満月衛星。
ss
- 朋也くんとメイドさん達 〜ご奉仕と言う名の拷問編〜
針の莚ってさ、こういう時に使う言葉だとと思うんだよ。
狂ったアルカイックスマイルで嬉しそうに人様の事情を吐かせようとしてるのが一人(メイド服)。
なんとも言いがたい微妙な、でも興味心身としか言いようのない視線でこっちを見てるヤツ二人(両方共にやっぱりメイド服)。
そんなやつらに質問と言う名の尋問をこれから受けようとしていた。これを針の莚と言わずになんと言う?
こんな状況じゃ下手したら尋問から拷問に……というコースにもなりかねない。ヤバイ、そんなことになったらまさしく地獄絵図じゃないか。
……こんな状況を俺にどうしろと?
『朋也くんとメイドさん達 〜ご奉仕と言う名の拷問編〜』
因みに、半分くらいは当事者のはずが、はてなマークを回りにとっちらかして「何でこんなことになってるの?」といった風で状況を把握してないヤツが一人(以下略)。
っていうか俺の彼女。超傍観者でやんの。頼む、助けて。でなけりゃこの恐怖な状況も半分こしてくれ、頼むから……
「で、あ〜んなことも、こ〜んなこともしてないあんた達は、二人でいる時間に何してんのよ、ご主人様?」
こんだけ狂ったアルカイックスマイルがはまるおまえっていったい何者だよ?
「本当は聴いちゃいけないと思うんですけど……、わたしも岡崎さ……いえ、ご主人様とことみちゃんが普段どんなことをして過ごしてるのか、凄く興味あります、ご主人様」
「岡……ご主人様、素直に言ったほうが身のためだよ?」
なにやらご主人様と呼ぶのはもうデフォルトになりかかってるらしい。なんのこっちゃ。
んでもって、ご主人様とか言うとっち狂った名詞でオブラートに包まれているように聴こえるが、じみぃ〜に一番脅迫めいたことを言ってる藤林のリアルで心配そうな声色が、またなんとも言えないくらいに不安を誘う。
ホントによぉ〜、人様のそんな事情聴いて何が楽しいんだよぉ。
「って言うかなんでご主人様とか言われてる俺が、メイド服着てるおまえらに尋問されてんだよっ!? わけわかんねぇよっ、普通逆だろうがよっ!!」
「そりゃアレよ。メイドにはご主人様のお色事情を知る権利があるからよ」
「ねぇよそんな権利」
「んじゃぶっちゃけて、あたしたちが知りたいから」
「ぶっちゃけ過ぎだーーーーーーーっ!!」
「あ〜、五月蝿いわねこのご主人様は。いいからさっさと吐きなさいよご主人様、その方が身のためよ?」
……すげぇ面倒くさそうに言う。もぉ身も蓋もねぇよ、このメイド。
「だぁかぁらぁ、ホントになんもしてねぇんだよっ!! してることっつったらせいぜい飯喰って、ことみのヴァイオリン聴いて、本読んで、宿題片付けて、そんくらいだっつーのっ!」
「あんた、もしかしてことみが料理してる時は裸エプロンなんてさせてないでしょうね?」
「あほかっ!」
後ろから抱きしめたりはしたが、それは言わないでおこう。
「一緒にお風呂に入ったりとかは?」
「もっとできるかっ!!」
風呂から上がったことみの髪をドライヤーで乾かしたりはしたが、これも言わないでおこう……
つーかこいつの発言は何でいちいちオヤジ臭いんだ。
「ホントでしょうね?」
「嘘ついてどーする」
全部を言ってないだけだ。嘘は言ってない。神に誓って。
「ふ〜ん」
「なんだよ、その怪しげな目線は」
「なぁ〜んかまだあるような気がするのよね」
す、鋭い。これがいわゆる女の感ってヤツなんだろうか。杏の場合は悪魔の勘とか言うとぴったりに見えるが。
「まぁ良いわ、椋」
「なに?」
それまで傍観者だった藤林を手招きすると、不安そうな表情ので藤林が返事をした。
何する気だコイツ?
「ご主人様の発言に嘘がないか、トランプで占ってちょうだい」
「うん、それは良いけど。ご主人様は全部言ったんじゃないの?」
「それを審議するためにあんたに占ってもらうんじゃない」
「解ったよ」
藤林の占いなら、今まで全部正反対に外れてたから、今回もまぁ無難に外れるだろう、安心してみてられる。
ん? 「正反対に外れてた」?
