the rain 番外編



キエテシマエバイイ……

世界も回りの人間もこの自分でさえも…この雨に溶け込んで……

…無くなってしまえばいい………


雨が降っている。午後の授業前にいきなり降り出したのだ。
雨は嫌いではない。どちらかと言えば好きなほうだろう。イヤ、好きと言う感覚は間違っているかもしれない。
だけど、雨は自分を洗い流しているような感覚に陥るような…そんな気がすして、これが人で言うなんと言う感情なのかは分からない。
けど、雨の日でも傘をささないのが習慣となった今ではそんな事を考える事ですらどうでもよくて…一人、傘もささずに歩いていた。

暫く歩いていると、いきなり後ろから走ってきたと思しき女生徒に声を掛けられた。
よほどに一生懸命に走ってきたのだろう。肩で息をしてる。
その女性とはどうやら置き傘をした上に家から傘を持ってきて居たらしく、一つを余分に持っていたらしい。
自分で差している手の逆の手に持たれた傘を私の前に差し出して彼女は言った。

「この傘使いなよ。」
「いえ、結構です。」

知らない人間と話す気も無かったし、また親切にしてもらう義理も無かったので私は断った。するとその少女は少し困ったような顔をして私に言った。

「アタシ、見ての通り傘二つ持ってるんだよね。だからさ、もしよかったら使ってくれないかな?」

その言葉が事実と私に対する気使いだと言う事は私にもすぐ解ったが、いらない物を借りても仕方の無いことだった。
しかし彼女の方を見ると私が『YES』と答えるまで私に貸そうとしつづけるだろう。考えるだけでゾッとして吐き気がした。
思いっ切り跳ね除けて帰ると言うことも考えたがそんなことをして利益はなにも無い。むしろ不利益似ることのほうが多いだろう。
そう考えて私は少ししてこれ以上彼女と無益――少なくとも私には――な会話を終らせるために、私は仕方なくその傘を借りる事にした。

「解りました。ではこうしましょう。今日はこれはお借りします。後日貴方のクラスの傘置きに入れておきます。これで宜しいですか?」
「じゃあ……」
「ハイ。とりあえずその傘はお借りしておきます。で、貴方のクラスは?」
「2−C。使ってくれて有り難う。あ…、アタシもう行かなきゃ。それじゃあまたね。」

携帯で時間を確認した少女はそう言って足早に駆けて行った。
私は『ふぅ…』と短く溜息をついて、借りた傘はささずに再び家へと向かって歩き始めた。


次の日…
外は相変わらず雨が降り続いていた。本当は傘は差したくなかったが行きに濡れると後が色々と面倒なため、行きだけは傘をさした。
借りた傘は彼女と出くわすのがとてもイヤだったため、持って来てはいるが後でひっそりと返す事にする。出来れば人と話しなんかしたく無い。
傷付く、苦手、そう言う事以前に、人と話したくないのだ。
出来る事なら会話は少なく必要最低限、暗い部屋の中でひっそりとしているのが一番居心地が良い。

昼休み、いつも通り数本のジュースを抱えて廊下を歩いて居た。全部飲む訳じゃあない。むしろ自分で飲む分は一本も無かった。
簡単に言えばパシっている訳である。クラスのヤツに言われて買っている。別にイヤとも思わないし、特に用事も無かったのでパシられる事にした。
窓の外に降る雨と見ながら歩いていると、聞き覚えのある声が後ろからした。

「おはよ、ってもう昼だから『おはよう』ってのは変か。随分沢山ジュース持ってるんだね。」

昨日の女生徒だ。そう言えばまだ傘を返していない事を思い出した。それの催促だろうか?
とりあえず適当に言ってさっさと傘を返して別れてしまおう。そんなことを考えながら適当に女生徒の言葉に答えた。

「クラスの人達に頼まれまして。」
「あ、そうか、自分が買いに行ったついでに頼まれたのか。」
「いえ、自分の分は無いです。」
「え?じゃあなんであんたが買ってんのよ?」
「頼まれたから。」
「ねぇ、ちょっと待って、あんた、それでいいの…?」
「別にかまいません……」

