キリ盤リクエストSS『試験はやっぱり忙しい。』



――― トリーシャ・フォスターの場合 ―――

カリカリカリカリ………

ノートに向かってシャーペンで文字を走らせる音が静かに流れる。
先ほどまでは流行りの音楽が流れて居たが今ではCDを取り返るのも億劫になってそのままになっている。
どうやら一生懸命に勉強をして………居ないらしい。隣にあるノートを一生懸命に写して居た。

「ああ〜もぉ〜、こんな事なら授業中に寝てないでしっかりやっておけばよかったよぉ〜…」

今夜だけでこの言葉を何度愚痴ったかはわからない。更に言えば彼女は毎回のテスト前の勉強中にも同じセリフを言っている。
そして毎回テスト前になるとコピーしたノートを渡してくれるシェリルに感謝しながら先ほどのセリフを愚痴りペンを走らせる。
よく懲りない物だ。それにしてもいくら毎回の事とは言えどもシェリルにコピーを用意してもらうのも申し訳無い。
(次回こそは…)と決意を胸に、一旦小休止を取る。

居間へ行き眠気覚ましのコーヒーを淹れながらテレビをつける。そこには……

『決まったああああ!!!マスクマンのシャイニングウィザード!!これにはクランク、ピクリ動けないっ!!』

と言う解説者の興奮した実況中継の下、深夜プロレスが放映されていた。
トリーシャは途端に目を輝かせ目の前のテレビに視線を奪われる。

「うっそぉ〜〜っ!!マスクマン様の試合今日やってたんだぁ!!」

『マスクマン様』の大ファンであるトリーシャは一瞬うなだれるも再びテレビに視線を預けついつい見入ってしまう。

「次の試合は誰かな…♪」

こんな事を呟きながら、何時終わるか分からないトリーシャ・フォスターの小休止は続く。
テレビが終わった後、時計に目をやったトリーシャが廃人同様の目をしながら

「やっちまったよ…」

と呟いて『矢吹丈』宜しく、椅子に座りながら劇画調の顔つきで涙を流していた。


――― シェール・アーキスの場合―――

トントン

夕食後、姉の部屋のドアをノックする。テスト前のこの姉妹の恒例行事である。

「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「大丈夫よ。」

姉『リーゼ』の声を聞いたのを確認してシェールは部屋のドアを開ける。

「あのさ、いつも通りお願いしたいんだけど…」

申し訳なさそうに顔の前に『数学V』『古典』『世界史』の教科書を掲げながらシェールは言った。明日のテスト教科らしい。
どうやらリーゼに勉強を教わりに来たようだ。テスト前になるといつも起こる現象である。
リーゼもどうやら予想していたらしく『仕方ないわね』とは言いながらもシェールの座る席を確保してやる。
誠に面倒見の良い姉を持ったもんだ。シェールは早速姉が用意してくれた椅子に座る。

「だって、お姉ちゃんのヤマ外れた事ないんだもん。」
「だからって頼ってばっかりじゃだめよ?」
「分かってるって、ちゃんと授業中は勉強してるよ。」
「だったら大丈夫じゃないの?」

その言葉はシェールにはイタイ。確かに授業は真面目に聞いている、がしかし教師が何を言っているのかがさっぱり分からない。
分からない、と言うよりは理解出来ていないと言う方が正解か。このおかげで何度姉と比較されて悔しい思いをしたか。
でも分からない。結果、姉を頼ってしまう。全く持って悪循環だ。

そのたびに自分に『自分は自分、姉は姉。』と言い聞かせて自分を励ましていた。
『お姉ちゃんは良いよね』とは姉の前では口が裂けても言わない。
友人に愚痴を溢すときに使ってしまう事も有ったが、姉の苦労を自分はあまり知らないのにそんな事を言ってしまうのは姉に失礼だと分かっていたから…。

だがシェールは知らない…。自分が羨ましがっている姉もまた、こんな自分を羨ましく思っている事を…。
結局、人と言うのはない物を臨んでしまう物なのだろうか。

そんなこんなでこの姉妹の勉強会は続く。


――― アレフ・コールソンの場合 ―――

アレフは今日もデートだった。勉強?そんな物彼の辞書にはないに等しい。
彼の辞書に載っているのは

『女性の口説き方』
『デートコース100選』
『女性の好む花&口説いた女性の誕生花』
『正しい男の避け方』
『正しい女性の喜ばせ方』

等々、事女性関連についてばかりである。何故こんなやつを生徒会長にした悠久学園よ?

