満月衛星。-ss-ハロー、デスランチ編
満月衛星。 ss - ハロー、デスランチ編
朝のHR終わって、さてこれからどうやって瞼を開けて教師の話を聴いたもんかと色々策を練って居ると、藤林に声をかけられた。
「あの、岡崎くん」
「あん、どした? 配られたプリントならとっくの遠に机の中に入ってるぞ」
「いえ、そうじゃなくて、あの……今日、お弁当とかって持ってきてますか?」
「うんにゃもってきてないぞ」
「それじゃあ、今日、私作ってきたんで、食べてもらえませんか?」
「ああ、そりゃ別にかまわないけど、どうしたいきなり?」
不振がってる俺の表情を見て困ったような顔で誤魔化し笑いをする藤林。
オイオイ、マジで裏あるんじゃねぇだろうなぁ。ただより高いものはねぇってゆーからな。
結局、あうあうとしか言葉に出なかった藤林は、たぶん色々と考えて結果それしか浮かばなかったのだろう。
「乙女の秘密、です。」
と苦々しい誤魔化し笑いをして自分の机に戻っていった。なぁ〜んか、イヤな予感がするんだよなぁ。
念のため早めに昼食摂って、腹いっぱいだから食えないってことにしとくか。
そんなことを考えてたら俺の不信な念でもキャッチしたんだろうか、藤林はぴたりと脚を止めて振り返った。
「もし私のお弁当食べてくれなかったら、今度から教室でも岡崎くんのことご主―――」
「わぁーーーーーーーーわぁーーーーーーーーーわぁーーーーーーーーっ!!!」
「絶対に食べてくださいね?」
コクコクコクコクッ!! あぁっ! あぁっ! 盛大に首を縦に振ってやったさっ。じゃなきゃ俺の身が危ういもんっ!!
ニッコリと笑顔を見せて、今度こそ自分の机に戻った藤林を見て思った、杏の入れ知恵か……。
藤林がこのこんな嫌がらせのような脅迫手段をとるとは思いにくい。まぁ藤林は藤林で杏とは違った凶暴さがあるから、油断は出来ないのだが。
兎に角、だ。ここは素直に藤林の言うとおりにしておこう。俺の残り少ない学園生活を平穏なものにするために。
『ハロー、デスランチ編』
んなわけで、昼休み。
……ついにこの時間がやってきてしまった。
いや、まぁたぶん、大丈夫だとは思うんだよ。って言うか思いたいんだよ。でもなぁ〜んか、イヤな予感がするんだよなぁ。
とりあえずそんなイヤな予感を引き摺って、演劇部室へと足を向ける。足取り重くてペテペト教室を出ようとすると
「岡崎ー、飯食いに行こうぜ」
今しがた登校してきやがった春原が呼び止めた。
ああ、そうか、こいつを防波堤にすりゃあいいんじゃん。
「おい春原」
「なんだよ」
「今から俺について来い」
「何で?」
「いいか春原よく聞け。これは夢だ。お前は実は学校に着てからすぐに机に突っ伏して寝てしまったんだ」
「え、そうだったの?」
「ああそうだ。そしてこれは夢の世界だから、これから行くとこに可愛い女の子たちがメイド服を着てお前を接待してくれるぞ」
「マジっすかっ!」
半分ホントで半分ウソだ。
「ああホントだ」
「ドキドキだねっ! 僕もしかしたら『ご主人様』とか言われちゃうのかな?」
俺はすでに言われてる。
「それで僕に恋しちゃってメイドとご主人様のイケナイ関係とかになっちゃうかもねっ」
100パーありえねぇ。
「うをっ、楽しみになってきたよ」
うん、まぁ楽しみにするのは個人の自由だわな。
「それじゃあ岡崎、さっさと行こうよ」
「ああそうだな、この夢の中じゃ、俺はそのために居るからな」
「ああそうなの。岡崎、お前って夢の中じゃ良いやつだね。これからは心の友と書いて心友と呼ばせてもらうよ」
「遠慮する。友達でもないやつにいきなり心友呼ばわりなんて、怖気がするわっ」
「ザックリ酷いこと言いますねぇっ。これ夢なんじゃないんですかっ」
「ああ夢だ。夢だからサッサと付いてこい」
それだけ言ってさっさと教室を出る。今回は春原について来てもらわにゃ困るんだが、春原だし、置いていってもいっか、的な気分になる。
