楽し恐ろし学園祭。(後編)



―――……ミスコン受け付け……―――

「ハイ。着いた。」
「ええ〜っとぉ〜…ここは………一体…何処?」
「見て分からない?ミスコン会場よ。」
「えっ!?ジンさんミスコンにでも出るんですか?」
「ううん。アタシは出ないわよ。」
「え?じゃあなんでこんなとこ来たんですか?」
「そりゃあねぇ?シュウちゃんが出るからよ。」
「………今なにか言いやがりましたか?このオカマ野郎。」

事態をいまいち把握していないと言おうか現実を受け止めたくないだけと言おうかシュウはニッコリとジンに言った。

「だぁかぁらぁ、シュウちゃんが出るのよ、ミスコンに。」
「なんでじゃぁ〜〜〜!!!」

大声で叫ぶシュウをジンはアッサリと無視して襟首を『ムンズ』と掴んで受けつけヘとまた引っ張っていった。

「ちょ、ちょ、チョット待ってくださいよマジでっ、だから、なんで俺がミスコンに出なきゃあならんのですかっ?」
「だって、あたしが出たらつまらないでショ?だから。」
「もしかして……それだけの理由?」
「そ、もしかしなくてもそれだけの理由。」

戸惑いながら聞くシュウにニッコリと笑いながらジンは答えた。

「帰って良いですか?」
「ん〜〜〜〜、別に良いけど、そうなると折角仮名で出したのに本名をばらさなきゃあいけなくなるのよねェ…おまけにさっきも言ったけど今帰ってトリーシャちゃん探しても多分会えないわよ?彼女多忙みたいだし。アタシは何時何処にいるか知ってるから、もし優勝したらその情報をあげても良いけど……どうする?」
「………その情報は確かなんですよね?」
「勿論よ。トリーシャちゃん直々の方法ですもの、多少時間については色々あるでしょうけど、その辺は間違いないわ。」

シュウはついに観念したか、少しの間、間を置き、『分かりました。』と了解した。

「おっけぇ〜、それじゃあ早速受付に行ってチェックして中に入りましょうか。」


―――……その頃……―――

受付ではクレアが参加者への接客を行っていた。参加者とは言ったが実際の所、サクラとして実行委員も何人か紛れこんでいた。
そんな訳でクレアは暇を持て余していた。そこへジンとシュウがやってきてクレアに話しかけてきた。

「あの、すいません。『七月 秀子(ななつき ひでこ)』でエントリーした物なんですけど…。」
「アンタ、そんな分かり易い仮名でエントリーしとったんですか!?」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。化粧しちまえばそんなに分からないわよ。」
「化粧って誰がする……ってもしかして…ジンさんがすんの?」
「ぴんぽ〜ん。良い勘してるわよシュウちゃん。ご褒美にキスしちゃう」
「のぉ〜っ!!止めっマジで止めて、って言うか近よんなっ!!」

そこまで聴いていたクレアは顔を下に向けてだをプルプルと振るわせながら黙っていたが、やがて『キッ』と鋭く二人を睨め付けたかと思うと二人に叫んだ。

「お止めなさいっ!!」

いきなりクレアに怒鳴られ二人は一瞬動きを止めてクレアの方を見た。クレアは続ける。

「これはミスコンなんですよ?分かっているのですか?男の方が出てどうすると言うのです?それに男の方が化粧なんて言語道断ですわ!!」

シュウはリアクションに困り『ハァ…ごもっともで。』とボケェーっとした顔で言いジンの方はニヤリとして、クレアに言い返した。

「確かに看板には『ミスコン』って書いてあったわよ?でも、それが『MISS』コンテストとは書いてなかったわ。もしかしたら『ミスターコンテスト』略だったかもしれないし『ミスダンディコンテスト』の略だったかもしれないわよ?」
「そう言うのを屁理屈と言うのですっ!!」
「そう?アタシは別に普通のことを言ったまでだと思うけど?」
「いいえっ!誰がどう聴いても屁理屈ですわっ!!シュウ様もそう思われますよね?」

いきなり話題を振られたシュウとしては困った問題である。確かに屁理屈かもしれないが今はその屁理屈が通らないとトリーシャの確かな情報が得られないのである。
と、言う訳で、シュウは曖昧に答えるしか出来ず、やはり『ハァ…』と答えただけだった。
その様子を見たジンは『勝った』と頭の中でガッツポーズをし、余裕の笑みでニヤッとしながら止めに入った。

