人間ってそんなものね。



そしてその次の日………
ジョートショップに仕事がジョート指名で大量に舞い込んできた。一昨日の『一割引効果』が出てきたのだ。
昨日はつきつけられた仕事を『オフ日』という理由でなんとか断ったが、体も全快してしまっては断る理由もない上にこれ以上の言い訳はかえって信用をなくす。
そんな訳で、『ナイスカッポー』『ナイスカッポー』書かれた間抜けな書類を見ながらジョートは溜息をつきつつ仕事に励む事になった。

早速ジョートは朝食もそこそこに、出来そうな仕事を片っ端から選んび仕事先を更紗に伝えるようテディに指示すると早速仕事に出かけた。
そんなジョートを見ながらアリサが珠呂に言った。

「なんだかジョート君生き生きしてない?」
「いい事があったんですよ、きっと。」

そう言いながら珠呂はコーヒーを啜った。そして一服すると椅子から立ち上がり軽くストレッチをしながらアリサに言った。

「さて、こっちは後は準備に取りかかるだけだな。アリサさんまで借り立てちゃってすいません。」
「フフフ、いいのよ。珠呂君とジョート君の頼みだし、なにより更紗ちゃんのためだものね。」
「有り難うございます。………後一週間ですね。」
「そうね。」

そう言って二人も仕事に取り掛かり始めた。

一方のジョートは『一割期間は一週間』と定め地獄の日々を送り始めた。
なにせ仕事の量が半端なく多いのだ。その1週間ジョートショップは同業の『公安』や『自警団第三部隊』の倍仕事が来たと言う。
基本的にジョートの出来る仕事は『造る』『壊す』が殆どだったが、大工仕事、礼儀作法や皿洗い、薬草の採取、果ては基礎医療関係など等担当以外の事までやる羽目となりイヤがおうにもスキルが増えた。

それに加えてピアノとギターの練習も三日づつ加えたおかげで、ジョートの体重は一時60キロを下回って骨と皮な状態にまで陥りかけた。
それでも頑張ってやれたのは側に更紗が居たからだった。二人で歌の練習を始めてからと言うもの更紗はジョートが止めるのも聴かずリベティス劇場でのピアノの練習にもついてきた。

ジョートとしては余り更紗に負担をかけたくはなかったが『リーゼと二人っきりになるのイヤだから』と言って逆にジョートを説き伏せてしまった。
『そんな事言われたら連れていくしかないじゃん。』リーゼに嫉妬している更紗を可愛く想いながらジョートは『ちゃんと由羅には遅くなる事を伝える事』を条件に了解したのだった。

そんな訳でハードな一週間は長いような短いような、でも過ぎてしまえば短く感じるものとしてアッと言う間に過ぎてしまった。


その日は街の皆が何処かよそよそしかった。他人行儀と言おうか何か隠しているようにも見える。
ジョートに『変じゃない?』と聴いてみても『ここのやつらは皆変だよ』とはぐらかされてしまう。

「サラッと酷い事言ってない?」
「そうでもねぇべ。」

日毎中に交わされた二人の会話はこんなだった。因みに力仕事の時は基本的に更紗は仕事をしていない。
ジョートがさせていないのだ。無理に手伝おうとして怪我でもしたらかえって大変だ。手伝える仕事は手伝ってもらうし要らない時は側に居てもらう。
どちらから言い出した訳でもない、何時の間にか決まった二人の暗黙の了解だった。

昼過ぎると、どうしてか依頼者が『今日はここまででいいよ』と言って仕事を切り上げさせてくれた。
おまけにその日はサクラ亭で食事を取らずにジョートショップでジョートが手作りをして昼は過ごした。
ジョートが作ると軍隊料理になってしまう為、量が多く大味になってしまうが味自体はそこまで悪い物ではなかった。

午後は『陽の当る丘』公園で日向ぼっこをしながら昼寝をした後、美術館を覗いたりと、デートみたいな事をしながら二人で過ごした。
ジョートとこんな風に過ごすのって始めて…更紗はそんな事を想いながらジョートを見上げた。
ジョートの方は心から楽しんでいるらしく、子供のような笑顔で更紗に笑いかけた。更紗も釣られて笑ってしまう。
『恋人の時間』…二人は確かにそう呼べる時間を過ごして居た。

夕方になるとジョートは『そろそろいいかな?』といって更紗に話しかけた。

「どう更紗、腹、減ってない?」
「少し空いた。」
「じゃあそろそろサクラ亭でも行こうか?」
「うん」

『OK.』そう言ってジョートは更紗を連れてサクラ亭ヘと向かった


『パーン、パンパーンッ!!』
サクラ亭ヘと入った二人を出迎えたのはカウベルの音ではなく沢山のクラッカーの音だった。
何がなんだかわからなくってパニックしている更紗を見て、ジョートが『クスクス』いいながら説明する。

