人間ってそんなものね。



更紗がジョートをつけるようになってから数日が経った。
進展はして……いない。理由は簡単だった。ジョートと更紗では基本的な行動力が違いすぎたのだ。

そんな訳で夜になると疲れて寝てしまう更紗を背負って由羅の家へ連れて帰る事がここ最近のジョートの習慣となっていた。

「う〜っす、由羅。」
「やっほ〜。毎晩毎晩ご苦労様。」

由羅の方もそろそろ来ると言う事が分かっていたのだろう。戸を叩いてすぐに返事をして戸を開けた。
ジョートは遠慮も無しにズカズカと入って既に敷かれている―――これもここ最近の習慣となった事だが―――布団に更紗を寝かしつけてさっさと玄関に戻って由羅に言った。

「ま、ね。でもこの子ほったらかしとく訳にもいかないでしょ〜に?」
「キャハハッ、それもそうね。どう、一杯やってく?」
「イヤ、今日はこれから用事があってな、酒入れる訳にいかんのよ。」
「アラざ〜んねん。」
「また今度な。」
「じゃ、また明日、更紗をよろしくね。」
「ああ、それから、更紗に‘『日誌』書き忘れるなよ’って珠呂が言ってたって伝えといてくれ。じゃーな。」
「『ジョート君が』じゃなくて?」

その言葉を聴いてジョートは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに何時もの何を考えているのか分からない食えない笑顔で『イヤ、珠呂だ』と言ってそのまま去ってしまった。
その姿を見ていた由羅は『ホントかなー?』とニヤニヤした表情で更紗のほうを向きなおして呟いた。
更紗と言えば、疲れのためぐっすり眠っている。隣で一緒に寝ているメロディとセットでこの二人の寝顔を見てほんわかしないヤツは居ないだろう。
そんな事を考えながら由羅は戸を閉め‘お休み前のイッパイ’と洒落こんだ。


一方、由羅宅を後にしたジョートは誰も就けてこない事を確認しながら足早に‘ある場所’へと向かった。『リベティス劇場』である。
守衛さんに何時も通り顔を出し、中へと入っていく。
ここは昼間はそのなの通り劇場として使われているためジョートのような一般人はチケットでもない限りは入れないのだが、少なくとも夜である今現在、ジョートは中への入館が許可されていた。
暫くすると中から微かだがピアノの音が漏れてきた。割と激し目の曲からバラードまで、休憩を挟みつつこの後数時間リベティス劇場からピアノの音は漏れ続けた。


そして朝………

カラン カラン〜♪

カウベルの音と共に一人の少女が今日も入ってくる。勿論更紗だ。右手には『ジョート観察日記』と書かれた日誌を持っている。
「おはよう。」
「おはよう更紗、今日も早いな。」

控えめに挨拶をしてきた少女に珠呂は笑顔で返事をして日誌を受け取る。そして『朝』の習慣となった何時もの台詞を台所に向かって言う。

「アリサさ〜ん更紗が来てくれましたよ〜。」
「ハーイ。」

アリサはそう返事をしてテディに食事の入った食器類を盆に乗せて渡す。

「それじゃあテディ、頼んだわよ?」
「ういッス〜、了解ッス〜」

元気よく渡された盆を持ってきたテディに更紗は『おはよう、ありがとうテディ。』と笑顔で言って食器を受け取る。
はじめの頃はこうも行かなかった。何処かオドオドとしていて控えめが過ぎてしまうほどだった。
1週間で変わったもんだな…。
珠呂は素直にそう思う。但し、この辺の嬉しい行動が目下『ジョートのおかげ』と考えると嬉しさは半減したのでそう思わないことにしたが…(笑)。

暫くするとアリサも囲んで『四人』での食事となった。より正確には『三人と一匹』だったが。残り一人のジョートはといえば、自室で寝ていた。
朝方にのっそりと帰宅したらしく、つい数時間前にようやっと床に就いたばかりだった。

食事が終わって一休みいれると、その頃にやって来る一団がある。

カラン カラン〜♪

「うい〜っす。珠呂〜生きてっかぁ〜今日も手伝いに来てやったぞぉ〜……って、更紗、おまえさん今日もいるのか。いい加減ジョートに引っ付くの辞めて俺とデートしない?」
「アレフ…今ウチは問題児が一人居てそっちで手一杯なんだ、邪魔するつもりなら帰れ。」