「別に屁理屈でも良いわよぉ〜アタシは、でも、このミスコンなのかにサクラで出ている実行委員は何人いるかしらねぇ?」
「グッ…」
「今彼女が抜けて自主的参加者が減って今から女の人が速攻で集められる?」
「ググッ…!」
「あ、それとも、女装したシュウちゃんにも勝てるほど魅力的な女性がいないから負けるのが恐いとか……?」
「そんな事おっしゃらないで下さいっ!!ええ分かりましたわ。シュウ様の参加、私も許可しますわ。ですが、もしシュウさまが一番になられなかった場合土下座して一番になられた女性に土下座してくださいませ。」
「良いわよ別に。でも、あたしがメイクするシュウちゃんはチョットやそっとじゃ負けないわよ?」
「望む所ですわ」

この会話の一部始終を見ていたシュウは二人(正確には熱くなっているのはクレアだけだったが)を見てあまりの恐ろしさに震え上がってしまった。
クレアに通されて二人は控え室に入る。入ってジンは持っていた荷物の中身を取り出し‘くるうり’とシュウの方を向いて‘ニッコリ’と笑いながら言った。

「シュウちゃん…」
「ハ、ハイィッ…」
「分かってるわね?」
「え、ええ、まあ。」
「アタシは負けても良いけど、負けたらトリーシャちゃんの情報は手に入らないわよ?」

その言葉を聴いてシュウは今の今まで忘れていたことを思い出した。そうである。優勝しないとトリーシャの情報は得られないのである。

唯一確かな情報を得るには、これで優勝しなければ成らない。だがこのクソオカマが余計な喧嘩を売った所為で優勝は難しくなった。
と、言う事は優勝から一歩遠ざかったと言う訳であり、そうなるとトリーシャ情報が得られない………

そんな事を考えてシュウの頭はどんどんこんがらがっていってしまい………

「西のお空にピンクのカバさんが飛んで行きまぁ〜っす…」

と現実逃避を始めてしまった。

「こらこら、若いもんが現実逃避なんてしないの。あたしの腕を信用しなさい。シュウちゃんをビックリするぐらい美人さんにしてあげるんだから。」
「……素直に喜べません…。」
「別に喜ばなくても良いわよ?アタシはアタシが楽しければ良いんだから。」

ニッコリと笑いながらそう言うジンにシュウは大層な殺意を覚えながら、ジンにされるがままに衣装を来こまされ、化粧をされたのだった…。


―――……そして……―――

「きゃぁ〜〜〜〜〜っ!!o(><)oやっぱりアタシの見立てに間違いはなかったわねっ!!」
「なんか、唇が変な味する…」
「ああ、ダメよ紅舐めちゃあ。折角塗ったのに落ちちゃうでしょう?」

着替えとメイクアップが終わったシュウは見事な女性に変身していた。ビューティコロシアムも真っ青なくらいである。
因みにジンの見立てとしては、タイトな長袖の白Yシャツ、袖がなくスカートが長めのタイトな黒のワンピース、黒タイツに少し底のあるブーツという出で立ちである。
髪は紅い色のロングヘアーのウィッグを使い化粧をしているためパッと見ではシュウと言う事には誰も気付かないだろう。

「やっぱりねぇ…シュウちゃんも男の子だから腰周りとか筋肉のつき方とか結構心配しちゃったけど、うん、これでなんとか誤魔化せるわね。」
「なんつーか……喜んで良いやれ悪いやれですよ、ホント…。」
「ま、その辺は自由にしてちょうだい。さっきも言ったけど基本的にアタシが楽しめればアタシはそれでいいんだから。」
「はぁ…全く、そのマイペース加減にはいい加減感服しますよ。」

シュウにそう言われると、ジンはすっくりとたって相変わらずの笑顔でシュウに言った。

「ありがと、ほいじゃ、コンテスト本番頑張ってちょうだいね。」
「えっ!?ジンさんズーッとここにいるんじゃないんですか?」
「ナニ?アタシにず〜〜〜っとここにいて欲しいの?」
「言え。そう言う訳じゃないですけど…」
「なぁ〜に今のシュウちゃんならちゃんと優勝出来るわよ。心配しなさんな。それに、アタシも以外と忙しいのよね。そんな訳で、健闘を祈ってるわ。じゃ」