「更紗、この人達、見覚え無いか?」

ジョートに言われて見てみるとそこに居る人達は確かに更紗の知っている人達ばかりだった。
『イヨ、更紗ちゃん。』『今日は楽しんでってくれよ。』『皆で楽しく騒ごうぜっ!』『アンタ、チョーシに乗って迷惑かけるんじゃいよっ!』『わぁ〜かってるって、いちいちかてぇなぁオバはんわよ…』『なんだってぇ〜』………

サクラ亭の中はゴチャゴチャと大混乱していた。それもそのはず、街の住人の多くが今ここに居るからだ。

「ほぉ〜ら、主役が来たんだからさっさと荷物持って公園に移動したしたっ!!」
「チョット待ってパティちゃん。なぁ〜んで場所を公園に移すの?」
「参加者が多くなりすぎてここじゃ収まんなくなっちゃったのよ!」
「珠呂のヤツ…そんな事になったなんて一言も言ってなかったぞ…」
「それよりあんたも邪魔だからさっさと公園に言ってちょうだい。」

パティが店に居る客達を促した。そして、まだいまいちと言うか、全く自体を把握できていない更紗を見てパティがこの事態をちゃんと説明した。

「皆ね、更紗と一緒に食事がしたいって言って集まった連中なのよ。正確には『歓迎したい』って言った方がいいかな。」
「どうして?」
「由羅がね、俺達の所に来たんだ。『更紗を街の連中に馴染ませてやってくれ』ってね。」

更紗の疑問に、ジョートが答えた。ジョートが言ったセリフを聴いて更紗は店の中に由羅が居ないか探しが、由羅本人の姿は見えなかった。

「きっとテレ半分でクリスとリオでも追っかけてるんだろうな。」
「お礼、言わなきゃ。」
「ああ、そうだな。後であった時にでもちゃんと言ってやれば言い。」
「うん」

そんな訳で一同は公園に場所を移した。
そこには自分を見つけてくれたキャルや第三部隊のメンバーやエンフィールド学園の生徒など前から更紗を知っている人達から、最近ジョートと一緒に行動するようになってから知り合った人達など沢山の人が居た。

「ひえぇ〜…ここまで人がうじゃうじゃ居ると、なんか逆に鬱陶しいな…。」
「そんな事ない。とっても嬉しい。」
「そう言ってくれると集めた甲斐があるよ。」
「あ、珠呂!テメッ、オレにもここまで人が集まるなんて一っ言も言ってなかったじゃねえかっ!!」

ジョートの台詞に珠呂は説明を入れる。

「いやな、アリサさんの力って凄いなぁ〜…って事だ、分かる?」
「つまりテメェは何もしなかったってことだな。」
「失礼な事言うな失礼な事をっ!ただ単にアリサさんが凄かっただけだよ。」
「ナルホドな。まあそう言う事にしといてやるよ。」
「なぁ〜んか棘のある言い方だが…まあいいや。まあそんな訳で皆更紗を歓迎したくて集まった連中で悪気はないんだ、気分を悪くしないでおくれ。」
「そんな、私嬉しいよ。」

暫くすると飲物が入ったコップが一堂に回され、ジョートが公園全体に響き渡るようなデカイ声で叫んだ。

「話し聴けぇ〜!!更紗、一言。」
「えっ、あ、う……」
「ありゃありゃ、緊張しちゃったか。まあしゃあねぇ、そんじゃあ珠呂、乾杯の音頭。」
「それじゃあ不詳、司珠呂が乾…」

そう言って珠呂が乾杯の音頭をとろうとした途端にジョートが一言『長いっ!』と言って

「ハイ。カ〜〜ンパ〜〜イッ!!」

と言ってコップを高く上げてしまった。それに釣られて来ていた客達も次々と『乾杯!』と言って飲み始めてしまった。
珠呂は目に涙を溜めてジョートの胸倉を掴んでいった。

「ジョ〜ト〜、お前、折角の俺の音頭を〜〜〜」
「へっ、さっさと言わねえのがワリィんだよ。」

『べぇ〜』と舌を出してジョートは言った。『こんのヤローは〜…』と言いながら殴ろうとするがこっちに近づいてきたアリサに『珠呂君ご苦労様』と声を掛けられ、とりあえずジョートを離した。
勿論ジョートはそそくさと逃げ出してしまいどっかへ行ってしまった。さも当然と言わんばかりに更紗も連れているあたり、チャッカリ屋さんである。

その日はあっちゃこっちゃが日常と変わらないお祭り状態だった。
マリアとエル、アルベルトとヴァネッサ、それにこの日はこれを機会にリーゼに近づこうとするヤローどもとシェールの間でドンパチがあった。
回りの人間はある者は関わらないようにし、またある者はどちらが勝つかなどと言った賭け事に興じたりと、それぞれに楽しんでいた。

