人間ってそんなものね。



「今夜マーシャル武器店に来て、そこで全部話すから。」

目を覚まして更紗から諸々の事情を聴いた(聴かされた)ジョートが暫く考えた後に言った台詞がこれだった。それを聞いた更紗は聴き返した。

「どうしてマーシャル武器店なの?」
「あそこが今現在の俺の秘密行動の基地だから…って言うのが一番分かり易いかな。」
「?」

いまいち意味が把握しきれていない更紗の頭をジョートは軽く撫でながら言う。

「今日日中は完全オフにしちゃうからもう今日は帰っちゃっていいよ。それよりも夜に備えて昼寝でもしておきな。」
「………嘘、つかない?」
「今までに俺が嘘ついた事あった?」
「昨日ついてた。それに、ジョートは嘘言わなかったけどホントの事も言わなかった…。」
「う゛……もしかしていまいち信用されてない、俺?」
「信用してないわけじゃない、でも…不安なの…。」

安心させようと言った台詞だったがどうやら不安を煽ってしまったらしい。下を向いたまま悲しそうな表情の更紗をジョートはそっと抱き寄せる。
そして『ゴメン、更紗。』と一言言うといい事を思い付いたという風に笑顔になって言葉を続けた。
「じゃあこうしよう、夜になったら迎えに行く。これでどう?おまけに指切りのサービス付だ。」
「『指切り』って?」
「『指切り』っていうのはな、簡単に言うと約束事を取りつける手っ取り早い方法だ。」
「………分かった、指切りする。」

更紗が一応の形で納得してくれるとジョートは小指を出す。そして更紗にも同じようにするようにと優しく促す。
おずおずと出された更紗の小指にジョートは自分の小指を絡めて歌う。

「ゆ〜びき〜りげんまん嘘ついたら♪………そうだな…」

ここまで言うとジョートはチョットの間考えた後に急に真面目な顔になって言った。『もうおまえの前には二度と現れない』と…
そして最後に『ゆ〜び切った♪』と言って繋がっていた指を解いた。歌を聴いていた更紗は内容を聴いてかなり動揺してしまった。

「どうして二度とああないなんて言うの!?」
「これくらいリアルできつい方が嘘をつく事はないって分かるでしょ?」
「でも、でも…」
「だ〜いじょ〜ぶだって、どうせ約束破らないんだから、大した事にはならんって。」
「ホントに?」
「ああ、ホントだ。だから、な?今日はもうお帰り、ホラ、ちゃんと家まで送るから。」
「うん。」

それから由羅宅に着くまで二人はこれと言った会話を一切しなかった。『夜マーシャル武器店で』全て分かることだったから今話す事が特になかったのだ。
今までここまで沈黙が続いた事がなかっただけになんとも言えない間だった。そのクセさり気なく二人の手は繋がれてた。

由羅宅から帰ってくると、どうやら早めに仕事が終わったらしい珠呂が書類の整理を行っていた。扉を開けて入ってきたジョートに珠呂は『お疲れ』と声を掛ける。
ジョートも同じように『お疲れ』と言い返し、言った。

「で、おまえさんの方の首尾はどうよ?」
「ん〜、まあまあかな。粗方やらにゃあならん事はやったし、更紗も大分街に馴染んだみたいだから、街のやつら殆ど来るんじゃないかな。」
「そか、何時頃になりそうよ?」
「8日後、だな。そう言うおまえの方はどうなのよ?」
「俺?俺は………今ビミョーな感じだな。」
「どうした?なんかあったか?」

テーブルに腕を広げてうつ伏せるジョートを見て、‘弱気になっているジョートは始めて見た…’そんな事を思いながら珠呂は書類仕事を一端止め、ジョートの方を向いて話しを聴く。

「な〜んつーかさぁ、こないだから調子狂いっぱなしよ…。分かってるんだけど歯止めが利かないし…大切にしたいんだけど自分の本能が先行しちゃいそうでさあ…それを抑えるために本音がバンバン。ああ……体に悪い。」
「そんなに言うんだったら嫌いになっちまえよ。」
「そんな事出来るんだったらとっくにやってるさ。でも出来る訳ないんだって…だって俺今三日更紗と逢わなかったら死ぬ自信あるもん。」
「ククククク…」
「あんだよ?」