そんな事はさて置き、アレフは家に帰ると綺麗にファイリングされたプリント群を引っ張り出してきた。
そしておもむろに数枚のプリントを引っこ抜き凄まじい形相で睨みつけた。どうやら丸暗記するつもりらしい。しかし何故…?

「こういう時ダブってるって言うのは役に立つねぇ〜、過去問がバッチリ有るからこれ覚えりゃ一発よ。」

どうやらそう言う事らしい。もちろん、こんなテストなんぞで補講を受けて大事な休日を潰すわけには行かない。
これでも彼にとっては必死の極みである。端から言わせれば『過去問の丸暗記で何を言う』と突っ込んでやりたいところだが。

暫くして一教科目のテスト勉強(丸暗記)が終わったらしい。一応授業中にたまたま起きていた時にとっていたノートも確認しておく。
抜かりは少ない方がいい。学校鞄を開けて中のノートを取り出しながらアレフは思う。

(あ〜あ、早くテストなんて終わるねぇ〜かな。そうすりゃエリザベスとのデートが待ってるって言うのに…)

こうして彼の

『アレフ君のテスト後の開放感を利用してより多くの女の子とデートしちゃおう作戦』

は彼の脳内だけで確実に盛りあがって行くのであった。
勿論そのための努力(?)を今欠かしては行けない。再びアレフはノート&プリントに向かって猛然と勉強に励むのであった…。


――― クレア・コーレインの場合 ―――

「兄さま、入りますよ?」

兄に貸した辞書を返してもらおうとクレアは兄のアルベルトの部屋に入った。
一応ノックはしたし声もかけた。部屋の明りが付いている所を見ると、どうやら寝てはいないらしい。

中にいるはずのアルベルトからの返事がなかったために、とりあえずクレアはドアを開けて中に入った。
入ったクレアは思わず絶句してしまった。絶句したくもなる。
なにせアルベルトの部屋には床一面にグチャグチャと丸められた紙が敷き詰められていたからである。
クレアはおもむろに近くに在った紙を伸ばして中を見てみる。

その内容は………

『拝啓 アリサ・アスティア様

 ワタクシ、アルベルト・コーレインは山よりも高く、海よりも深くあなたをお慕い申し上げております。

 貴方のその美しき甘栗色の髪はどんなシルクの布よりも艶やかでそして美しく、
 貴方のその目は透き通る海よりも更に澄んでいて美しい………』

以下この様な読んでいる方が恥ずかしくなるような内容のラヴレターだった。ラ『ブ』レターではないラ『ヴ』レターであるらしい。
この辺が想いの違いなんだとアルベルトは豪語する。クレアは暫く固まっていたが気を取りなおして他の紙も広げてみる。
誰が言ったかは知らないが乙女心だけでなく乙男心も、どうやら複雑らしい…。

今度のには………

『アリサへ

 俺様はおまえの事を愛してるぜベイベー
 そんなもんだからおまえも俺を愛しやがれベイベー
 ……』

………クレアはやっぱり固まった。

(ば……バカですわ…)

クレアが自分の兄をここまで言うのは珍しい。
一枚目は書いている事が臭すぎるし、二枚目はラヴレターを通り越して慇懃無礼なだけである。
こんな兄を持ったのかと思うとクレアは頭がいたくなる。別に書くなとは言わないが内容が内容である。
そう思っても仕方の無い事かもしれない。

「兄さま、兄さま!!兄さまったらっ!!!」
「うおっ!!…なんだクレアか。ノックも無しに入ってくるんじゃない。」
「ちゃんとノックしました。兄さまが気付かなかっただけです。ところでなんなんですか、この床一面にぶちまけられた紙くずは?」

