満月衛星。
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- 朋也くんとメイドさん達 〜野郎のメイドは欲しくありませんっ編〜
さてさてさて、藤林印のデスランチの後遺症もことみのおかげで無事に納まった俺は、6限には教室に居ることができた。
あのまま6限もサボってことみの膝枕で寝ていたかった気もするが、いくら免除されてるとはいえどことみの授業まで邪魔するわけにはいかないから、眠い体を引きずってダラダラと戻った。
教室に戻ってドアを開けると、気にしてくれていたのだろう、藤林と早速目が合った。
「ちょっとゴメンね」と話し相手との会話を中断させて、トテトテとこっちに近づいてきた。
「ごしゅ……岡崎君、大丈夫ですか?」
それを言って後々しょっぱい目にあうのは藤林も同様だ。言いかけたセリフを慌てて引っ込める。
頼むから教室内では口を滑らせないでくれよ。こんだけ人が密集した中で、ンなこと言われた日にゃあ……ブルブルブルブル。
ただでさえ委員長と不良が教室内でわけのわからん会話をしてるってんで、野次馬らしき視線を感じる。
「……ああ、大丈夫だ、心配かけて悪かったな」
「いえ、元はといえば私が悪かったことですから」
「そうだな、まぁアレだ。次は美味いもんを、その気になってるヤツにでも喰わせてやってくれ。ついでに残り物にでもご相伴に預からせてくれるとありがたい」
「……ハイ」
とりあえず、出掛かった一言をお互いなかったことにして、当たり障りの内容に会話を繰り広げる。いや、繰り広げたつもりだった。
だが、席に戻った藤林は会話に耳を立てていたらしいクラスメイトに、なにやら質問攻めにされていた。女子のうわさ好きってのは恐ろしいもんだね。
あっという間にいつもとは違う人だかりができていた。……ワリィ、授業が始まるまで残り数分、頑張ってくれ。
そんなこんなで質問攻めにあっていた藤林だったが、流石に授業開始のベルが鳴って教師が入ってくるとどいつもこいつも席に戻っていった。
人垣がなくなったのを視界の隅で確認した俺は、いつもどおりボーっとして授業をやり過ごす。隣の席に居るはずの春原は、まだ復活できていないのだろう、きっと廊下で寝てるはずだ。
起きたとしてもそのまま授業をバックレてる可能性大なわけだが。その辺は俺の知ったこっちゃない。
俺の当面の仕事は、このクソ詰まらん授業をどーにかこーにかやり過ごすってことだ。
ああー、それにしてもホント退屈だな。
『朋也くんとメイドさん達 〜野郎のメイドは欲しくありませんっ編〜』
「ああ〜、終わった終わった」
ようやっとして授業が終わると、HRも右から左に聞き流す。なにやら今週は教室の掃除当番らしい。そりゃ丁度良い時間つぶしができたもんだ。
そんなわけで適当に掃除をしてさっさと適当な考え事をしつつ演劇部室に向かう。しかしこうして演劇部浸りが習慣化されてるのもどーかと思わんでもないがな。
部室前について、恒例になったノックをすると
「ハーイ、今開けマース」
という聴きなれた声が仲から聞こえ、ドアが開いた。そこに居たのは
「お帰りなさいませ、ご主人様」
……メイド服を着た春原だった。
「キモッ! お前何やってんだよ?」
「開口一番キモって、酷いですぅご主人様ぁ」
背筋に寒気が走った。殴りてぇっ、すっげぇ殴りてぇ……っ!
でもそれ以上に、関わりあいたくねぇーーーーーーっ!!