「ちょっとちょっと、待ちましょうよ、ねぇっ!?」
ちゃんと付いてきた。嬉しいような、嬉しくないような。ま、保険が付いてきたと思えば、安心できなくもない。
「さぁ〜って、どんなかわいこちゃんが僕のことを待ってるのかなぁ〜っと、楽しみだね、ワクワク。」
「自分でワクワクとか口に出して言うな、キショイ」
「そんなこと言って、僕とメイドさんが二人で幸せになっても嫉妬するなよ」
「だから夢だっつーの」
「わかんないよ、世の中、正夢って事だってあるかもしれないし」
「あー、そーかよ」
もう、返事すんのもめんどくせぇ。
春原の一方的なアホアホトークに適当に相槌を打ってるうちに、さてと着いた、演劇部室前。
トントンッ、扉を叩く。こないだみたいなことになるのを恐れて、以後はちゃんとノックするようにしてる。
何でか皆さん熱心で、昼休みもみんなで集まるときはメイド服を着てる。そんなに気に入ったのかね、あの衣装。
「ハーイ、今開けるの」
「あ、あれ、今の声、もしかして……」
「あ? もしかしなくてもことみの声だぞ」
「いっ、一ノ瀬ことみっ!?」
ああそうか、図書館の時と言い、ヴァイオリンの発表会のときといい、ことみとはこいつ、兎に角相性悪いんだっけか。
「お帰りなさいませ、ご主人様なの」
「はいはい、ただいまただいま」
過去のトラウマがよみがえってか春原はガクガク震えていた。
そんな春原を無視してことみの頭にポンポンと軽くてを乗せて挨拶の返事をする。いい加減この状態でご主人様言われるのにも慣れてきた。
……慣れてきたことに問題を感じないことが問題だと思わないといけないわけだが。
そのままヅカヅカと中に入っていく。中では既に弁当が広げられていて古河と藤林姉妹が立って俺を迎えてくれた。
「お帰りなさいませです、ご主人様」
「お帰りなさいませご主人様」
「お帰りなさいませご主人様。ちゃんとお腹は空かせてきてくれましたか?」
「安心しろ、朝もろくすっぽ食ってねぇお蔭で、バリウム飲んで安全に検査が出来そうなくらいの空腹具合だ」
「あ、春原さんも、こんにちは」
げんなりしてる俺の後ろに春原を見つけた古河が、笑顔で春原を迎えていた。
「へっ? 陽平? 何であんたがこんなとこいんのよ?」
「あ、本当、春原くんです」
ことみを見てガクガク震えていた春原は、古河を見てそのメイドさん姿にときめいた表情を見せたかと思うと、今度は杏を見てまた震え、藤林を見て再度ときめいていた。
ことみ→古河→杏→藤林の順番に何度も眺めてはガクガク震えて、ときめいた表情とを繰り返していた。こいつの顔、ホント器用な。
「どしたの、こいつ?」
「さぁ? 顔面体操でもしてんだろ」
トラウマとときめきと恐怖がいっぺんに襲ってきてるなんて、言えない。
言っても別段俺に問題はないが、そのあとの収拾がつかなくなりそうだから、とりあえずここは黙っておく。
相変わらず入り口で顔面体操をしている春原をほったらかして、弁当が広げられたビニールシートに腰をおろす。
「で、どれが藤林の作った弁当?」
「えっと、その、ここに広がってるの、全部です」
「全部っ!? 一人でか?」
「いいえ、流石にお姉ちゃんにも手伝ってもらいましたけど、がんばってみました」
「そうよぉ、椋ってば朝早くから起きてがんばってたんだから、あんたもご主人様なら全部平らげて見せなさいよね」
「そーゆー都合のいいときだけ俺を立てるのやめろよな」
「だって、そーゆー都合のいい存在でしょ?」
「言い切るなっ。とりあえず、保険を持ってきたからヤバかったらヤツに全部食わせよう」
「ああ、それで陽平連れてきたの。あんたもセコイわねぇ」
「るせっ」
もちろん、杏と会話は全部小声で、藤林に聞こえないようにしゃべった。
流石に保険を持ってきましたなんて、本人の前でどうどう言えるわけがない。
とりあえず、美味かったらそのまま全部いただいて、不味かった時は上手いことはぐらかして全部春原に喰わせよう。そのために防波堤だし。