意外な一面を見たような気がして珠呂は思わず堪えていた笑いを漏らした。

「イヤ、ここまで感情に溺れてるおまえを見るのは始めてだなって思ってな。」
「しょうがないだろ。」

顔を赤くしてそっぽ向くジョートに珠呂はこれまでのお返しといわんばかりにからかい始める。

「んん〜〜?ジョートちゃんどーしたでちゅかぁ〜。お顔が真っ赤でちゅねぇ〜。」
「珠呂………いつか覚えてろ…」
「いつかって何時でちゅかねぇ〜」
「うっわぁ〜マ〜ジでムカツク!!ぜぇ〜ってぇ公衆の面前でオモシロに仕立て上げるからなっ。覚悟しとけっ!!」

そんな事を話しながらエンフィールドの日中は過ぎていった。


そして夜………
約束通りジョートは由羅宅を訪れた。扉が開かれた瞬間に更紗はジョートに飛びついた。

「オイオイ更紗、どーした?」
「ホント、この子ズーッと昼間からそわそわして落ちつかなかったのよ。よっぽどジョート君といたかったみたいね〜。」

ジョートに飛びついた更紗を見ながら由羅が言った。ジョートは『それ以外にもなにかあるんだろうな…』と思いつつもそれ以上深くは聴かない事にした。
そこから先は更紗が解決しなきゃ行けない問題だと認識したからだ。その時自分が側で支えてやれれば…などと甘い考えを起こしながら。

そんな事を考えつつ二人はマーシャル武器店まで行く。店に着いて辿り着くと中では店じまいをしているエルがいた。

「よぉエル。マーシャルは?」
「なんだジョートか。マーシャルのヤツならどっかでおまえが教えた歌でも歌いながら踊り狂ってるだろ。今日も倉庫使うのか?」
「ま、な。」
「余計な物に触るなよ。」
「わーってるって。」

そっけない会話が終わるとジョートは倉庫へと向かう。更紗もその後ろについて倉庫へと向かう。倉庫へ入ろうとするジョートをエルが引きとめた。

「おいジョート、」
「あん?」
「おまえまさか…ロリコンの気があったのか?」
「お前それ俺の年齢を知っての台詞か?」
「イヤ知らないが…」
「じゃ、言いじゃん別にそんな事。行こうぜ、更紗。」
「うん…」

バタン
閉まった倉庫の扉を見ながらエルは『悪いこと言ったかな?』と呟き出てきたら謝っとくかと思いながら店じまいの続きをした。


「さてと、ほいじゃあ早速始めますか。」
「何を?」

手際良く何かをしようとしているジョートを見ながら更紗は聴いた。ジョートは謎解きを解くように丁寧に言う。

「ここで俺がしてた事。」

誌後にジョートはギターを担ぎ、『ギターの練習』と一言言った。

「練習なんてするの?」
「当たり前だろ?人に聴いてもらうんだから、ちゃんとそれなりの物にはしなくちゃ聴いてもらう人に失礼じゃん。」
「でも、それなら隠さなくても…」
「まあ、そうなんだけどね。でも、こう言うのって隠しといた方が変な同情とかされないじゃん?」
「どう言う事?」
「だってさぁ…『イッパイ練習しましたぁ〜聞いて下さいぃ〜』なんて言うのってさ、なんかムカつくんだよね。『練習したから聴いてくれ』じゃなくて『聞きたきゃ聴け』って言う方が聴く方もやる方も形として理想じゃない?だから隠してるの。」

更紗は『そんな物なのだろうか…』と思う。自分が人前で歌う訳ではないのでそう言う事については良く分からないが、そう言う物なのだろうなと思う。
そしてもう一つ、まだ聴かされていないことについても尋ねる。

