっ、調子こいてやりすぎたっ。

「キャーッ、ことみ、ことみっ、大丈夫っ!?」杏が慌てて駆け寄ってきた。
「ことみちゃん、しっかりしてください」藤林も同様に駆け寄ってくる。
「わ、わたし、ハンカチ冷やしてきますっ」と古河。
「待て古河、その格好で出るのは不味いんだろう。私がいこう」
「あ、すっかり忘れてましたっ」
「それなら私も行きます」
「お願いしますっ」

 気が動転してパッツンパッツンになってるメイド服のネコミミ演劇部長古川の変わりに、まだ着替えていない藤林が立ち上がって、同じく制服姿のままの智代と二人で大慌てで出て行った。

「ああ、もぉ、彼氏彼女揃って世話のやけるっ」

 スンマセン。

「ほら、あんたの足にことみの頭乗っけるから、素直に足出す」
「ハイ……」

 全面的に俺が悪いので、素直に足を差し出す。古河が心配そうにことみの顔を覗き込んでいる。
 そのままことみの頭を俺の太ももに乗せると、智代たちが帰ってくるのを待った。


「で、バカップルの彼氏の方、って言うかご主人様」

 杏が口を開いた。あぁ、毎度のように磔の刑だよ。俺は素直に返事をする。

「ハイ……」

 あれから、藤林と智代がぬらしてくれたハンカチをことみの頭に乗せて一応落ち着いた俺たちは、とりあえず着替えようということになり、いつもとは逆に杏と藤林と智代が隣の部屋で着替えることになった。
 ことみが動けない上に俺も足を貸してて動けないから当然といえば当然なのだが、出てく時に三人に真っ白な目で見られてしまった。
 自業自得とはいえ、視線がとってもコールドだったよ。極上に寒かったね。古河もなんと言っていいのか分からなくなったらしく、気まずい雰囲気バリバリで逃げるように隣に行っちゃったからな。

「あらかたこっぱずかしい台詞はいたらことみが面白い反応をしたもんだから調子こいてこうなったんでしょうけど」
「その通りです」
「心底バカね」
「返す言葉もない」

 って言うか返す言葉があったら誰か教えてくれ。
 今思い返してもこっぱずかしい。なんであんな台詞連呼したんだ、若気の至りってのはこーゆー時に感じるものなのか?

「ところでご主人様」

 智代が聴いてきた。

「ハイなんでしょう?」
「ことみになんと言ってこういうことになったんだ?」
「それは……その……」
「あ、それ、わたしも気になりました」と古河。
「私も教えて欲しいです」と藤林も同調する。
「あの、さ、いや、その……たいしたことは、言ってない、です、よ?」

 なぜに疑問系?
 愛してるって言いました。こんなことこいつらの前で素直に白状したら、今度は俺の方が脳みそバーンで気ぃ失っちまう。
 どうにかこうにかお茶を濁してこの場を上手くやり過ごせないもんかと思案をめぐらせてみる。……どーにもならんっ。
 クソ、マジで白状するか? いっそ気を失った方が楽なことも多々あるかもしれないし。人生諦めも肝心だ。
 やっぱ言いたくねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

「どーせ『愛してる』とか言うこっぱずかしい台詞でも真顔で連呼しまくったんでしょ」

 顔真似までせんでいいっ。おまけに大正解だし。今日地雷踏みまくりじゃねぇかよ。

「ありゃ、適当に言ったんだけど、マジで当たりだったのっ?」
「ご主人様は意外に大胆なんだな」

 わぁ、あからさまにバレるような顔をしちまったらしい。杏が驚きながら呆れていた。
 おまけに頬を朱に染めて智代が感心したように言う。感心しないでくれ。こっぱずかしい上にリアクションに困る。
 藤林も同じように顔を真っ赤にしていたが、古河だけは反応が違った。なにやらおかしいらしく、笑っているようだ。

「俺、なんか変なこと言ったか?」
「変ではないと思うぞ、彼女に言う言葉だからな。正直、うらやましいとすら思う」
「だよなぁ?」

 って、だよなぁじゃねぇよ俺っ。
 見ると杏が物凄く呆れた視線を送ってくれている。
 だぁっ、だからその視線やめいっつーのっ。

「あんた、とうとうボケ中毒にでもなった? そんなクサイ台詞を変だと思わない方が変よ」
「お姉ちゃん、それは言いすぎだと思うよ」
「あの、そうじゃないんです。ご主人様、お父さんと同じようなことをしてたので、おかしくなっちゃって」
「古河の、親父さん?」
「はい。お父さんもよくお母さんの機嫌を損ねると、ご主人様と同じことしてます」
「なにそれ、そんなこっぱずかしいことする人間がご主人様以外にもいるの? 世も末ねぇ〜」

