痛ミニ咲イタ花 〜Flower on the PAIN〜



ある日、小さな村の小さな家で一人の子供が生まれた……
この話はこの子供の半生……
子供は後に『エンフィールド』と言う町で『ジョート』と名乗る人間である………



彼が生まれた日、空には一点の雲も無く空は澄みんだ青空が広がっていた。しかし彼を生んだ者たちの心は青空とは逆の表情。
彼らが望んだのは女の子。しかし生まれてきたのは『男の子』だった。2人目…そう、この夫婦に男児は『2人目』だった。

1年と少し前彼らは男の子を授かった。第1子が男の子、すなわち長男。2人にとってこれほど幸運な事は無い。
2人は大いに喜び、特に父親は長男を溺愛した。そしてこの第2子の誕生である。

2人が望んだのは『女の子』だった。どちらかと言えば長男を望んだ父親よりも、『女の子』が欲しいと望んだのは母親で、彼女の希望が特に強かったが、それでも二人とも確かに望んでいたのは女の子だった。

2人は失望した。『男の子か………』落胆した父親からでた言葉は重い。
1年前に生まれた長男は今現在1歳と少し、手のかかる時期である。
そこで夫婦は生まれた子供を母親に預け長男の2人で育てた……

それから2年後、夫婦はまた子供を産む。今度は『女の子』だった。これには母親が歓喜した。
こうして長男は父親が、長女は母親が、それぞれに愛を注ぎ、次男は祖母の下で育てられる事となった………

次男に物心がつくと祖母が彼に教えた事は2つ。『炊事洗濯等の家事作業全般』と『日曜に教会へ行く事』のみだった。
そして、祖母の教育方針は一つ『他人に頼んな!全てテメェでやりやがれっ!!』だった………

村に唯一ある保育園に入ったころから、彼に一つの変化が訪れる。
それは『いじめ』だった。所詮は子供のいじめで『仲間外れにする』程度のものではあったが、それは執拗で、そして徹底していた。

原因は『見た目』。このころの彼ははっきり言って可愛かった。チマッとしていて目がクリッとしていて、見ためはまるでの人形。
両親にとってはそんな事はどうでもいいことだったが、傍から見る分にはそれは申し分なく可愛いものだった。

その『見た目』が仇となり彼は虐めの対象となる事になる。主犯は同じクラスの女の子。
彼の見てくれを嫉んだ彼女は即座に入園したばかりに出来た友達に嘘を吹き込み、彼をクラスの輪から追い出す事に成功する。

入園してわずか1週間で周りから無視されるようになった彼は困惑した。
保母達の方も事の異常さに気付き、彼を園児達の輪の中に入れる努力をしたが、それも無駄と化した。
園児は始めは中に入れたフリをすれど、保母達が居なくなった途端にまた彼を無視し始め、結局彼はまた1人となった。

そしてついに彼は保育園に行かなくなる。ただ、保育園に行かないと親が五月蝿かったので、行くフリをし、日中はどこともなくボーっとしていた。
しかしそんな生活も2週間と続かなかった。ボーっとしている所を親に見つかったのだ。
その日彼は親にこっ酷く起こられた。両親は原因を聞こうともせずに一方的に彼を攻め立てた。『親』としてではなく彼を『恥』とみなし攻め立てた。
この時…彼は幼くして悟った。この親は自分に対して『何も望んでいないのだ』と………
祖母は祖母で『テメェで何とかしな』と言うばかりで何の解決方法も彼に与えなかった。
そして彼は決める。誰にも、何も語らずに全てを自分の中に閉じ込める事を………

そんな彼の心の捌け口は週に1度の教会への礼拝。ここでは神様のみが自分の苦痛を聴いてくれるのだと思うと彼の気は晴れやかだった。
神父様との話も彼には正に神様のお告げだった。神父様は言う

