無限の零 其の1



<深夜・リベティス劇場>
ピアノの音が響き渡っている。
決して上手いと言うわけではないが、楽しそうに弾いているであろうそのピアノの音は、聴いている者を引きずり落すような感覚に陥らせた。
やがて静かに曲は終わる。傍には2人の女性が居て1人は柔らかい物腰でピアノの音を聞いていた。
もう1人は気持ち良さそうに寝ていた。体には演奏している人間の着ていたであろうジャケットが掛けられている。
演奏していた男は鍵盤から静かに手を下ろすと『ふぅ』と軽く息を漏らし起きていた女の方を向いて言った。

「まあ、大体こんなもんじゃないか?」
「そうね。あたしはもうちょっと完成度を上げて欲しい所だけど…及第点ってとこかしら?」
「げぇ、ここまで上げて及第点かよ〜…あんなぁ、随分前にも言ったけど、俺はピアノは人並み以上天才以下なんだぞ?」
「それを込みでの点数よ。」
「ハァ…そんな事言うんだったらおまえがやれっつーの。」
「アラ?それじゃあ今から変わる?」
「ジョーダン。ここまでやっといていまさら引き下がれるかっつーの。」

『楽しみを取られてたまるか』とでも言うように男は女に向かってニヤリと笑って言った。それを聞いた女の方も『解ってるわ。』と言って言葉を続けた。

「明日からいきなりって言うのはキツイでしょうから、中1日空けて明後日からで良いかしら?」
「上等、それじゃあそれまでに衣装やれなんやれは揃えておくわ。ま、大体もう出来てるみたいだし。」
「そう、それじゃあ明後日から宜しくね。」
「ん」

男は短くそう応えると、座っていた椅子から立ちあがって伸びをした。そして

「さて、と…さっさとオマケのバイトの方片付けますか。あ、更紗は起こすなよ。」

と言って奥の袖に向かって歩き出した。女も『解ってるわ』と短く応えた。
そして寝ている女の寝顔を見ながら『ここまで愛されてるのを見てると正直羨ましいわね。』と呟いて奥から掃除用具一式を持ってきた男に言った。

「それじゃあお邪魔しちゃ悪いでしょうから、私はそろそろ帰るわね。」
「ん、気ぃつけて帰りや。」

短いやり取りが終わると、男はそのままリベティス劇場の掃除を始めた。


<2週間後、自警団第3部隊・詰め所>

「そう言えばさ、最近ラ・ルナで流れるって言うピアノニストの話し、知ってる?」
「あ、私もその話し聴きました。確か…背の高い男の人が弾いてるって言う話しでしたよね?」
「でも、そんなには巧くないって言う話しじゃなかったっけ?」
「そうだけど、窓越しにパッと見ただけだったけど結構カッコよかったよ。」

朝のミーティング中トリーシャがフと思い出したように話し出した。
フローネとパティは知っていたらしく話に花を咲かせ始めたが、普段からそう言う情報に疎いキャルは『なんだそれ?』と呟き、キャルの肩に腰掛けている咲耶に聞いた。

「咲耶は何か知ってるか?」
「ラ・ルナでしょ?普段誰かさんが晩御飯を缶詰ばっかりにするからそんな話は聴かないわよ。」
「ぐっさぁ…傷つく…その言葉は傷付くぞ咲耶ぁ…」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん。そんな凹まないでよ。でもその話しは知らないわね。」
「お二人はその話は聞いた事ないんですか?」

チンプンカンプンなキャルと咲耶にフローネが尋ねた。2人は『ナイ、ナイ』と声をハモらせて手を顔の前で振った。
その二人のシンクロした動きを見てフローネはクスリと笑い二人に説明した。

「最近、ラ・ルナでピアニストさんがピアノを弾いているんです。」
「別にそれだけだったら何ら珍しい事じゃないだろう?」
「ええ、そうなんですけど…」

そこまで言ったフローネのセリフをトリーシャが引き継いで喋り始めた。

「だけどね、その人の弾く曲って…なんて言うのかなぁ。BGMなんだよね。飽くまでBGMなの。」
「どう言う意味よ?」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、食事に差し支えないって言うの?真面目に聴こうと思えばすんなりと耳に入ってくるんだけど、特に気にしなければ五月蝿いとも煩わしいとも感じないの。それに…」
「それに?」
「どうやらその人が弾く曲って町の人が誰も聴いた事がないんだって。」
「そりゃ確かに珍しいな。」
「でしょ?おまけに結構その人のピアノにはまっちゃった人も何人か居るらしくって、リピーターとかも出来ちゃったらしいよ。」
「おかげでこっちは商売上がったりよ。」

最近の話題はこれっ!と言わんばかりに意気揚揚と話すトリーシャとは打って変わってパティの方は少々困っているらしい。
『ハァ…』と溜息をつきながら言ったそのセリフに哀愁が漂う。そんなパティには悪いと思いながらも、咲耶はと言うと興味津々に目を輝かせながらキャルに言った。

「へぇ〜全然知らなかった。ねぇねぇ、キャル君、今度のお給料入ったら1回行ってみようよ。」
「ダメだ。そんな事行ってから毎月毎月毎月毎月給料前が辛くなるんだぞ。」
「ちぇ〜。」

ジト目でこちらを睨む咲耶のイタイ視線を感じながらキャルは『ホラ、さっさと仕事分けて出掛けるぞ。』と話を打ち切った。






あとがき

取り敢えずここで切ります。いつか続きを書きます。出来れば近いうちに。
しかし………これは果たしてありでしょうか?相当やりたい放題やらかしましたが…
ま、良いでしょ。
多分次回で短いのが出来てそれで完結して、全編とくっつけて丁度良いところでぶった切ります。
それが完成形。
まあ興味があったら次回も楽しみにしててください。
……いつになるか解かりませんけど。
じゃ、




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