無限の零 其の6
<ラ・ルナ 店内>
ゆっくりとした歩みでピアノの傍まで行くと、男はゆっくりと頭を下げた。そしてそのままのペースで椅子に腰を掛けピアノを弾き始める。
相も変わらずそのピアノの音色は聞き入るものをゆっくりと引き摺り堕すような感覚に落し入れ、興味の無い者の耳には触れようともしない物だった。
正にBGMと言う言葉の響きがぴったりと来る。そんな音色がラ・ルナに流れていた。
暫くすると、男にとって少々見慣れた連中が店内に入ってきた。
『いらっしゃいませ』と店員に案内されながらその一団は席につく。自警団第3部隊の面々だった。
「おい咲耶、今日っきりだからな。」
「解ってるって、キャル君のお財布の状況は私が一番良く知ってるんだから。」
「解ってて連れて来るかねフツー?」
咲耶のセリフに溜息をつきながら答えるキャル。空かさずフローネとパティが咲耶のフォローに入った。
「まあまあ、キャルさん、たまにはいいじゃないですか。」
「そーよ、偶の贅沢ぐらいしてあげなさいよ。」
「さっすがフローネにパティ!話しがわっかるぅ〜!!」
味方が増えて喜ぶ咲耶。キャルはと言えば、最早観念するしかない。
イヤ、ここに来ると言う話が給料が支払われた時にもち上がった時点で覚悟はしていたのだが…。
そんな状況を見てケタケタと笑っていたトリーシャだったが、普段は無い特設ステージにピアノがあるのを見つけて咲耶の肩を叩き‘クイッ’と指を指した。
「それにどうやら今日は運良くピアニストさんも来てるみたいだし。」
「あ、ホントだ………。って…ジョート!!?」
ビックリして大きな声をあげる咲耶の声に驚い客が連鎖反応的に驚く。
咲耶の方は‘すすいー’とジョートの所まで飛んでいきジョートの回りをクルクルと飛んで
「うっわぁ〜…ジョートどーしちゃったの?こんな格好しちゃって…」
と珍しいものを見たという風にジョートを問い詰める。慌てたキャルは、急いで咲耶の元へと走っていき『すいません。』と謝った。
「咲耶、演奏してるのに失礼だろ、それにジョートって…全然顔が違うじゃないか。それに髪だってヤツより全然短いし…」
「キャル君なに言ってんの、髪の毛、服の中に突っ込んでるだけじゃないの。それに顔の輪郭とか魔力の色とかだって、フツーにジョートじゃない。」
「いや…その辺のとこは俺に言われても良く解らんから…」
熱弁する咲耶に尽いて行けなくなり始めたキャル。
そんな二人の様子を男は楽しそうに見ていたが、そろそろ頃合と思ったらしく、ついに観念した。
「あはは〜、咲耶ちゃん、大正解。リーゼ〜!バレたぁ〜」
「アラ、意外と早かったわね。」
「ほ〜らね。」
「ウソ…」
‘フフン’と軽く得意げな咲耶。お口あんぐりと間抜け面をしてビックリなキャル。
そして先ほどまでの雰囲気はどこへやれ、一転して何時もの口調に戻った‘男’こと‘ジョート’
ジョートは厨房からリーゼを呼んで軽く状況説明をした。
「うん。咲耶ちゃんが物の見事にバッチリ当てちゃった。もぉ〜魔力の色とかそっくりとか言われちゃて、俺もぉ〜どーしょーも無かったね。」
状況を理解するとリーゼは物腰柔らかく微笑んで
「咲耶ちゃん、ピアニスト正解した記念で今日の御飯は特別に無料よ。どんどん食べてね。」
「ホントにッ!良いの!!」
「ええ、本当よ。咲耶ちゃんの分だけで申し訳無いけど…」
そう言ってリーゼは他の4人を少々申し訳なさそうにチラリと見やる。
トリーシャなんかはあからさまに‘しょぼ〜ん’としていたが他の3人は特に気にした様子ではなかった。
「それにしても…俺の魔力の色ってどんな色よ?」
フと疑問に思うことをジョートは咲耶に訊ねた。これの所為で自分はバレたのだから、イヤでも気になったのだろう。
昨夜は得意げに胸をふん反らせて語った。
「『魔力』って言うよりも『心の色』って言うのが正しいかな。誰にだって魔力って言うのは在るんだよ。それの限界値が人によって異なるだけで。」
ここで話しを区切ってまた続ける。
「ジョートの色はねぇ…なんて言うのかなぁ…捕まえにくい色。透明っぽい気もするけど、どっちかって言うと保護色みたいな感じ。」
「俺はカメレオンか…まああながち間違っていないような気もしてイヤだけど…。それにしても、人の心の色がわかるって言う特技は凄いな。」
「ま〜ね。」
得意げな咲耶にジョートとリーゼは素直に感心する。そして
「ま、なにはともあれ食っていってよ。他のメンツも、取敢えずジュース1杯くらいなら俺が奢るよ。」
「ホントに!?ジョートさん気前いい〜!!」
「良いんですか?」
「別に1杯くらいなら、ね。」
そう言ってジョートはまだ色々な意味で騒然としている店内で5人をエスコートする。そして5人を座らせてメニューを渡すと、
「ま、後少ししか弾かないけどゆっくり聴いてってよ。」
「ええ〜、ジョートさん、折角来たんだからもう少しサービスしてってよぉ〜。」
「そうよ、知り合いに多少のサービスしてもバチはあたんないわよ。」
いや、もうサービスはしたつもりなんだけど……そう言おうと思ってジョートは止めておくことにした。
そんな事で不毛な争いをするのも馬鹿らしい。要は自分がもう1曲弾けば良いだけの話しなんだから。
考えがまとまるとジョートは『ふ〜』と一息ついて
「OK.じゃあ特別に1曲サービスするよ。」
とピアノの方へと向かっていった。
残された五人はある者は『ラッキーvv』と素直に喜び、またある者は『ボクが当てるんだった…』と悔しがり、またある者は『ジュースご馳走様です』と感謝をし、またある物は『ウチもピアノ用意しようかしら…』などと商い根性を出していた。
そんな中一人の男がボソッと真顔で呟いた一言
「ジョートのヤツ…いつのまに顔の整形したんだ…」
と言うボケに誰もが固まり『化粧だからっ!アレは化粧なんだよキャル(君orさん)!!』と突っ込んであげられなかったと言う………
あとがき
考えてみればまだ収拾してない事態があったんだよね。
それ収集して終わります。次回はちょっとしたオマケ見たいな物。
じゃ
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