そう言うとジンは出口に向かって歩き出したが、何かを思い出したようで、フと立ち止まってシュウの方に振り返り

「コンテスト本番はちゃんと笑顔で愛想良くするのが秘訣よ。眉間にしわ寄せてたんじゃ誰も投票なんてしてくれないんだから。」

と一言ウインクをしながら言って去っていった。残されたシュウは『ハイハイ、頑張りますよ。』とチョット困った顔をしながらジンを見送った。

表に出たジンはバッタリクレアと居合せてしまった。ジンは余裕に笑みをかましてクレアに向かって言った。

「あらお姉さん、覗き見とは趣味が悪いわね。」
「の、覗き見なんてしてませんわ。敵情視察です。」
「プッ…そう言うのを覗き見って言うんだと思うんだけど…。まあいいわ。で、どう?アタシ作の秀子さんは(笑)。」
「悔しいですけどキレイです…。」
「ありがと、なんならお姉さんもして差し上げましょうか?」
「敵の情けは受けませんっ!!」
「アラ?別にアタシはあなたの事を敵だとは思っていないから別にいいのよ?」
「えっ!?」
「フフフ〜、シュウちゃんにも言ったけどね、アタシは、アタシさえ楽しければなんだって良いの。例え誰が優勝しようがあたしが土下座しようが、要は楽しければそれでいいのよ。だから貴方に化粧とかして上げるのも単なるアタシの楽しみでしかないわ。そうされてみる?」
「……そこまで言うなら、されて差し上げます。但し、負けた時はちゃんと…。」
「別に言われなくとも分かってるわよ。」
「ならいいです。」
「ところでお姉さん、お名前は?」
「クレアです。クレア・コーレイン。そう言う貴方は?」
「アタシは………ジャンク・I・ノーブルよ。ジンでいいわ。」
「なにか、男の方ようなお名前ですわね。」
「そう?あまり気にしないで」

そう言って今度はジンはクレアにも化粧を施した。
クレアに化粧を施したジンの感想は「やっぱりもとの言い個は化粧をしてもいいわ」と言うものだった。


―――……ミスコン本番……―――

会場は沸いていた。沸きに沸き上がっていた。
理由は勿論クレアの飛び入り参戦と言う理由もあったが、謎の美女(笑)『七月秀子』と言う生徒がブラックホースとして担ぎ上げられたからである。
因みに審査員は……

前年度生徒会長『アレフ・女たらし・コールソン』
化粧マニアとして名高い『アルベルト・アリサストーカー・コーレイン』
同じく化粧マニア『ヴァネッサ・年は言うな・ウォーレン』
おませなお年頃が審査員としてでしゃばった『ローラ・おませ・ニューフィールド』
やっぱりここにもいたか『トリーシャ・噂好き・フォスター』

以下ミスコン会場にいる人達から無作為に選ばれた二十名だった。
審査員席にいるトリーシャを見つけ『七月秀子』ことシュウは真っ青になって血管を浮きあがらせながら怒鳴りたい気持ちを必死に押さえた。
(あんのオカマやろぉ〜〜〜トリーシャが審査員だって事知っていやがったなぁ……)
そんな事を考えながら正体がバレない事を祈るのみだった。因みにミスコン審査員にトリーシャがいることはジンは本番数日前になって知った。
が、今そんな事はどうでも良い。こんな格好でトリーシャには会いたくない、が、優勝しないとトリーシャの今後の予定が分からない。
合いも変わらずシュウの心中は複雑である。

そんなこんな考えている内にとうとうシュウの番が来てしまった。

『後残り二人となってしまいましたが、エントリーbX番謎の美女『七月秀子』さん』

『うおぉ〜〜〜〜〜』一斉に会場が沸きあがった。
シュウはゆっくりとステージに上がり―――内心、心臓が口から出ないかと心配したが―――ステージ真中まで歩いていく。
出来るだけ審査員たちには好印象を与えなければならない。いくらサクラがいるとは言え普通の生徒も混じっているのである。
優勝を逃すわけには行かないのだ。そんな訳でシュウは秀子として目一杯の笑顔で観客や審査員にアピールをした。
簡単に自己紹介をし―――勿論声は裏声で―――簡単な質疑応答をし、司会者の生徒に促され他の参加者達の元へ行く。勿論この間笑顔。

最後にクレアが紹介され―――勿論これも大盛況だった―――ついに審査員のコメントに入る。

アレフ:やはり○番の子あれは中々よかった。将来有望な美人になるぜ。
アルベルト:クレアもついに化粧に目覚めたか…これで俺の苦労の日々も…しかし、何故アリサさんが参加せんのだっ!!(ブツブツ…)
ヴァネッサ:化粧と言う点だと九番の子は良い化粧のノリをしてたわね…
トリーシャ:う〜ん…秀子さんって誰かに似てるような気がするんだよなぁ〜…(シュウ:どっき―――――ん!!)

