満月衛星。-ss-朋也くんとメイドさん達 〜みんなでおそろい編〜 満月衛星。 ss - 朋也くんとメイドさん達 〜みんなでおそろい編〜



「う〜ん、う〜ん……」
「あ、ご主人様、お帰りなさいませなの」

 ある日のこと、いつもどおりノックして演劇部室の中に入ると、正座で背中を向けて悩んでいる杏と、同じく正座をして杏と向き合っていることみがいた。
 ことみのほうは俺と目が合うと嬉しそうに挨拶してくれる。ああ、心が温まるなぁ〜。一方杏の方はなにやら考え事をしているらしく、ずっと云々唸っている。
 こーゆー時はアレだな、触らぬ神に祟り無しって言うことわざを実践すべきなんだろうな。と、言うわけで、メイド長は放って置こうと思ったんだが、メイド長の頭に乗っかっているものを観て、ついでに尻にくっ付いているオプションを見つけてしまい、俺は早々に祟りに触ってしまった。

「おま、なにくっつけてんだ?」
「えっ? あ、ああ、ご主人様、お帰りなさい」
「ハイハイ、ただいまただいま。で、お前は頭とケツに、なにくっつけてんだ?」
「なにって、観て解らない?」
「観てわかんねぇから聴いてんだよ」
「ご主人様ってば目に節穴開いて、目玉の代わりにみかんでも詰まってるんじゃないですか?」

 慇懃無礼な物言いで言われるとムカつくな。まぁこいつの台詞にいちいちムカついても仕方ないからそれはこの際置いといて。
 とりあえず、観てわからないか? と聞かれれば、一発で解るんだけど、今一度よぅっく確かめることにする。

「へへぇ、可愛いでしょ?」

 そういってにっこりと笑う杏は、ついこの間古河の正式オプションとなったネコミミとシッポをつけていた。


『朋也くんとメイドさん達 〜みんなでおそろい編〜』


 ……いや、可愛いか可愛くないかと聴かれりゃ、そりゃ可愛い。古河とは違ったベストフィット感がある。っていうか似合いすぎ。
 自分の顔が紅くなってるのがなんとなく解る。杏はまるでその反応を楽しむような表情で見てやがる。その顔がまたまた猫っぽい。

「ふふーん、照れちゃって。ご主人様ってば可愛いんだ」
「るせーなっ」
「ご主人様はいつでもかわいいの」

 にっこりと微笑んでことみも言う。
 ことみのことだ、それは純粋な感想なんだろうけど、なんだろうけど……彼女にまでこんなこと言われる俺っていったい何者だ?

「そりゃご主人様に決まってるじゃない」
「人の心を読むな」
「あんたの考えてることが単純だから、読みやすいのよ」
「杏ちゃん、ご主人様の考えてること、わかるの?」
「まぁね」
「杏ちゃんも、ご主人様のこと、好き?」

 なんちゅー事を聴くんだ。そんなこと下手に聴いたら寿命が著しく短くなるぞ、ことみ。
 ことみの爆弾発言にハラハラしていると、杏の様子がナンダカおかしい。

「ババッ、バカなこと言ってんじゃないわよっ。誰がこんなおっぺけペーなんか好きになるもんですかっ」

 おっぺけペーってまたことみに負けず劣らず古い罵詈雑言を使うな、お前も。
 なんていうの? 俺、ネタにされるだけされて、会話の蚊帳の外?

「杏ちゃん、耳まで真っ赤」
「あっ、ホントだ、おいおいダイジョブか?」
「ああーーーーっ、もうっ、うるさいうるさいうるさーーーーーいっ!!!」と叫ぶと杏が目を据わらせていった。「それ以上言うと……酷いわよ?」

 あまりの剣幕に俺とことみは思わず引いちまった。目尻に涙まで溜めて物凄い剣幕で睨んでる。
 いまだおっかないオーラを撒き散らせて触れる状態にない杏と少し距離をとりつつ、さてどうこの状態を収集しようかと案を出そうとしていると、傍らに居ることみが耳元に口を寄せて小声で言ってきた。

「ご主人様、杏ちゃん怒ってるの」
「ああ? 何でだ? 俺らあいつが怒るようなこと言ったっけか?」
「ご主人様は優しいけど、少し鈍いの」

 お前が言うか? という台詞を飲み込む。そんなことよりも膨れっ面したことみが可愛い。思わず頬っぺたをプスッと人差し指で突いてしまった。

「ご主人様、私も怒るの」

 やばい、怒った顔もかわいい。とっさに出そうになってしまった台詞を大慌てで引っ込めて、伸びかけてる鼻の下もあわてて戻す。
 それにしてもだなぁ、まぁ普段泣く様なことが絶対にない杏だからなぁ、よっぽど追い詰めちまったんだろうな。
 はぁ〜とため息をついて、なんとも言えなくなって手持ち無沙汰になっちまって頭をポリポリ掻いていると、