「リーゼと一緒にリベティス劇場から出てきたって言うのは?」
「ん、あれ?アレはねぇ…まあ大したことじゃないんだけどさ、もうすぐラ・ルナでピアノ弾く事になってるの。それの練習。」
「ジョートってピアノ弾けるの?」
「まあ中の上って感じかな。そう、ピアノで思い出したんだけどさ、チョット前に居た街ですげぇ〜上手い子がいて、ビックリしたね。」
「そんなに上手だったの?」
「うん、上手かった。ああ言うのを天才って言うんだろうねい。ああ言うのには敵わないけどそれなりって感じだよ。」
「でもなんでリーゼが居たの?」
「差し入れ持ってきてくれてんの。元々リーゼが頼んだ事だから気を回してくれてんじゃね?俺も俺で人にばれないようにクソ夜中にやってっから、どうしても腹ぁ減んだよね。それでリーゼが差し入れ持って来てくれるようになった訳。」

事情は分かったが上にも腹の虫が収まらなかった。自分と一緒に居なかった時間をリーゼと過ごして居たと思うと更紗は妙な苛立ちを覚え、つい『ふ〜ん……』とそっけない態度を取ってしまった。
それを見たジョートは更紗の顔を見ようとするが、どうしてか更紗はそっぽを向いてしまう。

「更紗ぁ〜どーしてこっち向いてくれないの?俺の事、嫌いになっちゃった?」

今にも泣き出しそうな声を聞いて‘傷つけた’と思ったら更紗は思わず『そんな事ないっ!!』と言って振り返った。
するとそこには笑いを堪えて『プププ…』とジョートが笑っていた。騙されたと思った時にはもう遅くジョートは更紗の顔を両手で包んで真っ直ぐに更紗の瞳を見た。
両手の温もりとジョートの視線を感じて更紗の顔は赤くなってしまう。
「『そんな事ない』って言う事は更紗は俺の事好き?」

真っ直ぐな目で見つめられ更紗は顔中を真っ赤にして言葉で言う事なくただ肯いた。ジョートはホッとしたような顔をすると今度は耳元で呟く。

「お願い更紗。言葉でちゃんと言って、『好き』って…」

もうこうなると更紗は体中が真っ赤になってしまう。息も出来なくなって窒息しそうだったが言わないときっとジョートは離してくれない。
そんな状態だったが更紗は一言頑張って一言呟いた。『好きだよ…』と。ジョートはその一言を聴くと最後に一言、『俺も好きだよ』と言って更紗に軽く口付けをして両手を放した。

ジョートが離れてから更紗は唇に指を当てた。ジョートの唇の熱が残っているような気のるそこは、温かいような気が更紗にはした。
ジョートの方を未ると、どうやらカッコつけしいが限界に来たようでこちらも顔が心なしか赤かった。ジョートも緊張してたんだ。そんな事を思いながら更紗はジョートを見つめる。

「よ〜し、景気付けに一曲唄いますか。」

そう言ってジョートは顔が赤いのを隠すようにギターを担ぎ直して一言、『更紗にだけ唄うよ。』と言って唄い始めた。

『昨日の事は半世紀前のこと
 月は満ち欠ける君の心映す
 はじめて恋に触れたあの日のことにさえ
 さよなら繰り返して

 人の出会いは限られて未来の中
 すべて運命―さだめ―なら朽ちるまま老いてゆけ
 たてに積まれたガードをめくる君の目に
 この僕は見えてるのか

 流れ込んでく街のノイズに
 たたずんだ 君がひとり
 声もだせずに涙あふれてた
 そんな夜は

 消せない夢のかけらを一つ
 あなたに届け 星の雫を
 駆け抜けたい君への想い
 壊れるほど 今だきしめるから

 流星が僕ならば消える前にあなたに
 願うだけ 叶うまで輝き続け
 さめないで 消さないで愛は光り続ける
 生きて行く人全てに

 時の川を越えて行けば
 僕の側にいつも君が

 消せない夢のかけらを一つ
 あなたに届け 星の雫を
 駆け抜けたい君への想い
 壊れるほど 今だきしめるから

 流星が僕ならば消える前にあなたに
 願うだけ 叶うまで輝き続け
 さめないで 消さないで愛は光り続ける
 生きて行く人全てに』

唄い終わると更紗は『これ、私だけに唄ってくれたの?』と一言呟いた。
ジョートは『これは更紗にだけ唄ってあげたかったから。』と顔を赤くして頭をポリポリかきながら言った。
『嬉しい…』と顔を赤くしながら喜ぶ更紗を見ながらジョートはなにかを閃いた様に言った。

