満月衛星。
ss
- 朋也くんとメイドさん達〜磔にされるのはいつものことです編〜
な〜んてーかさ。すんごい状況なんだけど、今の俺。
俺の右太ももを枕にことみが寝てる。
同じように左太ももを枕に杏が寝てる。
足を伸ばすとことみにぶつかるからっていう理由で体育座りをして、右肩に古河がもたれかかって寝てる。
やはり同じようにして左肩には藤林がもたれかかって寝てる。
羨ましいと思うだろ? 実際やってみな? むしろ磔にされてる気分だから。身動き一つも取れやしねぇ。
『朋也くんとメイドさん達〜磔にされるのはいつものことです編〜』
「はぁ〜、今日はいい天気よねぇ〜」
「そうだねぇ〜」
「こういう日ってお昼寝したくなっちゃいますよね」
「ぽかぽか陽気の日にお庭でお昼寝すると、とってもとっても気持ち好いの」
数日前から決まった、なりきりメイドさんごっこのおかげで、彼女達は今日も今日とてメイドさん姿だ。
こんな姿を見慣れ始めてる自分がなんだかとってもヤな感じだ。
こんなもん、一生かかっても自分とは縁のない世界だと思ってたが、まさか自分が関ることになるとは思いもよらず……アホらしくもあり、アホらしくしかなし。
「そんなんだったらさっさと寝ちまえばいいじゃねぇかよ」
「どこで?」といぶかしげな杏に
「ここで」と俺は人差し指を下に向けて答えた。
「あんたアホ? こんな所で寝たって教室で寝るのと大した変わりないじゃない」
「床に寝っ転がって寝りゃいいじゃねぇか」
「んなことしたら服が汚れるでしょうが」
「でも、一応床はきれいにしてあるから、この服着たまま寝ても全然大丈夫だと思うよ」
「わっ、私、部室の床に寝っ転がって寝るのなんて初めてです」
「お泊り会みたいで楽しそうなの」
あれよあれよと言うまに今日の活動方針が決まっていく。
「えっ、あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ」と杏が止めに入るがそこは暴走したボケ専少女帯である。杏一人が止めに入ったところでどーしょーもない。
「ちょっと、あんたもなんか言いなさいよっ」とか言ってきたので、とりあえずなんとか言うことにする。
「杏、俺達の負けだ」
「あんた、裏切ったわね……」
「始めっから同盟なんざ組んじゃいないだろうが。おまけに、俺は既に諦めてるだけだ」
「……負け組み男」
「なんとでも言え」
ボソッと言ってきやがった杏の台詞に半ばヤケ気味で答えた。
そんな意味の全くない会話をしている間に、どうやら向こうでは会議が終わったらしい。さぞ有意義だったことだろう。
キャイキャイ言いながら俺のところにやってくる。どーやら俺がまたなんか出汁に使われるらしい。も、どーにでもしてくれ。
「ご主人様、来て」
ことみはそう言って俺を壁際に引っ張っていき、壁を背もたれにして俺を座らせた。なすがままにされる俺。
そのまま俺の脚を伸ばすと、ことみは右足に頭をおいて幸せそうな顔で言った。
「昨日言ったとおり、朋也くんのお膝で寝るの。おやすみなさい……」
といってそのまま寝てしまった。おいおい、寝付くのはえぇな相変わらずっ!
