満月衛星。-ss-朋也くんとメイドさん達 〜元気の素編〜 満月衛星。 ss - 朋也くんとメイドさん達 〜元気の素編〜

 あ゛あ゛ー……キモチワリィ。
 藤林お手製の地獄への片道切符(弁当)のお蔭で、今現在、俺はすこぶる気分が悪い。ほんっとに……なにをどう調理したらあんな殺人弁当ができるんだ?
 ちなみに致死量を軽く超える分量を摂取した春原は、きっと今ごろ機械の体を手見入れるために空飛ぶ機関車に乗ってどっかの星を彷徨っていることだろう、一人で。

「なぁ藤林」
「はい?」

 ことみの膝枕にお世話になりつつ、病人よろしくタオルを額に当てて横になっていた俺だったが、ことの原因が知りたくて、座り込んで心配そうに覗き込んでいる藤林に尋ねた。

「そろそろいい加減におしえてくんねぇか?」
「何をでしょう?」
「理由だよ、理由。急に手作り弁当なんかを作ろうとしたその理由をさ。殺されかけた身としては、それくらい教えてもらわんと割に合わん」
「殺されかけたって……」
「そんなに凄い味だったの?」

 物騒な俺の台詞を聞いて古河とことみの顔が少々青くなってる。

「ありゃお前たちに食わせなくて本当によかったよ」
「確かに、あれは食っちゃいけないわ」

 珍しく杏も俺の意見に賛同する。


『朋也くんとメイドさん達 〜元気の素編〜』


「実は……その……最近……気になる人ができて……お弁当を作ってあげたいなって思ったんです……」

 徐々に消え入るような声になっていく藤林は、それだけ言うとどんどんと小さくなっていく。
 ……ん?

「ってことは何か? 俺はアレか? もしかしなくと……」
「ザ・噛ませ犬よね」
「あぅ……すいません……」
「すいませんの一言で済まそうとするな。今回は春原一人がオイシイ目に会ったから良いものを、アレが俺だと思うと……」
「まぁまぁご主人様、初めての挑戦には失敗はつき物ですよ」
「そうなの。椋ちゃんを許してあげて欲しいの」
「しかしなぁ……」

 言いたいことは山ほどあるが、ボケ専少女帯にしてメイド隊の良心の二人に言われてしまうとこれ以上深くはいえない。

「そうよ、あんたも男なんだから、これくらいのこと大目に見なさいよね」

 こいつに言われると無性にハラ立つな。
 だがしかし、そんなことより何より今は……キモチワリィ。

「ああ〜、もうそのことは解ったから、俺保健室行くわ。藤林、ワリィんだけど5限休むわ」
「あっ、それなら私保健室までついていきます」

 そういって立ち上がろうとした藤林の服の裾を誰かが引っ張って止めた。……ことみだ。
 珍しく真剣な表情で藤林の見つめていた。

「私が、連れて行くの」
「でも、ことみちゃん、授業は?」
「大丈夫、私授業免除されてるから。それに……」

 そこまで言うと、ことみは頬を紅くして俯いてしまった。
 ……? どーした?

「朋也くんの彼女だから」

 ぐあっ! 不意打ちでそういうことを言うのは勘弁してくれ。マジで照れるんだってっ!!
 一瞬体調が悪いのとか全部吹っ飛んだぞ。あぁー照れるっ、マジで照れるーーーーーッ!!

「彼氏冥利に尽きるじゃない?」肘で俺を突っつきながら杏が冷やかしてきやがった。うるせー。

 話にわって入られた藤林と、話に取り残されぎみな古河はといえば、

「そうですね、ことみちゃんがご主人様を連れて行くのが一番ですよね」
「そうなれば善は急げです。岡崎さんっ」
「ハ、ハイッ」
「先に出ててください、着替えますから」
「ハイッ」
「大急ぎでですっ」
「大急ぎは勘弁ろ。そんな俊敏に動けねぇ」
「ああ、そうでした」

 アタフタとしてる渚をよそにことみがそばまで来てくれたけど、ことみに体重を預けるわけにも行かないから、何とか自力で歩いて部室から出る。
 俺が教室から出ると、閉じかけの部室からことみがひょっこりと顔を出した。

「朋也くん、待っててね、すぐに着替えるから」
「おう」

 返事を聞くとことみはにっこりと笑ってドアを閉めた。ことみの笑顔を見ると、体調が少し良くなる様な気がするのは気のせいじゃない気がする。
 そんなことを考えていると、突然部室のドアが開いた。そして、

 ドサッ

 とだけ音がして、中から何かが飛び出してきた。ビックリしたぁ。
 ゴミかと思ったら春原だった。ああ、まぁ確かに、こんな状態でも目ぇ覚ましそうで怖いもんなこいつ。ほっぽり出して正解だ。
 そんなこんなでほっぽり出された春原を傍らにしばらく待っていると、パタパタとドアの方にかけてくる音が聞こてドアが開いた。