「願いなさい。神はあなたを何時でも平等に見ています」

と。彼はそれを信じた。そして願った。『なかまはずれにされませんように、ともだちができますように』と………

その後も彼の孤立無援の『戦い』は続いた。
戦う相手がなまじ『集団生活』そのものであるために、彼に対抗手段は無く何時しか彼は人を避けるようになり始める。
保育園に行くも誰とも関わらず、誰にも触れず誰も近づけさせなかった。保母の方は相変わらず無駄な努力を続けたが、やはり無駄で終わった。
お互いがお互いに輪に入ったフリをし、保母が居なくなると自然に輪から彼のみが離脱した。
家に帰ったら帰ったで彼にまっていたのは『遊び相手』でも『孤独』でもなく『家事』だった。
家族5人分の料理を作り自分1人分は分けて、家族とは別で食べた。それも誰も気にする事は無く、彼はやがて1人という『もの』に慣れていく………


保育園を卒業すると今度は義務教育上『村で唯一の』小学校と言うものに入れられる事となる。
『村で唯一』、と言うのは彼にとっては曲者極まりなかった。
もっともこの村には保育園も、小学校も、中学校も『1つ』しかないので、諦めてはいたが………
そんな訳で小学校に入学したその日から彼は今まで通り『1人』になった。本人が望む望まないに関わらず。

教師も教師で事なかれ主義を押し通す。明らかにクラス中から無視されているのは傍から見て解る事だったが、見てみぬフリをした。
見てみぬフリをする事で問題に蓋をして隠したのだ。こうして彼は教師からも無視されるようになる。
彼も彼で『教師はこういうもんなんだ』と納得してしまったのだから、彼にも問題は有ったのだろう。

この状態の中、彼はほとんど勉強をしなかった。
元々本人にやる気は無かったが、一度まじめに勉強をしようと試みて教師に質問を投げかけたところ、教師が構う事は無かった。
これで彼は自分が『クラス』からだけでなく『教師』というものからも無視されている事を完全に把握し、勉強はしなくなる。

しかし、小学校は1つだけ彼にいいものを与えてくれた。それは『図書室』だった。
ここには余り生徒はこない。本を借りる事も出来る。何より本と言うのは格好の『暇つぶし』の相手になった。
そして彼はここで本を読んだり、人が居るときは借りて他の場所で1人で読むようになった。

彼が読むのはもっぱら『物語』と『推理小説』。随筆は人の考えなんて読んでも面白くなかったし、伝記についても同様。
その点『物語』や『推理小説』は違った。人の創る想像の世界と言うのはの見て居ていて面白かったし、推理小説はトリックを創る者と、それを崩す物の駆け引きが何ともいえない高揚を彼に与えた。

しかし、『本の中』と『現実』は逆ベクトルな位置にあった。
この頃からクラス中からのシカトの他に呼び出しを喰らい始めた。今度の理由は『本ばっかり読んでいて気持ち悪い、暗い』という理由から。
放課後学校裏に呼ばれてはリンチを喰らった。
一度反撃を試みてスパナを持って対抗し、全員の骨をどっかしら一箇所以上折ったところ、これが学校中で問題になった。

親は呼び出しを喰らい、その後、親は呆れを通り越し、ついに彼に関わろうとする事は無くなった。
同時に彼には『気味悪い』『暗い』というイメージに新たに『不良』と言うイメージが加わる事となった。

この頃からまた彼はひとつ悟る事となる。

「この世に神なんざ居ねぇ。不公平な世の中に神なんぞ居るならそいつは偽者だ。」

彼にリンチをけしかけた連中の中に新婦の息子が居て、学校側に襲った息子はずの息子が襲われたと言う事にし、彼に罪を全部擦り付けた事も彼を神様否定させる原因にもなった。
この事件の後、彼は教会という物に近寄らなくなる。一回近寄った事が在ったが、気持ち悪くなって胃の中の物を全部出した。

その家で相変わらず彼は『家政夫』だった。ある日、物心のついた妹に『お兄さんだあれ?』と言われた。
彼は冗談で『家政夫の者ですよ。』と答えた。以後、妹は彼のことを『かせいふのひと』と言うようになる。
家族と言う概念が家に居る他人どもに沸かなくなり、適当に答えたのだが、これが益々彼と家族との距離を創るのに協力した。