と、言うわけで、状況把握ができていない春原をほったらかして椋から箸を受け取る。
「んじゃま、いただきます」合掌してそれだけ言うと、とりあえず手近な食い物に箸をつける。
「これ……何?」
「それは……ああ、塩鮭ですね」
いちいち確認しないと何がなんだか解らない時点で不安漂う。
おまけに作った本人でさえ確認するのに時間がかかるんだから恐ろしい。
だが、一度箸をつけてしまったものを元に戻すわけにもいかない。
何で弁当食うのに勇気を振り絞らなきゃいけないのかは解らなかったが、兎にも角にも勇気を振り絞って、俺はそれを口の中に入れた。
次の瞬間、口の中に恐ろしいまでの塩の味が俺を支配した。鮭の味どこにもしねぇよ。って言うかこれ、塩そのもの食ってるようなもんじゃねぇか。
これは……流石にヤバイだろ。
「どうですか?」
「どーですかどーでがすの問題じゃねぇ。藤林、おま、味見したか?」
「それは……その……」
「してないわよ。味見がてらにあんたに食わせようってことにしたから」と杏が代わりにはっきりと答えやがった。
「…………」
「スイマセン」
俺の反応を見て大体の予想がついたらしい。藤林が深々と頭を下げた。
「そんなに凄いの?」
信じられないといった風な目を寄越して、杏も中にあった適当なおかずを口に入れた。
次の瞬間、目を白黒させてあたりに何かを探し始めた。ああ、飲み物か。俺もちょうど欲しいと思ってたところだったから、自分の分と杏の分をコップに入れて、片方を渡した。
俺からコップを受け取った杏は、あっという間に中を飲み干し、はぁ、はぁ、と荒い息を出していた。
「確かにこれは、酷いわね。そばで見てたはずなのに、何でこんなんなったのかしら……」
「あぅ」
藤林がどんどん小さくなっていく。頼むから次からは食えるもの作ってから味見させてくれ。これじゃなんかの罰ゲームだ。
こんなの完食したら、間違いなく三大成人病を全部患って逝くぜ? 逝っちゃうぜ? そうと解ればさっさと春原にバトンをタッチしよう。
杏の方を見ると、やつも同じ意見に達したらしい。目が合うとお互い肯きそれを合図に杏が立ち上がり、気持ち悪いくらいの営業スマイルで春原の方へと掛けていった。
「ご主人さまぁ〜」
背筋に寒気が走った。あの杏が、あの、藤林杏が、春原に向かって甘ったるい声でんな台詞を吐くなんて言う現象を見て、背筋に寒気が走らないやつがいようか?
それは言った本人としても同じらしく、表では満面の笑みを作りつつも背筋の走った寒気を抑えようとしてるのがなんとなく解った。おまえすげぇよ。
春原に関してもそれは同様らしく、ワタワタしてうろたえていた。
「ど、どうしたの? 杏がそんな甘ったるい声でそんな子というなんて……さては偽者かっ!?」
「春原、これは夢だ。夢だから杏もそんなかわいい声でお前をご主人様呼ばわりするんだ」
「そうなの?」
「ああ勿論だ」
とりあえずこの弁当をなくすための努力を杏がしてるんだから、俺もできる限りのサポートをする。
「じゃあ、あんなことやこんなこととかも、してくれるのかなっ!!?」
元から頓珍漢な頭をさらに頓珍漢にさせた春原がとっち狂ったことを言ってくる。
「だ〜め、ご主人様。それはあのお弁当を食べてから」
「食べたらいいのっ?」
「食べれたら、ね」
「よぉ〜し、それなら僕さっさと食べちゃうよ」
見事なかわし方だ……おまけにさりげなく弁当を食わせようとしてるし。ホントに、恐ろしい女だ。
そんな算段にも気付かず、春原はのっしのっしと部屋の中へと入ってきて、どかっと弁当の座った。もうその気になってるよこいつ。……つくづくアホで助かった。
「う〜ん、おいしそうだね」とか何とか言ってる。いいから、解ったから。さっさと食って逝け。
「ハイご主人様、お箸をどうぞ」
やはり満面の笑みで、背筋の寒気をどうにかこうにか押さえた杏が、春原に箸を差し出した。