「待ったぁ?」
「お前は待ってねぇよ。お約束なベタギャグかまさないで良いから。ことみはどーした?」

 ことみじゃないと解っちゃいたが、杏だった。ベタだ……ベタ過ぎる。
 俺は立ち上がる気も起きずにその場に座り込んだまま、杏の相手をする。って言うか立ち上がる気力もねぇ。

「釣れないわねぇ。ことみと間違えてはしゃぐ姿を見たかったのに……」
「だぁーほっ、誰がんなことするかっ。おぁ、来た来た」
「お待たせなの」
「ん、それじゃあ行くか」
「うん」

 差し出されたことみの手をとってゆっくりと立ち上がる。なんだろうな? ことみの笑顔を見たり、温もりを感じたりするとちょっと体が楽になる。

「それじゃあ、また後でな」
「杏ちゃん、また後でなの」
「ハイハイ、また後でね」

 軽い挨拶を交わすとさっさと保健室に向かう。足取りは重かったし、気持ち悪いのは相変わらずだった。

「朋也くん。大丈夫?」
「まぁ、保健室で少し休んでればすぐに直るって」

 そうなってくれないと困るわけだが。
 ……しかし、たかだか弁当でここまで呻く羽目になるとは、我ながら情けない。
 ことみに心配そうな顔で覗き込まれるたびにそんなことを感じる。
 ことみにはこんな顔じゃなくて、こんな顔じゃなくて……

「どうかしたの?」
「ことみ……」
「?」
「笑っていて」
「???」
「ことみが笑っていてくれれば、俺も笑顔になれるはずだから」
「……解ったの、頑張ってみるの。でも……」
「でも?」
「私も、朋也くんが笑顔でいてくれると嬉しいの」
「そか、それじゃあ、頑張って笑顔でいられるようにするかね」
「頑張らなくていいの」

 ことみに安心して欲しくて、笑っていて欲しくて、俺が笑おうとすると、ことみが俺の手をとっていった。

「無理やり笑わなくていいの。二人で歩いていれば、私も、朋也くんも、きっと笑顔になれるから」

 ことみは俺の手を自分の頬に当てて、ふっと安心したような笑顔になる。
 そんなことみの顔を見て、俺の気持ちが悪かった気分が一気に吹っ飛んだ。ああ、なるほど、どうやらそういうことらしい。

「ことみ、ありがとうな」
「うん」

 ことみに顔を近づけて、額と額をあわせる。俺たちは満面の笑顔だった。


 とりあえず、気分はよくなったが授業は休むと言ってしまった手前、保健室ですることがなくなってしまった。

「さーて、どーすっかね」と考えあぐねていると
「朋也くん」とことみに手を引っ張られてベッドの傍までつれてこられた。

 あ、いや、その、ことみ? 初めてが学校の保健室のベッドってのはどうかと思うぞ? これはこれで背徳感があっていいような気がしなくもないが。
 って違うっ! そーじゃないっ!
 俺の脳みそが大暴走してる間にことみはベッドに上がって正座を崩したようなおねぇ座りで俺を呼ぶ。

「来て」
「いや、ことみ、あの……な?」
「? 朋也くん、どうかしたの?」
「いや、その、さ。保健室でするのはどうかと思うぞ」
「大丈夫なの、誰も来ないから恥ずかしくないの」
「誰もこなけりゃやっていいってもんでもないと思うぞ?」
「朋也くんは、イヤ?」
「いや、イヤじゃないって言うか……」
「膝枕、やめた方がいい?」
「ああ、膝枕はやめ……へっ!? 膝枕?」

 ああ、なんだ、アッチじゃなかったのね。ああーよかった。
 とか思いつつ、ちょっぴり残念な気もするのは何でだろうね?

「うん。今だったら杏ちゃんたちも居ないから、私がご主人様を独り占め」
「もう演劇部室出たんだからご主人様呼ぶなよって」
「それじゃあ、朋也くん、独り占め」
「どのみちこの台詞はこっぱずかしいだけだなオイ」

 あぁ〜、ヤバイくらいに照れる。でもそれ以上にヤバイくらいに嬉しい。
 とりあえず、折角なのでことみの膝枕に甘えさせてもらうことにする。
 ベッドに横になってことみの太ももに頭を乗せると、メイド服だったときにはなかったナマのことみの太ももの感触が直に頭に伝わってくる。

 なんていうか……安心する。

「朋也くん、可愛い」

 そういって俺の頭をことみが撫でてくれた。
 ますます俺は安心しきってしまって、あっさりと眠りに落ちた。

 さっきまで有った気分の悪さは、もうどこにもなかった。








おわり







---あとがき---
 後半はメイド服じゃないけど、勘弁してちょうだい。
 リハビリ的な意味合いもこめて、ベタベタに、アマアマに。それにしても恐ろしいくらいに甘いな。何かに飢えてるんだろうか、俺?
 一ヶ月以上ぶりですいません。色々あったんです。書く気が起きなかったり微妙に忙しかったり。
 まぁそれもだいぶ落ち着いたんで、ポチポチと頑張って生きたいと思います。ハイ。

 それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/10/04)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送