紙くずと言われカチンときたアルベルトは向きになって言い返した。

「紙くずとは失礼なっ!!これは兄の大切な思いの丈を……って、まさか中は見てないよな?」
「見ました。そんなくだらない内容ばかり書くから兄さまは化粧なんてするのですね…。私は恥かしいです…。」

よよよ、と泣き出すクレアにアルベルトは勿論の如く言い返した。

「ちょっと待てクレア、何でそこに化粧が関係してくるんだ?化粧は俺の趣味なんだから関係ないだろうが!!それに化粧は美を嗜むものとしては当然のだなあ…」

アルベルトは趣味の化粧に関する事となると熱く語り出す癖がある。
そしてクレアの方は『男が化粧をするなど言語道断』という古風な考え方を持っている。
そのおかげでこの兄妹は化粧に関する喧嘩が絶えない。もはや近所でも名物になってしまったほどである
またか…と少々うんざりしながら部屋の隅に視線を移したクレアは『アル物』を発見し物凄い剣幕でアルベルトのセリフを遮った。

「兄さま………」
「なんだ、質問かクレア?今からルージュの選び方について語る…ヒッ!!」
「これは…なんですの?」

そう言ってクレアがアルベルトの前に出しつけたのはメイクボックスである。
この間自分が没収したと思っていたメイクボックスが何故かここにある。アルベルトが自分に隠れて持ち出した以外にありえない。
クレアに‘にっこり’と寒気がするほどの笑顔を向けられてアルベルトはしどろもどろになりながら言い訳を考えた。
「そ…それはだな…あっ、そうだ、化粧の神様が俺に化粧をしろと仰せつかってだな…」

バンッ!!
クレアのおもいっきり机を叩く音にさすがのアルベルトもビビリ入る。

「ヒッ!!」
「兄さま…今日と言う今日はその根性を叩きなおして差し上げますわ……覚悟っ!!」

そう言うとクレアは何処から取り出したか分からないが薙刀を持ち構えた。
チャキッ!

「ク…クレア、冗談はよしこチャン。いやそれよかどっからそんなものを持ち出した?」
「寒いギャグで命乞いとは…落ちましたね兄さま。」
「ちょっと待てっ!『命乞い』て俺は殺されるのんか?って言うか実の兄を殺すな?」
「問答無用です!!」
「ぎゃあ――――――――――っ!!!!」

兄の粛正後、アルベルトのメイクボックスの行方が眩んだのは言うまでもない。
そして深夜アルベルトが家の中を徘徊する事となったのもまた、言うまでもなかった…。
頑張れアルベルトっ!!君の努力もいつかは報われる時がくる………かもしれないと思う。





次の日……
トリーシャは不気味に涙を流し、シェリルに感謝しながらテストを受けていた。

トリーシャ「よ…良かったぁ〜〜。とりあえず移した所が出たよ。ありがと〜〜シェリル〜〜〜〜〜。」

シェールは姉との勉強が効をそうしてスラスラと問題を解いていく。

シェール「やっぱりお姉ちゃんのヤマは外れないね。お陰でらくらく解けちゃう」

アレフは真っ白になっていた。燃え尽きていた。

「ゼ…ぜふぁーのヤロー去年と問題全く替えてやがる…おかげで殆どわからねえ…チクショ――――!!!」

クレアは無難に問題こなしていた。普段からまじめに勉強していたものの勝利だ。しかしテスト中、彼女の思考は別のところにあった。

クレア「兄さまのあの軟弱な態度…今度はどうしてくれましょう…」

ここまでくるとアルベルトに同情してしまいたくなる。
そんなこんなでテスト週間は待つことなく過ぎていくのだった…。
返却されたテストがどのような点数であったかは読む方のご想像にお任せするとしよう。


<おしまい>



あとがき
いかがでしたでしょう?
一応テストがお題という事で、テスト勉強にどう励むか考えてこんなんじゃなかろうかと妄想しながら描いて見ましたが…。
‘まあこんなのも有りかな’程度に思っていただければ光栄です。
しっかし…我ながらクレアは酷い娘になっちまったなぁ〜…。もうちょっとまともに描いてあげたかったよ。
それでは皆様、今回はこの辺で、





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