「それじゃあ、私達もご主人様の体をお借りしますね」
「おまえらもかっ!」
「だって、ご主人様はメイドにお給金を払う義務がありますから」と藤林。それに古河の声が続く。
「お給金の変わりに、お昼寝する時に枕になってもらいます」
そういってニッコリ笑った二人は有無を言わせずに俺の隣に来て、両肩にそれぞれの頭を預けた。
直ぐ隣から二人のシャンプーのにおいがする。……なんかヤバイ。かなりヤバイ。
「ああ〜、しょうがないわね。ま、昨日言った事が社交辞令にならないで行われるだけなんだから、たいしたことじゃないわよね」
それまで珍しく傍観者だった杏が、いかにも置いていかれたことを悔しそうにして俺のそばまで来た。
そのまま余った左太ももを頭に乗せて寝の体制に入った。
「言っとくけど、途中で起こしたらぶっ殺すからね」
人様の体の一部を枕にしといて物騒なこと抜かすな。
って言うかさ、今頃気が付いたよ。この状態になったら俺、なんもできないじゃん。どーしよう……
…………と、言うような過程を経て現在に到る。今も磔されてます。「唯今磔中」の紙でも黒電話に貼っておこうかしらん。
相変わらず両肩からはそれぞれが使ってるシャンプーの匂いがして、妙に甘ったるい気分になる。
視線を両腿に移せば、安心し切って寝ている自分の彼女と、喋らなければ意外に可愛いメイド長が揃ってスヤスヤと寝ていた。
なんだかんだ言って一番精神年齢が低いのは、実は杏何じゃなかろうか。
「んっ……」
いい加減誰か起きてくんねぇかなぁ〜とかうすらぼんやりと考えていると、右肩から反応があった。古河だ。
よし、起きろ起きろ起きろ起きろ…………と怨念を送ると、寝惚け眼でうっすらと目を空けて俺のほうを見てきた。
うっ、ヤバイ。メイド服とあいまってか、ことみがいるっつーのに可愛いとか思っちまった。
「おはようございます」
「応、よく眠れたか?」
とりあえず変な緊張が気取られないように、当たり障りのない質問を投げかける。
「ハイ、岡崎さんお父さんみたいで、どこか安心できます」
「おいおい、俺は同級生の女の子の父親になった記憶はないぞ」
「えへへ、そうですね、スイマセン。あ、紅茶飲みます?」
「ああ、あるなら入れてくれるとありがたい」
「ことみちゃんが毎日水筒に入れて持ってきてくれてるんですよ。私も今度淹れ方を教えてもらおうと思ってるんです」
「そっか。ま、古河が入れてくれる茶も、楽しみにしてる」
「はい」とだけ笑顔で答えるとことみが水筒と一緒に持ってきたであろう紙コップを取り出して、水筒から紅茶をコポコポと注ぐ。
こういうシチュエーションでメイド服ってバッチリはまるのな。古河が本物のメイドさんに見えた。
「ハイ、どうぞ」
「ああ、サンキュ」
ぬるくなった紅茶をズズゥーッと啜る。随分前に飲んだ紅茶の味と似てる。確か、アールグレイっつったか。あんま詳しいことはしらねぇから良く解らんが。
「んっ?おまえは飲まないの?」
「一応、メイドさんですから」
「そんなこと気にすんなよ。そこを気にしたら杏なんてどーするんだよ?」
「それでもやっぱり、こういう機会に役作りの練習をして、いつか演劇をやるときの役に立てたいですから」
苦笑しながら言う俺に古河は真面目に答えていた。杏が面白半分で始めた企画でも、彼女は真面目に捉えて何かにしようとしているんだ。
そう思うと、それは凄いことで、俺は素直に尊敬してしまっていた。
「古河……おますげぇな」
「ええぇっ!!? そんなことないです、私なんか全然です。私なんかよりちゃんとした将来の夢を持ってる椋ちゃんや杏ちゃんやことみちゃんの方が全然立派です」
「そんなことねぇよ。俺なんかが言っても説得力ないかもしんないけどさ、古河も十分立派だよ」
「あの……そうでしょうか?」
「勿論。でも、寝起きでいきなりメイドさんが寝起きでいきなり岡崎さん呼ばわりは、減点モノなんじゃないか?」
「ええぇ!? そ、そうでしょうか!!!?」
「それに、古河内立派な人には俺は含まれてないらしいしな。ご主人様ちょーショック」
「そんなそんなっ滅相もないです、ご主人様はことみちゃんを支えてとっても立派です」
イッパイイッパイになりながら必死でフォローしようとしている古河がおかしくって、思わず吹いてしまった。
それで古河も自分がからかわれた事に気が付いたらしい。
「ご主人様、酷いです」
と言って口を尖らせて拗ねてみせる。なるほど、古河にもこんな表情があったんだな。
「わるいわるい」と軽く謝ってコップの中の残りの紅茶を飲み干した。
そばにコップを置くと直ぐに古河が水筒を持ってきてくれて、コップに紅茶を注いでくれた。
「アリガトな」
「いいえ、当然のお仕事ですから」
そう言ってニッコリと笑う。
ま、他の連中は寝てることだし、このまま古河の演劇の練習に付き合いますか。俺、一歩も動けねぇけど。
それから暫くして、椋とことみがむっくりと起きてきた。なにやらやっぱり二人ともぐっすり寝れたようで、よかったねっ。