そんな光景を見ながら更紗もこの時を楽しんでいた。チヤホヤされるのではなくありのままを見せてくれる。そんな街の人達の温かみが嬉しかった。
そんな事を考えているうちに日も暮れた時間になって、更紗はお礼を誰にもしていない事に気がついた。
ここまでしてもらっておいて何も返せないのがイヤで、更紗はジョートに相談した。

「ハァ?礼がしたい?街の連中に?」
「うん。街の人皆にお礼がしたいの。ジョート、どうしたら良い?」
「そんなの、『ありがとう』の一言でも言えば充分だと俺は思うがね?」
「ううん、それだけじゃなくて後何かお礼がしたい。」

必死に相談する更紗にジョートは『じゃあアレしかねぇべや。』と言ってマーシャル武器店に足を向けた。

「どうするの?」
「マーシャルのとこの武器かっぱらって皆に配るの。」
「え゛っ!?」
「嘘嘘、ジョーダンだって。ま、折角歌覚えたんだから、それを披露してみたら?」
「え、でも私そんなに上手くないよ?」

更紗の言葉を聴いてジョートはポンポンと更紗の頭を撫でて言った。

「大切なのは『ありがと』って気持ちで、うまい下手じゃないと俺は思うぜ。それに更紗の歌声、俺は聴いててとても気持ちよくなれた。大丈夫、みんな喜んでくれるよ。」
「ジョート…」
「じゃあ俺さっさと行ってギター取って来るわ。その間に唄う事その辺の連中に言っときなよ。」

そう言ってジョートはギターを取りにマーシャル武器店に駆けて行った。


ジョートが戻ってくるとそこには待ちくたびれたと言わんばかりに街の連中が迎え入れた。
『更紗ちゃんが折角お礼してくれるってのに伴奏者がいないんじゃ始まらないでしょっ!!』などと色々言われたがジョートは『これでも頑張って走ったさねっ!』と言ってそそくさと更紗のところまで行った。
そんな光景を見て更紗は『クスクス』と笑ってジョートを迎えた。ジョートは少しテレて『コホン』などとワザとらしい咳をして更紗に言った。

「準備、いい?」
「うん」

更紗が短く答えるとジョートがギターを担いだ。街の連中も急に静かになり、夜空にジョートのギターの音色と、更紗の歌声が響き渡り始めた。

『完璧な理想になりたかったの?
 誰かを真似てただけでしょう?
 どんな飛び方だってよかったのよ?
 飛び立つ勇気が大事なんでしょ?

 もう ダメだ なんて言ったりもするけど

 泣いて 笑って 悩んで 起きて 感じる全てが自分になってく
 生きているって 自分でいるって 当たり前の幸せが嬉しい
 信じるって 頑張るって その度何度もやり直して
 人間ってそんなものね 許し逢えるって素晴らしい

 カッコつけるのは疲れたでしょ?
 案外誰も気にしてないよ
 迷惑をかけるのがイヤだなんて
 一人で歩いて来たつもりなの?

 人間って…

 助け合って 肩貸し合って 少し進んでは立ち止まって
 息を吸って 深呼吸して たまにはため息ついたりしながら
 泣いて 笑って 悩んで 起きて 感じる全てが自分になってく
 人間ってそんなものね 許し逢えるって素晴らしい

 幸せな時は誰かと 分かち合うなら
 それなら苦しい時も 一人じゃない
 誰かと共有できる喜び

 助け合って 肩貸し合って 少し進んでは立ち止まって
 息を吸って 深呼吸して たまにはため息ついたりしながら
 泣いて 笑って 悩んで 起きて 感じる全てが自分になってく
 人間ってそんなものね 許し逢えるって素晴らしい

 裸の私達は誰もが 弱さや寂しさのなかに
 暖かなぬくもりを探して どうにか進もうとしている…』

誰もが声に吸い込まれる様に一言も喋る事無く拍手のみがただただ止む事無く続いた。
こうして拍手喝采のなか『更紗の歓迎会』は住民の殆どを巻きこんで終了したのだった。

それは、更紗が改めて待ちの住人に溶け込んだ瞬間だった…



あとがき

この作品さ………電撃文庫にでも出来そじゃね?
ぶっ通して読んでねえからなんとも言えないけどさ。
イヤ、でもアレか、商品登録されてる歌使ってるから無理か?
ま、んなこたぁどーでもいいや。
嗚呼〜疲れた、って言うか長かった。

そんな訳で読んで下さった皆様ホントにありがとです。
最後に今回使った二つの唄の題をば載せときます。参考までにどうぞ。

『流星』…Ravecraft アルバム『01 ―ゼロワン―』より 商品番帽:RAVE−001
『人間ってそんなものね』…KOKIA アルバム『trip trip』より 商品番号:VICL−60830




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