『な〜んつーかさ、俺もアホだよねぇ〜』

後になってジョートはこのことを『バカな事をしたもんだ』と自分ながらに呆れていった。
親も親でそれについては何もとがめる様子は無かった。
『こんなもんか…』彼の方もそんなリアクションしかもはや浮かばなかった。


中学にあがっても、彼の生活は変わる事が無かった。が、フとした事で彼の人生が急激に加速する事となる。

祖母が死んだ。死因は寿命。あっけないものだった。
徐々に衰弱し、ある朝ぽっくりと逝ってしまった。

中等部に上がって間もない頃、一度『死』と言うものに興味を示したことが有った。
その時は剃刀を手首に当て、自殺を試みた。だがその手首は切られるどころか、剃刀が当たる事も無かった。
切る事が出来なかったのだ。剃刀が手首に近づくにつれ剃刀を持つ手が震え、ついに彼は恐怖から剃刀を手から落とした。

そして彼は生きる事に執着するようになった。『死』と言うものが『生きる事』以上に怖かった。
彼は弱かった。しかし弱いゆえに『生きる事』に執着した。
それに死に損ねた時、後に残る傷跡を見た時、後悔することも目に見えた事も原因の一つ。
その時から『自殺』と言う考えは彼の頭の中から消え失せる。『死の恐怖』より『生きている恐怖』の方がまだましと感じた瞬間だった。

そんな彼が一時期憧れた『死』を祖母はあっけなく手に入れてしまった。
あっけは無かったが、祖母の『死』は確かに彼の中に何かを残した。近くて遠い者の『死』。あっけなく訪れる『死』。
彼女は生きている間に何かを残したのだろうか?そんな疑問はある日突然に変わる。

自分は何か残したのだろうか、このままで残せるのだろうか………

この問題に直面した瞬間彼の中で瞬間的に答えが出た。『何もしていない!!』次の瞬間、彼は動き出した。
家の人間が寝静まった頃を見計らい家の中で旅に使えそうな物を洗い出しリュックに詰め込む。そして親のへそくりを全額かっぱらい街を出た。
手配書が回る前にそれが回りそうな範囲から抜けづために三日三晩歩き続けた。

やがて歩き疲れ、とうとう歩く事が出来なくなると、彼は道端に倒れこみ両手を天に向けた。
自然と笑いがこみ上げてくる。生まれて始めて味わう生きる事への期待。何もしないのではなく、何かをしなくてはいけない。
それはある種の強迫観念でもあり、また、生きるための最低条件でもあった。

そんな中、彼を覆うのは妙に気分は清々しくて『してやったり』的な充実感。
掴み取った『自由』。自ら選んだ『孤独』がそこにあった。


旅はある意味、村に居た時よりも酷いものだった。
しかし、どんなに酷くても彼は生き耐えたし、そこには残る何かが在った。
裏切られる事も、また裏切る事も全ては生きるため、なんでもした。偽善も欺瞞もお愛想も厭わない。
彼は生きることに関して貪欲だった。

全てを無駄にしないためどんな事でも己の血肉へと変える。
そんな痛みの上に彼は咲いていた。


やがて彼は『エンフィールド』と言う街で一人の少女と出会う。
少女は『孤独』を恐れていた。

孤独を『望んだ』青年と、孤独を『恐れた』少女は、まるで磁石のように惹かれていった。
そしてお互いを補うように今、少しづつ、歩みだしていた………


痛みに花を咲かせた少年は新しい『種』を持って、新しい花を咲かせようとしていた………




あとがき
ハイ。そんな訳で創ろう創ろう思っていたジョートの過去です。
『彼』という風に表記しているのは本名を出したくないから。

読んだ人の中に何か残れば、これ幸い。
んな感じ。じゃ、

PS.感想を下さった方全員にボツになったヤツ差し上げます。
  欲しい人は感想書いて最後にでも『寄越せ』とでも言ってください。
  所詮ボツ作なんで、大したこたぁございませんが。
  

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