これだけでだいぶ楽になった。後は左腿で寝てるこいつ一人なんだがなぁ〜。
「お姉ちゃん一度寝るとなかなか起きないから」
「それはしょっちゅう聴いてるから知ってるが、どーにかならんのか、こいつ?」
「流石に私でも……」
苦笑しながら答える藤林は、どーにもならないことを目で語っていた。ああ、そーなの。どーにもならないの、このメイド長。
なぁ〜んか良い方法ねぇかなぁ〜。下手に起こすとぶっ殺されるから、悪意のない善意、すなわち結果余計なお世話でした的なものとしてやらなきゃいけないわけだ。
仮に悪戯で額に「肉」なんて書こうもんならこっちの頭がミンチにされそうだし。ブルブルブルブル。
ああ、そうか、一つ良い方法があったわ。これなら多分、いや、絶対にコイツも起きる。むしろこの方法で起きなきゃ藤林杏じゃねぇ。
とりあえずどうするかね。適当に会話してれば……は難しいな。もうちょっとヤツを覚醒させるに足るものにしないとな。
パンチの効いたやつじゃねぇとヤツは目覚めねぇぜっ! ……ってなに言ってんだろね、俺。ああ〜ボケ会話をうまく展開させるのって難しいよな。まぁ何はともあれ適当に転がすかね。
「寝てる人間をさりげなく起こす方法ってなんかあったっけか?」
「西洋の昔話とかだと、やっぱり眠ってるお姫様は王子様のキスで目覚めるのが普通ですよね」
「杏ちゃんお姫様なの」
「おいおい。コイツがお姫様ってガラかぁ〜? 泣いた赤鬼とかだったら行けそうな気もせんでもないが」
「そんなことないですっ、杏ちゃんはとっても可愛いです」
「そうだよご主人様、お姉ちゃん結構モテるんだから」
「杏が……モテる?」
信じられん、意外な新事実だ。それもと新手のギャグだろうか……。
でも確かに、立てば芍薬 座ればボタン 喋る姿は食虫植物、な杏だから口さえ開かなきゃ良い線行くんだろう。
おまけにアレで結構面倒見がいいからな。でもそういう面倒見の良いやつがモテる相場って言ったら
「この間もお姉ちゃん年下の女の子からラヴレター貰ってたんだから」
「わぁ〜、杏ちゃんモテモテなの」
「杏ちゃん可愛いですから。わたしも時々どきどきしてしまう時がありますから」
ちょっと待て。古河、古河、後ろの発言になんかちょっとした引っ掛かりを感じたぞ。で、やっぱ同姓受けなのね。そんな気がしたよ。
ま、まぁ、気をつけろよ? この場合気をつけるのは古河なのか、それとも杏なのかは解らんが。
でも、そうと解ればするこたぁ一つだわな。
「それじゃあやっぱここは一つ、藤林か古河に熱いベーゼをしてもらうってのが杏を起こす最良の方法ってことで」
「って、なんでやねーーーーーーーんっ!!」
スパーーーーーーンッ!!
……ハリセンで撲られた。たいしたボケでもなかったが、同姓同士のベーゼは向こうとしても避けたいものだったらしい。
ブチキレモード全開だ。
「あんた達ねぇ、わけわかんないこと言ってっと全員あ〜んなことやこ〜んなことするわよ?」
俺を含めその場にいた全員が揃って一斉に首を横に振る。相変わらずこういう時の杏の目っておっかないんだ。
それにしたって寝起き早々で四方八方にツッコミではなく脅しをかけるこの女。……お前、低血圧なんじゃなかったの?
でも、あ〜んなことやこ〜んなことねぇ……イカンイカン、ちょっとされてみたいとか思ってしまった。煩悩退散煩悩退散。
「因みにあんたはその唇剥ぎ取って、代わりに辛子明太子から明太子を抜いたものだけを擦り付けるわよ」
「何で俺だけっ!? って言うか、辛子明太子から明太子差っ引いたら、それって単なる唐辛子とちゃうんかいっ!?」
「ぜんぜん違うわよ。日本酒使ったり鰹出汁とったりで色々と手を加えなきゃいけないんだから」
そんな手のかかることしないでさ、もっと穏便にいこうぜ? ダメ?
「とりあえず……」
どーやらダメっぽい。寝起きで機嫌が悪いんだか、まるで起きて会話を聞いていて機嫌が悪くなったのか解らんが、とにかく機嫌が悪いのを無理やり隠しながら、言った。
「わけのわかんないボケで人様の眠りを妨害してしてくれた落とし前を、つけないと……ねぇ?」
う゛ぞ……
「ほ・ん・と」そういった杏の笑顔は、恐ろしく、ただただ恐ろしく、そしてキレイだった。
ぎ……ぎぃ〜〜〜〜やぁああぁあぁあぁああぁああぁあぁぁああぁぁぁあああああっ……
おわり
---あとがき---
渚をメインで出張らせてみるつもりがやっぱり杏がでしゃばってました。多分次があれば椋あたりが出張ってくるはず。
続くならことみもどっかで出張らせたいな。なにせことみシナリオでことみがヒロインですからね。
どっかでちゃんとその辺のものを意識したものを作ってあげないとね、続くならば。
それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
(05/08/14)
P.S.
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