……なんか一瞬ヤな予感めいたものが頭をよぎったが忘れよう。忘れよう。忘れよう。忘れなきゃだめだっ!!
とりあえずそんなことを考えながら、今までどおり危なっかしい手つきでトランプを切る藤林に視線を移す。
シュ、シュ、シュ、シュ……
バララララララ
んでもって今までどおり、ぶちまけた。
趣味が占いといってトランプを使うのもどうかと思うが、それ以前にどうして毎回こうも見事にぶちまける?
そんな俺の関心とは無関係に藤林は床にぶちまけられたトランプたちを見つめてうんうん唸っていたかと思うと顔をあげて言った。
「お、じゃなかった、ご主人様は全部をちゃんと言いました」
「ことみー」
「???」
「ちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇ、どーして藤林が俺は全部言ったって言ったのにことみに確かめるんだよっ!?」
「全部言ったんだったら別にやましい事なんかないんでしょ? だったらことみに聴いたっていいじゃない」
……言い返せない。おまけに杏は俺のリアクションを見てなにやら核心めいたものを感じ取ったらしい。目がまるで獲物を狙う肉食獣のような目になっていた。
おかげでことみはめいっぱい怯えた表情で俺の後ろに隠れてしまった。……俺もどっかに隠れたい。むしろ逃げたい。
「いじめる? いじめる?」
「朋也と二人っきりの時にどんなことして過ごしてるのか教えてくれたらいじめないわよぉ〜?」
思いっきり脅迫してるでやんの。おまけに呼び方もご主人様じゃなくなった。
それはそれで安心できるが、今ある不安はまた別の所にある。
ことみはことみで、言わなければヤられるっ! くらいの危険を感じ取ってかペラッと喋りだしてくれた。
頼む、余計なことは言わないでくれよ……
「うんとね、ご飯食べたり、ヴァイオリンの練習したり、ご本一緒に読んだり、一緒に宿題したり、してるの」
「ふ〜ん、大体のことはあってるみたいね」
「だから嘘は言ってないって言っただろうがっ」
「まだよ。ことみ、他に朋也は何もしてくれないの?」
「ううん、朋也くん私にいっぱい色々なことしてくれるの、凄く優しいの」
「ほっほぉ〜ん、どんなこと?」
ヤバイ。背筋に厭な汗が流れ始めた。
「私がお料理してる時は後ろからギュッてしてくれるの。凄く安心できるの」
「それから?」
ヤバイ、ヤバ過ぎる。顔から血の気が引いていく。多分俺の顔は今とってもとってもブルースカイになってるはずだ。
そんな俺の顔色とは正反対にことみの顔はどんどんと朱に染まっていく。そんなことみの表情に見惚れちまった間にことみが次の封印を解いてしまった。
「お風呂から上がった後にね、ドライヤーで髪を乾かしてくれるの。凄くふわふわして気持ちいいの」
「それから?」
一方ではことみに愛想よく微笑んでいる杏は、もう一方で悪魔を通り越したサタンよろしくな笑顔で俺に微笑んでいた。まるで阿修羅男爵だな。
本能が逃げろといっているが、杏の笑顔がそれを許さなかった。
いても殺される、逃げても殺されるというこの状況、ヤバ過ぎる。この状況はとってもとってもヤバ過ぎるっ。このままアノことまでばれたら、俺は、確実に……殺される。
「それにね……」
ヤバイヤバイヤバイっ!! それ言うのだけは絶対にヤバイってっ!!
兎にも角にもことみに、それを言ったら俺が超絶に不味いことになるということを伝えねば。
愛コンタクトで伝われっ、俺のメッセージっ!!
「どうしたんですかご主人様、そんな熱い目線でことみちゃんを見つめて」
……古河、おまえが受信してどーする俺の愛コンタクト。
おまけにエンコードが途中で変わったのか、物凄く違う意味に捉えられてるっぽい。
さらに古河の言うことをわざとそのまま受け取った杏が、ますます素敵に顔を愉快そうに歪ませる。
「あらやだ、そんなに熱い目線でことみを見つめてたのね。それはさぞかし素敵なことをしてたんでしょうね……」
怖い……もはや鬼の形相という言葉すらナマッチョロイと思われるヤツの表情に、俺は戦慄を覚えた。こんなメイドに誰がしたっ! って元からか。
ことみは杏に脅されてたことも忘れて嬉しそうに話してるし。惚気かよ。
「うん、私が不安になったり怖くなったりした時に朋也くん、一緒に寝てくれるの」
サッブゥングシャァッ……つーーーー
もはや動体視力ではなく本能で避けたといってよかった。頬に走る液体の感覚があることで、俺は自分が生きていることを感じ取った。
手で拭ってその液体の正体を確かめた。うをっ!? 血じゃねぇかよっ! っていうことは何か、ソニックブームかなんかで俺の頬は切れたの? そんなの当たったら顔が砕けちゃうぞ?
