無限の零 其の3



<2日後の昼過ぎ サクラ亭>
サクラ亭にミョ〜な空気が流れていた。より正確に言うならば、サクラ亭の中の極一部に、だ。
そんな空気の理由を知っている人間、知らない人間、それぞれにそれぞれの思いの中、ジョートは今歌っている。
最近はご無沙汰だったが、それを理由にローラにせがまれたのだ。

歌っている歌はコードはメジャーが多い曲だが、歌詞はとても切なく、痛い唄。それを力強く、しかし繊細に歌い上げる。
今までローラの要望ではラヴソングが多かったが今日の選曲はジョートの任されこのような曲が歌われた。
そして相変わらずジョートの歌声は、聴いている人を徐々に、徐々に引き摺り込んで堕とす感覚に襲わせる。

暫くして歌い終わるとローラと寄り道してサクラ亭によった、エンフィールド学園の生徒ビセット、トリーシャ、シェールがそれぞれに感想を漏らした。

「久々に聴いたけど、お兄ちゃんの歌ってやっぱり良いわよねぇ〜。ねぇ、お兄ちゃん次はまたラヴソングがいいなぁ〜」」
「もっとロックなのやってくれよ、こ〜さ、血沸き肉踊る感じのやつ。」
「ええ〜、ボクは血沸き肉踊らなくて良いから、ノリの良いヤツの方が良いなぁ〜」
「アンタねぇ、昼間っからこんな事やってないでちゃんと働きなさいよね。」

ペチャクチャ、ピーチクパーチク、ギャンギャン、ワンワン………アレ?
とまあ、回りから色々言われたジョートはと言うと、キレた。

「ええ〜いクソガキども!!ぴ〜ちくぱ〜ちく、ぴ〜ちくぱ〜ちくうるせぇー!!」

サクラ亭に沈黙が走った。しかし、ジョートがここまでキレて思いっきり怒鳴るのも珍しい。ビックリしたビセットが素直な感想を一言

「………珍しくジョートが怒った…」

呟いた。
ジョートの方は黙ったガキどもを見やると『ハァ〜』と軽く溜息をついて、更紗の隣の席に座る。
隣に座られた更紗はと言うと、‘ツツイー’とジョートとの間隔を空ける。
ジョートは間隔を空けられる原因が自分である事が解っているだけに、凹む。

そして再び溜息をつくと、『おっちゃ〜ん、水〜』とパティのオヤジさんにに注文をした。
水…すなわちタダ。これほどまでにリーズナブルで健康的な飲み物はあろうか?否、ない。
因みにこの時間帯、パティは自警団第3部隊の手伝いをしている。
本来はトリーシャもそのメンバーのはずなのだが、学業優先を基本に手伝っている。
それはばつにトリーシャが真面目だからと言う訳ではなく、第3部隊隊長のキャルによる隊長命令だったりする。

話を元に戻して、ジョートとの間隔を空けた更紗を見てビセットがジョートに小声で話しかける。
シェールとトリーシャとローラもジョートの声に耳を立てる。

「ジョート、なんかやらかしたの?」
「まあ、やらかしたっちゃあやらかしたわな。」
「アンタ何やらかしたのよ?」
「なんと言いましょうか…まあ簡単に言うと地雷を5、6っ個踏んずけちゃった訳ですな。」
「ジョートさん、それってどう言う事?」
「ノーコメント。」
「あーっ!!」

突然大きな声を上げた一同はビックリして声の主のローラを見やった。『なんだよローラ、いきなり大声出して』ビセットが訊ねる。
ローラは『うふふ〜』とヤ〜な含み笑いをしながらジョートに言った。

「おにーちゃん、更紗ちゃんにエッチな事したでしょう!」

‘ボンッ!!’凄まじく大きな音がサクラ亭に響き渡った、ジョートからではなく、更紗から。どうやら思い出してしまったらしい。

『………………』

一堂に沈黙が走った。短い沈黙ではあったがその場に居た人間には随分と長く感じられた事だろう。
そして、我に返ったローラが『イヤ〜ン』と言いながら騒ぎ立て始めた。

「おにーちゃん達、もうそこまで進んだのねっ!!?」
「オイオイオイオイオイオイ!ちょっと待て待て待て待て待てっ!!待てっつーのっ!!!勝手に話しを妄想させるなっつーの!!!!」

妄想を激しく爆発させて己が道に突き進もうとするローラを、ジョートは必死に止めようとしたが無駄だった。
『きゃ〜きゃきゃ〜』騒ぎながらローラは‘ダバダバダバ〜’とサクラ亭から出ていってしまった。
どうやら早速話題を振り撒きに行ったらしい。ジョートはともかく更紗には辛いだろう。
その事を逸早く危惧したジョートは更紗に『暫くは家から出ない方が言い』と言った。
そして本日何度目か解らない溜息をつきながら水を啜った。




あとがき

長いんでも少し続きます。
何時終わるかは『人間ってそんなものね。』並に解りませんが、出来るだけサクッと完結させる予定です。
じゃ、




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