Nu・Ku・Mo・Ri



シュ――――――――――――ン……………………

光が少女を包んで遠くのほうへと飛んでいった。
光を発行させた少女は目の前から消えた少女が、どうやら目的の所へ飛んでいったらしいというのを目で確認すると

「やっぱりマリアってば天才☆」
「でもマリア……更紗とてつもなく嫌がってたよ?」

魔法の会心の出来に、会心の笑みを浮かべた少女マリアは『どーだっ!』と言わんばかりに胸を踏ん反り返して、隣に居たトリーシャに言ってやった。
一方のトリーシャは年中魔法を失敗させている事にかけては天才的なマリアの魔法が、今回も失敗するんじゃないかと気が気ではなかった。

しかも実験台に使った相手が悪い。「エンフィールドで敵に回してはいけない人間」の内の一人、ジョートの彼女、更紗だった。
特にジョートはマリアを毛嫌いしているから、そのマリアが更紗に何らかの被害を与えようものならと考えると…いや、考えたくなかった。
むしろ考えちゃいけない。ゾッとしない事この上ない。

そんなトリーシャの心配も他所にマリアは

「な〜に言ってんのよ。成功したんだからいいじゃない。それに、手間もかけずにジョートの所に飛んでいけるんだから、感謝してもらいたいくらいよ。」
「そーゆー問題じゃないと思うけど。」
「いいの!成功したんだから!」
「はぁ〜。普通に失敗しただけで終わってくれればいいんだけど………」

マリアに気が付かれないようにトリーシャはため息をついた。そんなトリーシャとは裏腹にマリアは満面の笑み。

そして、トリーシャの危惧はものの見事に的中していて………魔法は成功していなかったりする………………


ザッザ―――――ン………

「…………………………」
「…………………………」

ザッザ―――――ン………

「…………………………」
「…………………………」

ザッザ―――――ン………

「…………………………」
「…………………………」

灰色の空。風が冷たい。肌寒い…と言うか圧倒的に寒い浜辺。
波は寄せては引き、寄せては引きを繰り返している。
そして浜辺には一組の男女。

一人は黒く少し薄手のコートを着ている。もう一人は学生服である。
その浜辺に佇む一組の男女、ことジョートと更紗は『ぼけぇ〜っ』と突っ立って波を眺めていた。

「実況の更紗さん。」
「何でしょう?解説のジョートさん。」

不意に口を開いたジョートは目の焦点合わぬまま、隣に居る同じく目の焦点の合っていない少女におもむろに訊ねた。

「この状況は……何なんでしょうか?」
「多分……マリアの魔法が失敗したツケが何故か回ってきたんだと思う………」
「あんのクソブス……俺オンリーならまだしも、更紗まで巻き込むたぁいい根性してやがる…帰ったら損害賠償請求してやる……」

プルプル腕を震わせて言うジョートの目は本気と書いてマジだった。彼の今居る立場を考えればそれくらいの事はしたくなるのも解らなくもない。
それは彼が毛嫌いしているマリアの魔法の失敗の所為によるところもあるが、もう一つ、自分の行動を邪魔されたと言う事にも他ならない。

ラ・ルナで支給と皿洗いの仕事をしている最中、彼はいきなりマリアの失敗魔法に巻き込まれたのである。
毛嫌いしている人間に自分の行動を邪魔される…これほど腹立たしい事はない。
そんなことをしている最中にマリアいつもの魔法の失敗の所為で、何処ぞとも判らない所にかっ飛ばされたらしいのだ。腹も立つ。

「ところで解説のジョートさん。」
「ハイ、何でしょう?実況の更紗さん。」

実況&解説ごっこは未だに続いているらしい。『ザッパン、ザッパン』言ってる波を見ながら、今度は更紗が聴いて来た。
暫く経って幾分余裕が出てきて周りの状況を把握しようと思うくらいの余裕が出てきたのだろう。
目の前に広がっている風景に興味津々と言った具合だ。