拳をプルプル言わせて下を向きながら怒りを堪えている珠呂を見ながらアレフは言った。

「クックック、相変わらずだなぁ〜珠呂は。あ、アリサさんおはようございます。今日も言い天気ですね。」

そう言いながらアリサを口説こうとするアレフを珠呂は『ゴンッ!』と一発ぶん殴って『おまえもなっ!!』と言って今日分の依頼書を取りに隣の部屋へ行った。
アレフは『いってぇ〜』と涙目ながらに後頭部を抑えながらうめいていたが、その様子を見てクスクスと笑う更紗を見て不意に彼女と目が合った。
アレフは女性にのみ見せる爽やかな笑顔で軽くウインクをしてみる。するとどうだろう。更紗はキョトンとして次の瞬間自分の前に屈み込んで

「頭、ダイジョーブ?」

と自分の心配をしてくれるではないか。女の子に親切にしてもらったことが嬉しくてついつい手を取ってしまった、どうやらそれがいけなかったらしい。
『ア〜レ〜〜フ〜〜〜……』という声と共に凄まじいオーラを背負った珠呂が物凄〜い形相でアレフに迫った。
アレフは『さ、さ〜って、さっさと今日分の仕事の仕分けをしようぜ。』と言って素早く珠呂の持って居た依頼表を掠め取って隣の部屋へ行ってしまった。
珠呂は『なにもされなかったか?』と言って手を差し伸べた。更紗は『ううん、何もされてない。』と手を取って立ち上がりながら言った。

「そっか、…あ、アレフっ!!おまえは女性絡みの仕事は取るなよ!!店の信用が落ちるんだからっ!!」
「へっ!ば〜か、礼儀作法やダンス関係だったらオマエより俺の方が断然信用に足るだろ〜がっ!!」
「うるせぇやい!人間的な問題じゃ断然俺のほうが信用足りてるだろ〜がよっ!!」

そんな事を言いながら、後から台所仕事を終えて部屋へ来たアリサも含めて仕事を三人は仕事をテキパキと振り分けていく。
喧嘩口調のようだが二人の間からはそんな雰囲気は微塵も感じさせない。どちらかと言うとその逆で楽しんでいるようだ。更紗はそんな風景を‘?’マークをくっつけながら眺めて居た。
暫くして仕事が振り終わるとアリサ達三人はは『後はよろしくね』と言ってそれぞれ今日の仕事へと向かった。

「いってらっしゃい。」
「いってらっしゃいッス〜」

更紗とテディは見送りの言葉をかけながら部屋に残った。
普段なら目の不自由なアリサの目の変わりをするのは魔法生物テディの仕事だったが、ここ最近は珠呂やアレフがその代わりを勤めている。
テディは更紗と一緒にジョートの生活に振りまわされてメッセンジャーボーイにされていた。ご苦労様である。

更紗は、この待つ時間が以外に好きだった。ジョートが寝ぼけた声で『オハヨウ』と言ってくれるまでに色々なことを考える。
どれもこれもが今までにないことだらけで、想像しても想像し足りなかった。

今までの自分が狭かった事が分かる。視野が広がっていく自分が分かる。もっともっと色々な事が知りたい、教えてもらいたい。更紗はそう思う。

依頼をしてくれた珠呂達に悪いと思ったったが、時々依頼内容をフと忘れてしまう時がある。全部ジョートが自分の仕事に彼女を巻き込んで引っ張りまわしている時だ。
ついつい楽しい事が多すぎて忘れしまうのだ。

そんな時は大抵思い出した時にちょっとした自己嫌悪に陥ってしまうのだが、そんな時は毎回毎回タイミングよくジョートが頭を『ポンポン』と軽く叩いては、毎回彼女の欲しい言葉をくれた。


「……ハヨ。」

階段から声が聞こえた。更紗は声が聞こえたほうを向く。ジョートだ。
ジョートは自分の方を向いた更紗を見て『ニッ』と少年のような笑みを向けた。更紗も釣られて微笑む……
二人だけに通じるちょっとした意思疎通。


………そしてまた一日が始まる。




あとがき

ハイ。そんな訳で第三話でございます。
まあ、次か、長くてもその次くらいで終わることでしょう。
付き合ってくださる人だけ付き合ってくだされば結構です。

そんな訳で、今回ここまで読んで下さった方々、アリガトでした。
ではまた〜




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