「ご主人様、私の分も一緒に謝って欲しいの」
「何でだよ、お前の分はお前が謝っとけって」
「ううん、ご主人様が謝ってくれる方が杏ちゃんもきっと喜ぶと思うの」
「そうか?」
「そうなの」

 ニッコリと表裏のない笑顔でそういわれてしまうと、きっとそうなんだろうなって思わせる説得力があった。
 それに、女の事情は男の俺なんかよりもことみの方がずっと解るんだろう。それだったらことみの言う通りにしておいた方が得策だ。
 とりあえず、どうやら怒りのオーラらしいそれを撒き散らせている杏に近づいて、声をかけてみる。第一種、接近。

「ああ〜っと、杏?」
「なによっ」

 コワッ、尻尾を思いっきり立ててシャーーーーッ!! とかいって来そうな勢いだ。警戒心満点。しかしこいつ、ホントにネコミミとシッポがはまってるな。
 それはさておき、さて、どうやって謝ったもんかと考えて、どーもこーもないわな、という結論に達する。はぁ〜、と一つため息をついて言う。

「悪かったよ、怒らせるようなこと言っちまって」
「ホントに悪かったと思ってる?」
「思ってるよ。悪かったな」

 重ねてそれだけ伝えると、まだ目尻にたまっていた涙を手でぬぐってやった。
 女の子にいつまでの涙を浮かばせていると、後味が悪い。俺的にはそれだけのことだったのだが、杏はまた顔を真っ赤にさせて

「ごしゅ、ごしゅ、ご主人様は、何も解ってないーーーーーーっ」と絶叫した。そして
「メイドボタン、カモンッ!!」と指を鳴らす。

 すると、どこからともなくメイド服を着たボタンがやってきた。
 ……ボタンにまでそんなもん着せるな。もぉ〜なんでもありだな、このシリーズ。
 ドドドドドドドド……と突っ込んできたボタンは杏に向かってダイブしてその胸に収まった。……パイルダー・オン?

「ボタン、ラグビーボール、ハイッ」と杏が指をパチンッと鳴らす。
「ぷっ」といってラグビーボール状になったと思しきナマモノ。

 そして

「アイシーーーーーールドッ」

 とかいうわけのわからない叫び声が聞こえて、次の瞬間目の前にお星様が広がって、視界と意識はブラックアウトした。……いてぇ。


 目が覚めると、天井の一緒にネコミミ着けた杏の顔がそこにあった。どーやら膝枕されてたらしい。
 杏はといえば、なにやらことみと会話をしている。相変わらずことみ時空に引っ張り込まれていつの間にやら本題とはかけ離れたものになってのだろう事は容易によそうついた。
 しかしなぁ〜んか最近、この膝枕もデフォルトになってきたな。膝枕自体は俺もいい思いをさせてもらっているから、余計なことは言わないが。それにしても変なデフォルトが多いぞ、この部活。
 いや……まぁ、しょっぱい思いもしてるが、結局一番おいしい思いをしてるのが俺って言う気がしなくもないが、いいのか? そんなんで。

「あっ、ご主人様、目ぇ覚めたのね」

 ボーっと見上げていた俺の視線に気がついた杏がニパッと俺に笑いかけてきた。
 どうやらさっきまでのご機嫌斜めは真っ直ぐになったらしい、ヨカッタヨカッタ。

「本当なの。ご主人様、目が覚めたの」

 ことみもにょっきりと顔を覗かせる。そのことみの頭には、さっきまでなかったものが、くっついていた。

「……ことみまでネコミミか」
「流石ご主人様、ことみのことは特によく観てるわね」
「当たり前だ」
「似合ってる?」黒いネコミミをつけたことみが不安そうに俺に聞いてきた。

勿論俺が言うべき台詞は一言で、それ以外に思いつかなかった。

「勿論」

 頭を上げて周りを見回す。俺が寝てる間に部長と藤林も着てたらしく、既にメイド服に着替え終わっていた。
 それぞれ目が合うと

「おはようございます、ご主人様」と三毛縞のネコミミネコシッポの古河。
「おはようございます、ご主人様」とトラ縞のネコミミネコシッポを着けた藤林がそれぞれ挨拶してきた。
「……藤林もネコミミなのね」と、もぉ〜なんともいえないトーンで俺が言うと
「そうなのよ、あたしもついさっきまで悩んでたのよ」と杏が口を開いた。「ことみと椋はウサミミがいいかなぁ〜って思ってたんだけど、それだとメイド服との相性がいまいちなのよねぇ〜」
「もしかして、俺がきた時に悩んでたのも?」
「もしかしなくてもそれで悩んでたのよ。でもやっぱりみんな揃ってネコミミにしたのは正解だったわね。みんな可愛さがアップしたでしょ?」
「まぁ……な」