 失礼なやっちゃな。おまけに余計なお世話だ。

「そうかな、私は凄く素敵なことだと思うよ?」
「私もそう思う。渚は、お父さんが好きなんだな」
「ハイ。やっぱりご主人様って、お父さんみたいです」

 まぁなんていうか、藤林のフォローは正直ありがたかった。ありがたいんだがそうも素直に笑顔で言われてしまうと、どーにもテレてしまう。
 いや、俺のことを言ってるんじゃないってことはわかっているんだが。智代の言葉にうれしそうにうなずく古河、微笑ましい光景だ。
 おまけになんだか、古河の台詞を聞いていると、どーにも俺のことが好きだという物凄い勘違いを錯覚しそうな気がして怖い。

「あくまで、好きなのは、お父さん、なんだかんね」

 杏にまで釘を刺されてしまった。
 分かってるわいっ。ところで一つ、気になることがある。

「なぁ古河」
「なんでしょう?」
「結構気になるんだが、古河曰く俺と似てるっていうその親父さんって、どんな人なんだ?」

 自分と似てるといわれてしまった以上、どんな人間だか非常に気になる。
 前にも確かにたような台詞を聞いたが、これを機会に聞いておこう。次にいつその件の親父さんが話題に上るかもわからんからな。
 ところが、好きだといった古河が、途端に言葉を詰まらせた。なんと言えばいいのか、非常に言葉を選んでいる様子だ。

「あの……ええっと……なんといいましょうか……」
「そこで言葉に詰まられると、こっちとしても聞きづらいんだが」
「そのっ、悪いお父さんじゃないんです、むしろ好いお父さんです、けど……」
「けど?」

 気絶していることみ以外の三人の声が重なる。
 なんともいえなくなっている古河の次の言葉を待っているとバンッ!と部室のドアを思いっきり開ける音がして

「ちぃっ、俺様としたことが、油断しちまったぜっ」

 と、妙チクリンなことをほざきながらエプロン姿の男が乱入してきた。俺を含め全員が展開に付いて行けず固まっている。
 手にはなにやらおもちゃの銃のようなものを持っている。確か一昔前に流行りそうで結局大して流行らなかった、体感ゲーム型のおもちゃの銃だ。
 扉の外を慎重にうかがいながら、こっちを見て、引いた。……引くな、気持ちは分かるが。

「うをっ、なんだなんだ、メイドさんがいっぱいいるじゃねぇかっ。おまけに一人はうちの娘にそっくりじゃねぇかっ。影武者か? 生き別れの妹か? それとも早苗のパンから発生したクローンか?」
「どれも違いますっ。本物の古河渚ですっ」
「なぁ〜んだ、本物の渚だったのか。早苗のパンから発生した渚だったらどうしようかと一瞬焦っちまったぜ。」

 パンから発生するクローン人間って何だよ、オイ。

「……で、いつの間に俺様専属のメイドになったんだ?」
「いえ、お父さんのメイドさんじゃないんです」
「なぁにぃーーーーーーーーーーっ! そそそそそそそ、それじゃあ、その、俺の渚にごしゅ、ご主人様とか呼ばれちゃってる幸せ者はどこのどいつだっ」

 申し訳なさそうに答える古河に大変なショックを受け手取り乱しているオッサン。
 ……あら? なんか今さっき古河の口から、今しがた上った話題のキーワードが出てきたような気がするんだけれど、気のせいか?
 隣を見れば、藤林も杏も、智代も同じことを思ったのだろう、互いに顔を見合わせている。三人と目が合ってから、一斉に古河と、そのオッサンの方を見る。
 ……お父さん?