以下、どうでも良いようなコメントの後に審議に入りそしていよいよ結果発表となった。

『それでは発表しますっ!!第○○回ミス悠久学園は………』

一同が唾を呑む瞬間である。

『エントリーbP0番のクレア・コーレインさん………』

自分の名前を聞いた途端クレアが笑顔になった。が司会者の言葉はまだ終わっていなかった。

『と、エントリーk續ヤの七月秀子さんの二人となりました―――――――っ!!おめでとうございます!!!』

この瞬間会場は会場はボルテージマックスの状態となった。あらゆる所から拍手喝采が響き渡り、二人に惜しみない拍手が送られた。
『ささ、こちらへどうぞ。』と司会者に言われ二人はステージ中央へと行き、ビックリボーゼンと言った感じで立ちつくしていた。

『それでは、優勝したお二人に感想を聴いてみましょう今のお気持ちは如何ですか?秀子さん。』
「え…あ…あの……嬉しいです。」
『クレアさんは?』
「ハイ……光栄ですわ。」

二人揃ってテレながら俯き加減に言うもんだから会場中の男たちのハートはがっちり掴まされてしまい『うおおおおおおお〜〜』と言うむさい声が更に響き渡った。

『どれでは優勝したお二人にはトロフィーと花束が贈呈されます。なお二人同時優勝と言うのは今までに無かった為、トロフィーと花束足りない分は後で御自宅に送らせて頂きます。御了承下さい。』

司会者がそう言うと奥からトロフィーと花束を持ったとここが二人の側まで歩いてきた。男はどうやら背が低いらしく厚底のブーツを履いていたが、カジュアルに着こなしたスーツがとても良く似合いブーツにもマッチしていた。

「二人とも、おめでとう。」

二人を見ながら優しく笑うその男の声を聞いてクレアとシュウは声を失ってしまった。そう、今二人の前に立っているのは他ならぬジンだったからだ。

「どうしたの?あまりのカッコ良さに声も出ない?」

「ジ…ジンさん、」
「ハイ?」
「あ〜た、普通にしてりゃあ良いのになんでオカマなんぞやってるんですか?」
「ま、その辺は人生色々あるって事で、勘弁してちょうだい。と、言う訳で、ハイ。クレアちゃんにはトロフィー、秀子ちゃんには花束を上げちゃう。」

そう言ってジンは二人にトロフィーと花束を渡し

「あ、それとシュウちゃん、花束の中に報酬は入れてあるから、頑張ってトリーシャちゃんと思いで創りなさい。じゃね」

と言って去ってしまった。こうして大盛況のなかミスコンは幕を閉じたのだった………。


―――……そして『ETERNAL Phantasya』楽屋にて……―――

ラス前のバンドが終了し機材の方付けを行っている。ジン、トリーシャ、アレフ、ルシード、シェール、バーシア、由羅の七人は1ヶ所に集まった。 「さて…と、泣いても笑ってもこれが最初で最後。気合い入れて行くぜっ!」

ルシードが手を前に出しながら言う。ジンはそんなルシードを見ながら『クスクス』と笑い

「そんなに眉間にしわ寄せてたら皆逃げちゃうわよ?それに楽しむライヴで泣くのは厳禁よ。リラックスして、笑って笑っていきましょ。」

と軽く励ます。それを聞いてメンバーは多少緊張が解けたらしくメンバー全員はお互いを見合わせて微笑む。
そして全員、円陣を組んでルシードの手の上に自分の手を置いた。

「『ETERNAL Phantasya』行くぞ――――――っ!」
『おお――――っ!!』

『ETERNAL Phantasya』のステージが今、始まった……。


―――……本番……―――

エンヤの『book of days』の壮大で全てを包みこむような歌声がオープニングSEとして響くなか、メンバーがステージに入った。
立ち位置としてはセンターに1曲目のボーカルのシェール、上手にベースのジン、下手にギターのトリーシャ、後ろ上手にドラムのバーシア、後ろ下手にキーボードの由羅となっている。
1曲目ではとりあえずルシードとアレフは控え室待機をし、2曲目から入ると言う形となった。

五人の準備が終わるとSEは一旦大きくなったかと思うとすぐに小さくなり、やがてフェードアウトする。
五人は違いの動きを見て頷き合うと、由羅はスティックを持った両手を高々と上げ『タンタンタンタン』とフォーカウントをとった。
『そばかす』の前奏が流れるなか会場は一気にテンションが上がる。
姿が分かった生徒たちが一気に興奮状態に陥ったのである。
それもそのはずである。なんだかんだ言ってトリーシャもシェールも由羅もバーシアも学園では美人と言われ、人気の生徒及び教師である。
そんな彼女達が楽器を演奏している。しかも演奏技術は悪い物ではなく、おまけに皆がノレる曲と来たもんだ。テンションが上がらないわけが無い。