無視だ、無視。こんなやつ無視するに限る。
「おいっ、杏。」
「あら、お帰りなさいませ、ご主人様。新しく入った陽子が何かしでかしましたか?」
……こいつ、俺がこういう状況になることを解っててけしかけやがったなっ。対応と笑顔が120%増しで丁寧だ。
あらかた春原にはこれは夢の続きよ、とかほざいて上手いことそそのかしたんだろう。
その状況は見たいでもなかったが、それ以上に今のこの状況がムカつく。
「あいつにあんなもん着せるってこと自体が既にしでかしちゃってる感満載だろうがよっ」
「あら、意外と似合ってるじゃない。それに、観てて結構面白いわよ?」
「っていうかさぁ、こいつに着られたらメイド服が泣くぜ?」
「メイド服だって人生色々よ、人生楽ありゃ苦もあるさってねぇ」
そこまで言うと、今日は俺に顔を近づけて耳元でささやいた。
「まぁなんにせよ、昼間あたしにあんなこと言わせてくれたお礼は……しないとねぇ」
……ああ〜、ナルホド、それが目的だったか。最初っからそう言えばまだ納得できたものを。
ああなった杏は誰にも止められないから、俺もほったらかす事にする。君子危うきに近寄らず、だ。
第三者になることを決め込んだつもりだったが、そこら辺にカバンをほっぽり出して、適当な椅子に座ると、メイド服の春原に声をかけられた。
「ご主人様ぁ、コーヒーは如何ですかぁ?」
語尾を延ばす気持ちの悪い喋り方は春原内メイドのデフォルトか? それにしても気持ちの悪いことこの上ないな、こいつがこの喋り方をすると。
「俺は今紅茶が飲みたい気分だからいらない」
「それじゃあすぐに用意しますねぇ」
「あら、その必要はないわよ、だってあたしがもう用意してるから」
「メイド長っ!」
紅茶を用意しようとした春原を杏が遮って「ご主人様、どうぞ」といって俺に紅茶を丁寧に差し出した。
それなら俺も悪乗りせねばなるまい。ありがとうと、ご主人様っぽく返事をして紅茶の入ったカップを受け取る。
紅茶はあらかた、昼にことみが用意したヤツの残りだろう。カップはどっから持ってきたのはかよう知らんが、この際聞かないでおく。
「流石杏の入れたお茶は上手いな」
「お褒めに預かり光栄ですわ、ご主人様」
二人揃って馬鹿っ丁寧な笑顔を作っているという状況は傍で見て居ればそれはそれで笑かすが、それを自分がやっているという状況が、なんだか奇妙だ。
まるで劇の寸劇のような感じで、古河あたりにデマこいてメイドとご主人様の役で寸劇中、などといったらさぞ喜んでくれただろう。
目的が春原で遊ぶため、と言ったらさぞかし怒り出すだろうが。
紅茶が空になると杏が盆を差し出してきた。
「お替りを用意しましょうか?」
「いや、いい、下げてくれ」
「かしこまりました」
……こいつホントに、結構気ぃ回るな。マジもんメイドさんとかやらせても割りといいセン行くんじゃないか?
春原も、なんだか尊敬のまなざしで杏を見つめている。さすが同姓ウケのいい女、藤林杏。
その杏はと言えば、なにやら春原に指示を出している。カップを渡したところを見ると、どうやらヤツに洗うよう指示したらしい。
カップを大事そうに抱えてパタパタと出て行った。まぁそれにしても、動作の一つ一つが気色悪いな。
春原が出て行ったのを確認すると、杏はその辺の椅子に腰掛けて溜息をついた。
「昼間の仕返しのつもりで遊んでみたけど、あんまり仕返しにならなかったわね」
「どっちかっつーと、このままいったら逆にストレスが溜まりそうな気すらするな」
「かもしれないわね、そうなる前に沈めるか」
「まぁ春原のことだから、大丈夫だと思うけど、やりすぎるなよ?」
「大丈夫よ、何とかなるって」
いや、ならないと思う。それだけ心の中で突っ込んでおくと、扉が開いて、ことみと古河と藤林が三人揃って仲良く入ってきた。
なにやら顔が困惑している、何かあったのだろうか?
「あの、今さっきそこで春原君とすれ違ったんですけど……」
「何故かメイド服着てましたっ」
古河は、間違って見ちゃいけないようなものを見たような口調で藤林の台詞を引き継いだ。
「なにっ!? あいつマジで近場の水飲み場まで洗いに行ったのか?」
「……ま、陽平にとっちゃ夢の中なんだから、大丈夫でしょ」
その一言で片付けていいのかどうかは解らなかったが、教師どもに見つかると厄介そうだ。
メイド服の総本山がここだなんてことがバレようもんなら、上手いこと逃げないと、唯一制服の俺にとばっちりが来るぞ。やべぇな、早いうちに対策練っとこ。
とりあえず今は、やつが見つからないことを祈っておこう。いざとなったら切り捨ての方向で……。
「じゃあ俺は外で待ってるから、着替えるならさっさと着替えてくれや」
それだけ伝えていったん外に出る。そういえば、俺が先に来ていったん外に出るってのは初めてだな。
ドアを閉めると仲からキャッキャキャッキャと喋る声に紛れて服を脱ぐ衣擦れのする音が聞こえてきた。
…………
ギャーッ、音がナマッナマしぃーーーーっ!! ヤバイヤバイヤバイヤバイ、ヤバイってっ、会話そっちのけで衣擦れの音だけ聞き取っちゃってるってっ俺っ。
ああああああああ、こないだ見ちゃった着替えシーンがまた頭に甦ってきたぁーーーーーッ! キャーッ。
煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散…………
「どうしたんですかぁご主人様ぁ?」
うずくまって頭を抱えて煩悩退散してると、いきなり気色の悪いトーンで声をかけられた。
誰かと思って顔を上げてみたら、ヲヲッ、カップを洗いに行った春原じゃありませんか。
「無事に洗ってこれたのか?」
「ハイー、陽子ちゃんと洗えましたぁ。良くできましたか?」
「あーハイハイ、良くできました良くできました」
「やったですぅー、ご主人様に褒められちゃいましたですぅ」
そっちの心配をしたわけじゃないんだが、この調子だと、教師には見つからなかったらしい。アブねぇアブねぇ。
しかしまぁそれにしても、春原は嬉しそうにその場でクルクルと両手を広げて回っているわけだが、女の子がやったら可愛いであろうこの仕草も、春原がやってるというだけで気色悪くなるこの塩梅はいったいなんなんだろうね?