「あの、渚?」と杏。
「そちらの方は」と藤林。
「渚のお父さんなのか?」と智代。
「ハイ。お父さんです」
「おうおうなんだなんだ、てめぇ奥手の割りにいつの間にか随分とたくさん友達作ってんじゃねぇか」うれしそうに笑って、オッサンは言った。「やるじゃねぇか」

 なるほど、入ってきてからの奇行に目を奪われていたが、今の表情だけを見れば、確かに父親だと納得できた。
 ところがどっこい、友達を見回そうと智代、藤林、杏と順繰りに来て、俺を見やり、目が合った瞬間、父親らしい表情は一瞬のうちに消えうせ、そこには獰猛とした表情の不良中年の顔になった。

「てんめぇかぁ、うちの渚に『ご主人様』とか呼ばれちゃってるうらやましい野郎は……」
「そだよ、なんか文句あっかよ」
「いい度胸じゃねぇかオイ。おまけにまた別の女の子膝枕しやがって。てめぇ一体なにもんだコラ」

 何者かと聞かれると、返答に困る。ご主人様です、なんぞとは天地がひっくり返っても己の口からは言いたくない。
 おまけに思いっきりメンチ切って来やがった。こちらも負けじと睨み返してやる。鋭い眼光だったが、だからといって目をそらすのも癪に障る。
 今にも襲い掛かってきそうなツラしてやがる。こーゆーおっさんにはまずロー入れてから腹だな。念のため顎にも入れれるようにしとかねぇとな。ってやべっ、俺まだことみを膝枕したままだ。  そんなことを考えていると、俺とオッサンの間に大慌てで古河が割って入った。

「お父さん、御主人様にヒドイことしちゃダメですっ」
「なにーーーーーーっ、渚、お前はお父様よりもこのどこの骨ともわからんフニャチン野郎の方が好いってのかっ!?」
「やーい、フニャチン」

 誰がフニャチンかっ、って言うかそもそも女の子がフニャチン言うな。
 んでもって余計な茶々を入れるなっつーのっ。二人揃ってダイナミック余計なお世話だ。

「そんなことありませんっ、ご主人様は立派ですっ」
「誤解を招くようなことを言うなーーーーーーーーっ!」
「オイ、てめぇ……」
「ちょっと待て、古河とは何もしてないっ」
「いいえ、ご主人様は私にとても優しくしてくれました」

 うれしそうに微笑んで古河が言う。
 いや、あの……ね? そういってくれるのはこっちとしてもうれしいが、こーゆー会話の流れでその台詞を聞かされると、誰もが誤解するんだってことを解って欲しかった。マジで泣き入りそうだよ。
 おかげでオッサン以外から向けられる視線がとってもとっても冷たい。誤解だぁっ。
 凍えそうな視線を受けていると、不意にオッサンが俺の肩に手をかけた。

「ふっ、俺の負けだ。娘のことを頼むぜ」

 なんだこのスポコンみたいな台詞は。大体なぁ、

「だから誤解なんだっつーのっ。そもそも古河と俺は――」
「何も言うな。これ以上俺に恥をかかせんじゃねぇよ、男は何も言わずに立ち去るのみよ。あばよ、坊主」
「おいオッサンっ、人の話を最後まで聴けっ!」

 お手の台詞と手で制すと、ガラガラ、ピシャンッ、とドアを閉めてオッサンは最後まで人の話を聴かずに出ていってしまった。
 頼む……誰か……俺の話を真面目に最後まで聴いてくれ。でなきゃ俺、本気で泣くよ?
 俺が打ちひしがれていると、突然場かでっかい嘆き声が響き渡った。

「娘はもう俺の手を離れてしまったんですねぇーーーーーーーーーーーっ」

 オッサンの声だ。オッサンもオッサンで打ちひしがれていたらしい。だから誤解だっつーのっ。
 そのままドップラー効果を残して、オッサンは廊下を走り去っていったようだ。もぉ〜わけがわかんねぇよ。
 後には未だ伸びていることみと、状況に途中から置いていかれた古河、まだ冷たい視線を送ってくれている3人のメイドさん達が残された。
 この誤解をどーやって解けばいいんだか……。勘弁してくれ。

 ……はぁ〜、厄日だ。








おわり







---あとがき---
 スンマセン。マジでスンマセン。グダグダです。グダグダ過ぎですスンマセン。
 でもこれでいっぱいいっぱいでした。人がいっぱい出てき過ぎて私がいっぱいいっぱいになりました。
 うん、小ネタをね、いっぱいやりたかったの。それだけは何とかがんばれた。うん、ホントゴメン。
 次回はヒトデの人が出ます。がんばってます。果たしてどーなるんでしょうかね? お目汚し、スンマセンでした。
 逃げるように終わります。スンマセン。
 (06/01/15)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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