そんな訳で1曲目が終わりMCへと突入する。
この間喋っているのはルシード、アレフ、シェールの三人で、ジンとトリーシャはその勘にチューニングをし、由羅は次に使う音をセットしている。

MCでは出来るだけ客とコミニケーションを取りながら和気藹々と進める。
演奏中もメンバーは終始笑顔だった。演奏を楽しんでいるのが一目瞭然で分った。
こんな調子で今年も『ETERNAL Phantasya』は大盛況のうちに幕を閉じたのだった…。


―――……全部片付いて・・・……―――

夜。花火が打ちあがっている。学園祭はつつがなく終了しそれを祝う花火が打ち上げられている。
校舎の屋上ではシュウとトリーシャが二人だけで花火を見ていた。ジンが気を効かせた為である。こんなチャンスは早々訪れないだろう。

「きれいだね、花火」
「ああ」

トリーシャのセリフにシュウは短く答える。なんと言って良いのか良く分からない。つまり彼は緊張しているのである。
そんな彼を屋上の物影から見つめる影が一つ。勿論ジンである。
片手にはカメラをバッチリもってラヴラヴシーンが訪れるのを今か今かと待ち焦がれていた。

「あ゛あ゛〜、もうっ、もどかしいわねぇ〜ガバガメくらいかましちまえってのよ、全く〜〜〜〜」
「あの…」
「どわぁ〜!!ビビビビビビビックリしたぁ。なんだ、クレアちゃんじゃない脅かさないでよ全く。って言うか良くアタシがここに居るって分かったわね。」
「ええ、シュウ様達の後をつけてここに入って行くのを見ましたから。」
「ありゃ、あたしもつけられて立ってワケね。で、どうしたの?」

そう言われるとクレアは下を向いて黙り込んでしまった。ジンは別に問い詰めるでもなくただただ待っていた。
勿論シュウ達のチェックも欠かしはしなかったが。やがてクレアは話し出した。

「その…なんと言いますか…ジン様は俗に言う……オカマさんと言うやつなのですか?」
「そうよ。それがどうかした?」

アッサリと言い返されクレアは逆に困ってしまった。まさかこんなに素直に返されるとは思っていなかったからである。

「でも、アレだけ男らしく出来る方が何故…」
「オカマなんてやってるかって?」
「ハイ…」

クレアの素直な答えにジンは『クスクス』と笑いながら答える。ミスコンの時とも、ライヴの時とも違った笑顔である。

「人間ってね、生きてると色々とあるのよ。それこそクレアちゃんが体験してないようなこともアタシは体験してきたわ。」
「はぁ…」
「なんて言うの?簡単に言うとね。アタシの回りの環境がたまたまアタシをこうしちゃったってだけのことなんだけどね。つまりは…」
「つまりは?」

そこまで言うとジンは勿体つけて『間』を置いた。クレアがオウム返しをすると、今度は意地の悪そうな笑みを浮かべてクレアに言った。

「アタシの勝手でしょ。ってことよ。」

そう言われると、クレアはムス〜っとしてジンを睨みつけて言った。

「やっぱり…私、貴方のことがキライですわ。」

クレアにはっきりとキライといわれジンは一瞬キョトンとしたが困ったような笑顔で笑いながら

「そうはっきり言われるとかえって清々しいわね…。まあ良いわ、嫌ってくれて結構よその辺は好きにしてちょうだい。あたしも別に誰に好かれようが嫌われようが知ったこっちゃないし。」

と言った。そして付け加える。

「ま、キライで結構だけど、折角花火も上がってるし、目の前じぁ初々しいカップルが初々しい行動を取ってるんだから今はそれを眺めてみない?」
「あ、悪趣味ですわそんな、覗き見なんて。私は帰ります。」
「ハイハイ、それじゃあねぇ〜」

そう言いながらジンは踵を返して去っていくクレアを見送って再びデバガメを再会するのだった。
後日、二人のツーショット写真が職員室のリカルドの机の上に置いてあり、シュウはリカルドに無言のプレッシャーを冬休みまで受けつづけたそうな…


ご苦労様でした。




あとがき

長くてごめんなさい…短くしようしようとは考えたんですが無理でした…。
読んでくださった方がいらっしゃるならその方全てに感謝します。ありがとでした。ではまた〜





SS置き場

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送