「そうだっ!更紗も一曲唄おうぜ。」
「へ?」
「うん、そうしよう。そうすれば更紗も歌って楽しい、俺も更紗の歌声が聴けて嬉しい、正に一石二鳥だ。俺ってばナイスアイディア!!」
「ジョ、ジョート(汗)」
「大丈夫だって、別に死にゃあしないし、ここで唄うだけなら誰か聴く事もないでしょ。」
「ジョートが聴いてる」
「気にしなぁ〜い気にしなぁ〜い。」

こうなって悪巧み(?)を始めるとジョートはもう止まらない。ジョートは手早く紙と筆記具を調達しなにやら歌の歌詞を書き始めた。
更紗は『なんでこんな人好きになったんだろう』などと思いながらジョートが好きになった理由を考えてみる………。

暫くして思った。『何処が好きなんだろう…』と。確かにジョートは好きだ。だが何処が好きかと言われたら、思い当たる節がなかった。
それじゃあジョートは自分の何処が好きなんだろう…。急に言われもない不安に狩られジョートに聴いてみた。

「ねえジョート…」
「はいよ、」
「私の何処が好き?」
「どうした、いきなり?(?_?)」
「私の何処が好きなの?だって、私…何処から来たのかも分からないしちっちゃいし、ライシアンだし…それに…それに……」

どうやら自分に対して想い詰めているらしい更紗にジョートは言い聴かせるように言った。

「もしかして…更紗自分が俺の何処が好きになったか分からなくて混乱してる?」
「えっ、なんで分かるの?」
「そりゃあ更紗のことだもん…って言いたいけど、そうじゃなくてな……俺もよくあるからね、そう言うの。」
「ジョートもあるの!?」
「そりゃあ俺だって人の子だからね。誰かに恋したりしてそんな事想ったこともあるさ。でな、更紗の何処が好きか、だがな……」
「うん…」
「ここが好きって言うのは特にナシだな。」

ジョートの答えを聴いた途端キョトンとしてしまった更紗にジョートはシレッとしながら続けた。

「俺は更紗が更紗だから好きなのであって、ここが良いあそこが良いなんてのはないよ。つーかな、そんなもんだって。気がついたら好きだった。それでいいじゃん。」
「いいの?」

確認するように更紗は聴き返す。ジョートは『おうっ。』と言って更に続ける

「当たり前だろ。理由がなきゃ好きになっちゃいけないなんて誰も言ってないだろ?」
「理由なくて好きになっていいともいってないよ?」

チョット意地悪のつもりで更紗は揚げ足を取ってみたがジョートは『クスクス』笑うだけで動揺した風でもない。こんな答えが来る事を大方予想していたのだろう。

「俺が言ったろ。それじゃダメか?」
「いい。ジョートが言ってくれたからいい。」

パッと花が咲いたような、そんな笑顔で更紗は嬉しそうに答えた。ジョートは優しく、そして嬉しそうに更さの頭に手を載せて撫でた。
少しでも更さを支える事が出来て彼も嬉しいのだろう。そしてジョートは更紗の頭から手を離すと再び紙に向かって歌詞を書き始めた。

「よし、言い答えだ。それじゃ残りの歌詞書いちゃうから、もちっと待っててな。」
「でも私唄うって…」

そこまで言い掛けるとジョートは『俺と一緒でも?』と不敵な笑みで更紗に言った。こう言うと更紗が『NO』と言えないことが分かっているからだろう。
案の定更紗はテレながら下を向いて『そんな事…ない。』と言って顔を赤くしてしまった。全く、初々しいったらないね。

ジョートは誰に向けるでもなくブイサインをして『それじゃあ早速歌おうか。』と言ってギターを優しく弾き始めた。
マーシャル武器店の倉庫に綺麗なハーモニーが響き渡ったそんな草木も眠る夜の出来事だった。



あとがき

ギャグですね。はい。ギャグです。
終わると思ってたら終わりませんでした。
ま、なんとな〜くなるような気がしなくもなかったですが、まさかホントになるとは想ってませんでした。
長引いてごめんなさい。次回終われたら終わります。
じゃ、




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