恐る恐るグシャァッって言うヤな音が聞こえた後ろを見てみる。……うわぁっ、辞書が壁にめり込んでるっ!? ……よく避けたよ、俺。
「とぉ〜もぉ〜やぁ〜くぅ〜ん?」
なんだろね、このすべてを通り越して笑うしかなくなったみたいな超絶な笑顔は。
「あぁ〜んなことやこぉ〜んなことはしてないって、言ったわよねぇ?」
「ベッドで一緒に寝てるだけなんだから別に好いだろうがよ!! 第一、俺とことみは付き合ってんだぞ? 一体全体何処に問題があるんだよ」
「メイドは思いました。若い男女が一緒のベッドにいて、何も無いはずがない、と」
「なんもできねぇっつーの。第一、一緒に寝るのはことみが不安定な時だけなんだよ。だから俺に抱きついてそのまま寝ちゃうんだから、進みようがねぇっつーのっ!!」
「朋也くんの心臓の音を聞いてると、とってもとっても安心できるの」
「…………」
「…………」
「…………」
そのびみょーな顔で俺を見るのは止めてくれぇ〜〜〜〜〜〜っ!!
っていうかそんな台詞を聴いちゃって、当事者の俺ですら恥ずかしくって背中が痒くなってきた。痒い痒い痒い痒い。
「……はぁ〜、なんかもうどーでもよくなったわ」
「あ?」
一つため息を吐いたかと思うと杏はそういって、何処からか出納を取り出し中の飲み物をコップに注いで飲んだ。
なんだなんだ、わけわかんねぇぞ。いや、こいつがわけわかんねぇのはいつものことなんだが。
「ヤラシイことしてことみに負担かけるようだったら、ぶちのめしてやろうと思ってたんだけどね」
「誰がンなことするかっ!」
「ことみの惚気話聞いてりゃ解るわよ」
「その前に俺の話を信用しろ」
「まぁでもこのメイドごっこもなかなか面白いわね、演劇の練習がてら、皆でちょっとメイドになりきって見ましょうか?」
「杏ちゃん、それは素敵なアイディアですっ」
「おいおいおいおい、人の話を聴け。おまけに何処も素敵なアイディアじゃないと思うぞ俺は」
「私もいい案だと思います」
「私も杏ちゃんの案に賛成なの。メイドさんごっこ、とってもとっても楽しいの」
「ええー、そんわけで、3対1の賛成多数により、演劇部の活動としてメイドさんになりきりたいと思います」
「「「はぁ〜い」」」
か、数の暴力だ。
「はぁ〜い、それじゃあ演劇部の活動が決まったと言うことで、早速最初の仕事をするわよ。皆並んでー」
メイド長よろしく杏が手をパンパンと叩いて集合をかけると、ことみたち三人が杏の横にキレイに並んだ。
おま、何時の間にこんな芸を仕込んだんだ?
「それじゃあ改めて、ご主人様に挨拶するわよ」そういって自分も横に並んで俺のほうを向く。
「いっせーのっ!」
「「「「よろしくお願いします、ご主人様」」」」
満面の笑みでそういわれて、ちょっとまんざらでもない気分に一瞬でも陥ったことに自己嫌悪を覚えた。……死にてぇ。
そんなわけで、メイドよりも立場の低いご主人様の称号を、俺はこの日獲得させられた。
これから先が思いやられる、と言うか不安でイッパイなのは、俺だけだろうか?
おわり
---あとがき---
かきさんとの賭けに負けて作ることになりましたこのシリーズ、何時まで続くのか正直私には解りません。
ま、何のリアクションもなければ2話で終わりますけどね。2話しかなくてもシリーズ完結です。
そんなわけでこのシリーズは私に力を与えてくださる方々が居ないと更新されません。
その辺、お忘れなきよう努々ご注意を……。応援くださる方が居ればいるほど私は元気になりますよ。
端的に言うと、続きが読みたきゃ感想をくれ。飽きたらほったらかせ、と言う感じですよ。
それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
(05/08/07)
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