 ようやっとしてそれだけ言うと古河は照れたように、そして嬉しそうにえへへ、と微笑み、藤林はピョンコピョンコと飛び跳ねながら嬉しそうに京の手を掴んでブンブン振っている。
 ことみはことみで顔を赤らめてボーっとしてフリーズしてるし、藤林に手を取られてる杏はそんな藤林の様子を見て、少し困ったような顔をしつつ、でもそれ以上にさも嬉しそうに、当然よ、と胸を張る。
 喜びを分かち合うメイドさん達の様子を見ているとほほえましく思える。俺、ホントにご主人様な気分を錯覚しそう。
 そんな俺のズボンの裾が引っ張られた。視線を移すと、そこにはメイド服を着たボタンが自分も見やがれコンチクショーっ、といわんばかりにプヒープヒーッと自己主張している。
 そういえば、こいつもメイド服着てたな、さっきっから。犬が服を着るのとはまた違った滑稽さがあるな。まぁもっとも、犬が服を着るのにもそれなりの理由があるらしいが。んなこたぁ俺の知ったこっちゃねぇしな。
 ボタンを抱きかかえるとボタンは俺にウインクをして

「プッフゥーン」

 とか言ってきやがった。次の瞬間、俺の中で何かが一本プツンと切れて

「いっけぇっ! ドライブシューーーーートッ!!!」

 と叫んで、メイド服を着た畜生を蹴り飛ばした。

「プッフゥーーーーーーーーン」と気色の悪い鳴き声を漏らしながら遥か彼方に飛んでいく畜生。
「みさきくん、ナイスアシストっ!! 俺、将来何になりたいかって聴かれたら、コンマ秒で『ご主人様』って答えるよっ」

 星になった畜生を見届けると、すがすがしい気分になった。まるで元旦に卸し立てのパンツを履いたようなすがすがしさだ。
 が、次の瞬間、俺の世界がネガポジ反転し、俺は己の生命の危機を察知した。
 察知したときには既に体は動いていて、さっきまで俺が居たところを辞書が物凄いスピードで通り過ぎていった。だから、こんなもん喰らったら死ぬっつーのっ。

「そこのご主人様っ、人んちのペットになんてことしてくれんのよっ」酷くご立腹のご様子のメイド長。
「ご主人様、ボタンちゃん苛めちゃかわいそうなの」同じくご立腹なマイ彼女。
「ご主人様、メッです」まるで子供を諭すような言い方をする古河。確かに俺の方が年下では在るが……。
「あの……ええっとぉ……」なんといって言いのか解らないご様子の藤林。まぁボタンに嫌われてるからな。

 しかしそれにしても、メイド長は先ほどとは違った、物凄く殺気をはらんだタイプのご立腹具合だ。やっべぇ……、殺気がストレートすぎてヤバイ。
 そのままメイド長は絶対零度の視線を俺に向けて言った。

「探してきなさい。もし見つからなかったら……」

 ゴクッ……、思わず息を呑んでしまった。「見つからなかったら?」と俺が返すと

「そりゃあ、ご主人様の命日が今日になるだけよ」

 あまりにもその、俺に向けられた笑顔がキレイすぎて、そして恐ろしすぎて俺は鳥肌が立った。すぐさま立ち上がって背筋を伸ばすと

「それではご主人様、ボタンを探しに行って参りますっ!!」

 と敬礼して、部室を飛び出した。
 背中にメイドさん達の「いてらっしゃいませ、ご主人様ぁ〜」という声援を受けながら。
 ちょっとやる気が出てしまった自分が可愛いとか思ってしまった。
 なんだか自分がとっても悲しい。しくしく……








おわり







---あとがき---
 生徒会長を出そうとしたら、ボタンを出すのでいっぱいいっぱいでした。
 話がどんどん、妙な方向に流れていきます、これでいいのか?
 というわけで、次回「誕生、メイド会長編」感想がいっぱい貰えたら速く更新されます。
 感想が来なかったら打ち切られます。そんなわけで、応援ヨロシクです。ハイ。
 (05/10/28)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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