「うんうん、良きに計らってくれていいよ」なんて偉そうなことほざく春原。あ、ヤバ、杏の額に怒りの四つ角が……頼む、耐えてくれ。今だけでいい。
こちはハラハラドキドキもんだが、春原はそんなことすっかりお構いなしに箸を受け取り、弁当のおかずをひとつ、箸にとって口に入れた。
次の瞬間、やつの顔色が変わったが、杏も俺も見ない振りを決め込む。
「ご主人様、おいしいですか?」
「これってさ、おいしいとかそういう問題?」
引きつった顔で答える春原に対して満面の営業スマイルだった杏は、今度は目を潤ませてゴリ押しし始めた。……おそろし。
「おいしいですか?」
「嫌、あの……」
「食後は楽しみじゃないですか?」
「楽しみですっ!!」
「じゃあ、がんばって食べてください」
「勿・論・ですっ!!」
上目遣いで目を潤ませた実際には現実の、春原の中では夢の中の杏に、春原が堕ちた。
ああ、杏……今のお前、輝いてるよ。サイコーに輝いてるよ。真っ黒くだけど。
見事杏に堕とされたアホのやつ、弁当箱を持っていっぺんに口の中にかきこみやがった。
将来こいつ、ぜってぇキャバ嬢とかソープ嬢とかにいいように貢がさせられて破滅していくんだろうなぁ〜とか思った瞬間だったよ。
あぁあぁ、無茶食いもここまでくると引くね。さっきまでは営業スマイル全開だった杏も顔を引きつらせてる。
ことみは怯えてるし、藤林と古川はどっ引きだ。
そんな状態の俺たちとは無関係に、顔がどんどん蒼くなっていく春原は己の欲望に対して一直線に破滅への道を爆進していた。
だが、残り少し、といううところで、とうとう限界が来たらしい。
ドサッ……
とかいうパンパンに砂をつめた頭陀袋をぶっ倒したような音を立てて、ぶっ倒れた。
「お、惜しかったわねぇ〜、も〜ちょっとだったのに……」
引きつった笑みを浮かべながらも安心しきった表情の杏。まぁ、そりゃそうだろうな。
同姓の俺ですらあの欲望に直向かつ正直な春原の顔には引く。女の子だったらなおさらだ。
まぁ、弁当を全部平らげられなかったようで何よりだ。
とりあえず、残った弁当のおかずをひとつ箸でつまんで、藤林の前に持っていく。
「ほれ、あーん」
「ふぇぇえっ!!?」
「ちょ、ちょっとあんた、何する気よ!?」
おかずを口の前に差し出されて戸惑う藤林。杏は杏でたいそうびっくりしたご様子で俺をにらんでくれる。
そんな二人を無視して言ってやった。
「情けない声出すなっつーの。お前が作った弁当なんだから、一口くらい食えよ」
「でも……」
「あぁ〜、まぁ食いたくない気持ちはよく解る。だけど、だからこそちゃんと味がわかれば、次からはこうしようって思うだろ? これはその為のプロセスなんだから、一口くらいちゃんと食っとけ。ほれ」
しばらく、自分が作った弁当に怯えていた藤林だったが、やがて覚悟を決めたらしく、えいっという掛け声が聞こえてきそうな希薄で、口をあけてはしにパクついた。
次の瞬間には目を白黒させてバタバタと回りに何かを探し始めた。予想はついていたので、とりあえず飲みかけで悪いが、俺のコップを差し出す。
すぐさま受け取って、んくんくと飲み干して言った。
「つ、次はからはちゃんと味見をしてから、お弁当の中に入れるようにします」
一番正解だと思われる結論を付けてくれたようで何より。
まぁ、せっかく作った弁当を全部春原に食わせたんじゃ、弁当がかわいそうだ。
仕方ないから俺も覚悟を決めて、せーのっ! と勢いづけて残りわずかな弁当を平らげた。
…………死ぬかも。
おわり
---あとがき---
次回に続きます。
もっと短い予定だったんスけどね。なし崩し的に長くなっちゃいました。反省。
それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
(05/08/24)
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