「私たちの目の前に広がるこのビッグな水溜りは一体なんでしょう?向こう岸がまったく見えないんだけど………」
「ああ〜。多分こりゃ海ですな。この地球の約7割を占めているしょっぱい水溜りだな。…いや、水溜りっつーよりは塩水溜まりか?まぁどっちでもいいけど。」
「これが海………私始めて見た。」

始めてみる海に感動している更紗に、ジョートは茶々を入れる。

「知ってるかい更紗?この海沿いをずっと歩いていくとやがて元の位置に戻ってくるんだよ。それをやった人が言った台詞が、かの有名な『地球は丸かった…』だったんだよぉ〜」
「うわぁ〜、今のジョートの知識、嘘っぽ〜い。」
「うん。だって嘘だもん。」

ザッパ―――――――――ン……

「………………………」
「………………………」

ザッパ―――――――――ン……

「………………………」
「………………………」

ザッパ―――――――――ン……

「………………………」
「………………………」

感動ぶち壊し。

「さて…と、そろそろここに居るのも飽きてきたし、今後のことも考えるか。いつまでもこんなとこに居て、馬鹿やってくたばったんじゃ笑い話くらいにしかならん。」
「えっ、もう移動するの?」
「何だ、更紗はまだここに居たいか?」
「うん。」
「そか、海見るの始めてだもんな更紗は。新鮮か?」
「うん。」
「そか。」

そう言ってジョートは短く答えると、更紗の頭を優しく撫でながら

「ほいじゃ俺はこの辺を見回ってくるわ。運が良ければ小さな町くらいには有るでしょ。」
「ジョートもここに居て。」

ジョートの服の袖をつかんで更紗は呟いた。
『我が彼女ながらかわいい事言ってくれんじゃねぇか……』ジョートさんトキメキハート。
って言うかどっちかって言うとお惚気気味。周りにギャラリーが居たら彼の筋肉の緩んだ顔を見て『馬鹿…』等と呟いた事だろう。

そんなジョートの心境を知ってか知らずか、更紗の方はジョートの服のすそを上目使いで掴んで離さない。
そんな更紗を見てジョートは更紗に目線を合わせて

「オーケー。それじゃあもう少し、ここに居ようか。」

と言って軽く更紗に口付けた。更紗は主に顔を染め「ウン」頷き、服の裾を離す。
そして、思い出したかのように少し肩を震わせ『クチュン』とかわいいくしゃみをこさえる。
海風は北風らしく、体を突き抜けると確かに寒い。ジョートはともかく、学生服の更紗にこの寒さは少々キツイ。

そんな更紗を見て、ジョートはコートの前を開けその中に更紗を入れ、そのまま後ろから抱きしめた。
そして、その状態のまま、更紗といっしょに腰を下ろす。

「ここ、ちょっと寒いよな。」
「ウン。でも…今はあったかい。」
「そうでないと困る。」
「うん。」

お互いの温もりが、心臓の音が、はっきりと伝わってくる。
寒空の下なのに、二人の居る空間だけが切り離されたように感じる。
心地いい空間。

浜では相変わらず波が押したり引いたりして、月と地球が引力によりお互いに干渉しあっている事を証明している。

静かに過ぎ行く時間。

冷たく、乾いた空。

とうに沈んだ太陽。

入れ替わり顔を見せた月。

それにより普段より澄んで見える夜空。

静かに、ゆっくりと、一定のリズムで引き寄せる波。

コートの中、身を寄せ合う二人。

やがて、波の音と後ろにいる人間の温もりと心の音を心の子守唄に、更紗は眠りについた。
そんな更紗を見て、微笑むジョート。

更紗を起こさないように、だけど熱を外に逃がさないように、しっかりと更紗を包み込みながら、ジョートは今あるこの時間を、大切に閉じ込めた………




あとがき
お題が『海』の筈だったんですけど………海っぽくないですねぇ〜。
一応個人的なイメージは『冬の海』だったんですが………やっぱり海っぽくない。
おまけに当初予定してたのと終わりは全然違うし。………まぁその辺はよしとしよう。
兎にも角にも読んで下さった方、ありがとう。んな感じ。じゃ、

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