「そういえばなんでご主人様はこんなところでうずくまってるんですかぁ?」
「軍の機密事項によりお前に話すことはできない」
「はぁ、そうなんですか、ご主人様も大変ですねぇ」
「お前に心配されるといちいち気色が悪いな」
「人の好意は素直に受け取りましょうよねぇっ」
メイドになろうがなんになろうが、所詮春原は春原らしく、いちいち突っ込んでくる。まぁ気色悪いと思うのは事実なわけだが。
「はははっ、今日のご主人様はなんだかとっても変ですね」
「お前に言われたかねぇ」
「そうですか、それじゃあ僕、先に入ってますね」
「あ、ばかっ、止めろっ」と言った時には既に遅く、春原はドアを開けて中に入ろうとしていた。
中には着替え中の三人が居るわけで次の瞬間どうやら着替えを覗いちゃったらしい春原が
「わ〜おっ」と言う歓喜の声を上げていた。わ〜おっ、じゃねぇよ。って言うか、どんだけメイド服着て女っぽく喋ろうとも、所詮は男だったか……。
勿論そんな状況も長く続くはずはなく、気がつけば
ドゴォッ
と言う音が聞こえた。辞書が当たったときの春原の顔は、いつも以上に春原だった。
こうして、春原はリノリウムの地面に沈んだ。
「全く、散々だったわね、今日は」
「とってもとってもビックリしたの」
「まだご主人様にしか見られたことないのに……もうお嫁にいけませんっ」
「こらこら藤林、どさくさに紛れてわけのわからない問題発言をするんじゃありません。その言い方だとまるで俺が責任取らなきゃいけないみたいじゃないかっ」
「取ってくれますか?」
「取りません。俺はことみだけで十分です。っていうかそれ以前にお前気になるやつが居るんじゃなかったのか?」
「勿論です。ふふふ、言ってみたかっただけですよ」
まさか藤林にからかわれる日がこようとは思いもよらず……
古河はと言えば「まぁまぁ、春原さんも悪気が有って見た訳じゃないんですし」と顔を紅くしながらフォローしていた。
どこまでもいいヤツだよなぁ、古河って。
「ところでご主人様」
「あん?」
「わたしの責任も取ってくださいってお願いしたら、取ってくれますか?」
「だから取らんっちゅーのっ!!」
えぇ〜いっ、古河お前もかっ。どこまでもボケ専少女帯共めっ。
「ご主人様ご主人様っ、あたしのは、あたしのは?」
「お前まで悪乗ってくるなっつーのっ」
天然藤林と古河とは別に、杏まで悪乗ってきやがって半ばヤケで絶叫突込みをしていると、ことみに裾を引っ張られた。
「ご主人様」
なにやらご立腹気味である。
「どうした? ことみの分の責任なら、ちゃんと取るぞ?」
「何どさくさに紛れてプロポーズしてんのよ」と杏に突っ込まれたが、それはこの際置いておく。
「プロポーズ……」
それだけ呟いてうっとりしていたことみだったが、はっと我を取り戻したようで、また険しい視線を俺に向ける。
ホントに、どうしたのかね? 俺、なんか不味いこと言ったか?
俺がはてなマークを回りにかっ飛ばしていると、ことみが口を開いていった。
「女の子の責任は、ちゃんととって上げないと、ダメなの」
まじめな顔をして言うもんだから、マジなんだろう。
裏手突っ込みに紛らして思い切り裏拳を決めてやろうかと思ったが、何とか抑えて、俺は冷静に突っ込みを入れる。
「日本で重婚が出来るかっ」
裏拳をかましたい衝動をようやっと押さえて返した俺だったが、ことみの方は笑顔でこう切り替えしてきた。
「養子縁組を組めばちゃんと全部丸く収まるの」
「そーゆー問題かぁーーーーーーーっ!!!!!!」
俺の絶叫突っ込みが演劇部室に響いたが、今度はことみの方がはてなマークをとっ散らかしていた。
ホントに、どーにかならんのかね、この状況?
ちなみに春原は、服をひっぺかして制服に戻して、教室に放り込んでおいた。
まぁこれで大丈夫だろう。
おわり
---あとがき---
……頑張った。俺、頑張った。今回は内容が馬鹿なので、どなたもつるつるーっと読めるはず。
前回がアレで、今回がこれってのもどーかと思わんでもないが、そーゆーのはあまり気にしないで読んであげてください。
頑張ってるんだって、マジでさ。
それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
(05/10/12)
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