そこまで言うと、二人に無言の時間が経過した。女生徒の方を見るとその子は何故か下を向いて拳を強く握っている所為かプルプル震わせていた。
そしていきなり私を睨みつけると大声で怒鳴り始めた。

「あんたっ、なに考えてんのよっ!!!」
「別になにも。」

どうやらこの言葉が彼女の勘にかなりな勢いで触ったらしい。
こちらとしてはそんなどーでも良いことにイチイチ目くじら立てられてもウザイだけなのだが、そんな事は向こうの知った事では無いらしい。
思いっ切り目を吊り上げて私を睨みながら彼女は続ける。

「ねえあんた…そんなんでホントにいいの?」
「別に…」

飽くまで冷静に答える私に彼女は相当困惑したようだ。睨めつけていた目が逸れ、顔が途端に困惑顔に代わったのを見てすぐに解った。
私に言わせれば彼女のその言葉のほうが不可解な物ではあったが、それは口に出さない。他人の考える事にイチイチ口を突っ込もうとは思わない。

「なんで?なんでそんなに冷静でいられるの?そんな言いようにパシらされて怒ろうとか想わないの?」

下を向きながら彼女は言った。私にとっては当然の事だったが彼女にとってはどうもそうでは無いらしい。
人の考えかたはそれぞれだ。彼女なりの考え方があるのだろう。とりあえず彼女の問に答えるために私は口を開いた。

「怒る必要性がありません。」
「あるよっ!絶対にあるっ!!」
「何故?」
「‘何故’って…それは……」

答えに詰まった彼女に向かって私は言った。

「貴方にとっての常識を私は知らない。ただ、貴方にとっての常識を私にはめようとするのは止めて頂きたい。はっきり言って迷惑です。」
「…………………っ!!」

その言葉を聞いて、彼女はなにも言わずに走って言ってしまった。あれは…泣いていたのだろうか?
外には相変わらずの雨が、去っていった彼女の心を移すように更に激しく、大粒の涙のように空から落ちていた。

消えてしまうべきは自分だけか…そう考えて私は教室に戻ることにした。………気分が妙に悪かった。


次の日、学校に着くと黄門のところで昨日泣かせてしまったと思しきアノ女生徒と出くわした……。
昨日のアノ後味の悪さを思い出して私はどう言って良いのか解らなくなった。
彼女の方は無表情でツカツカ…と私の方に歩いて来ると、私の前でピタリと止まりいきなり睨めつけたと思った瞬間に‘ごんす’と一発拳をくれた。
一瞬何が起きたか解らなかったが、拳を食らったと言う事を理解するまでに、然したる時間は要らなかった。
ビックリして殴られた所に手を当てていると彼女は改めて私の側まで来て言った。

「そんな顔もするんだ…。とりあえず今のは昨日のお返し。『迷惑だ』なんて言われて傷付いたんだからね。」
「あれは貴方がっ…」
「言い訳無用!………でも、あたしも悪かったわ。アンタはアンタだもんね…」
「……………」

無言で黙りつづける私に、彼女は言った。

「あたし、アンタの事よく分からない。でも解りたいと思ったの。‘なんで’とか聴かないでよね。あたしが勝手に知りたくて思ってるだけなんだから。だから……」

そこまで言うと彼女は私の前に手を差し出して続けた。

「友達になろう。」

…驚いた。昨日泣かされた相手にまさか‘友達になろう’なんて言う人間がこの世にいたと言う事に。彼女の顔はすこぶる笑顔で眩しかった。
そして驚いた…まさかこんな自分に興味を持つ人間がいたとは…

差し出された手に何故か自分が呼ばれているような気がして私は彼女の手を握り返した。

「ふふふ、これで友達だね。あたしの名前はシェール・アーキス。あんたの名前は?」
「私の名前は………………」

何故かその瞬間、自分が何かから許されたような、一つの気持ちが昇華したような、そんな気分に襲われた。
それは酷く気だるい物だったが、消して悪いものではなかった。

その日、私に一人の‘友達’ができた。


続く………




あとがき

『続く』とありますがこれで終りです。
好きに解釈してください。
じゃ。




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