vanilla note



 奇跡は起こらなかった・・・・・・・・・

 奇跡は起きるもんじゃなくて、自分で起こすもんなんだ。

 居なくなって、初めて見つかった、彼女の言葉に対する反論。この言葉を不言実行していたら、彼女の運命は変わっただろうか。
 答えを聴く事は、出来ない。

『軌跡って、起きないから奇跡って言うんですよ。』

 と言った彼女は今はもう居ない。有体に言えば、天国に居る。少なくとも地獄に落ちていないと、俺は思いたい。
 まぁなんていうか、・・・死んでしまった。と言うのが、認めたくないが見つめなければならない『現実』だった。

 涙は流れなかった。通夜やれ葬式やれに参加出来るほど、俺は彼女の家族達とは親しく無い。
 香里あたりに拝み倒せば、少なくとも参加くらいはできたかもしれない。でもしなかった。拝み倒してまで参加なんて、死んじまった人間に対して失礼に思えたから・・・
 コレは俺なりの礼儀だ。・・・って言うか常識だよな?それに沈んじまってる香里にも、悪いからな。

 で、俺は何してたかっつーと、特に何もしていなかった。
 放課後に待ち合わせた彼女が居なくなったんだ。俺に出来るのは精々49日まで間に彼女との楽しかった思い出に浸るくらいなもんさ。
 49日までの間に生きている人間が相手のいいことを色々思い出してやると、どうやらいいらしいって言うのを最近知った。

 全部が片付いて一週間くらいたった頃、偶然・・・だろうか、香里と下校を一緒にする事になった。
 どちらから言い出したわけでもなく、ただなんとなく・・・そんな雰囲気になった。それだけだ。

「あの子の事だけど」

 唐突に始まった会話に、「ん。」とだけ返す。

「幸せだったのかしら・・・」
「さぁな。」

 それだけ返すと香里は元々整った小奇麗な顔をさらに綺麗にさせて―――美人って怒ってもやっぱり美人なのな。このとき初めて知った。―――俺を睨みつけた。
 怖いからあんまりその顔で睨みつけてくれるなよ、逃げたくなるから・・・
 口が裂けてもそんなことは言わんが、心に留めるくらいは許せよ。そんな事を考えながら俺は平静を装って前の台詞の続きを綴る。

「居なくなった人間がどうだったか、ソレについて答える解を俺は持ち合わせていない。何故ならソレは彼女の中にのみ存在したものであって、他者が理解できるものではないからな。」

 だから、いい加減その表情は勘弁してくれよ。・・・話を続ける。

「結局のところ、だ。」

 それだけ言って俺は香里の方を向いて鬼の形相を全部受け流して、笑った。
 巧く笑えていたかどうかは、よー解らんが(だって、受け流してもやっぱり怖いもんは怖いんだよ!)、兎にも角にも、笑ってみせた。

「生きている人間がどう思うか、だろ。栞が幸せか不幸かそんな二択を選べというなら、俺は迷うことなく前者を選ぶね。俺は、栞と大切な時間を創る事が出来て幸せだった。きっと栞も幸せだった。それでいいじゃないか。」

 香里は鳩が豆鉄砲を喰らった様な面をして、毒気が抜かれたような顔を俺に見せる。
 それから暫くの間苦笑して、そして最後に、静かに微笑んだ。

「そう、彼方はそういう結論に達したんだ・・・。私には、出来ないかな・・・」
「そうか・・・」
「相沢君は、強いね。」
「そうでもないさ。」
「そんなことないよ。」
「考え方の違いさ。俺は俺で、さんざ悩んで、そーゆー風に考えようって思っただけさ。香里は香里なりに、考えて解決すればいい。」

 そうね。とだけ香里は答えて空に目をやる。
 つられて俺も上を見上げてみる。生憎と空は雪模様。音も無く、ただ静かに、怖いくらいに静かに、雪が舞い降りていた。

「アイスでも食べに行きましょうか。」

 そうだな。と俺は答えて、足を商店街へと向けた。香里もソレにあわせて足の向きを変える。
 商店街で買ったアイスは、ちょっと特別な味がしたような気がしたが、やっぱり普通の冷たいアイスの味がした。
 俺はやっぱり、栞が食べているのを見ているのが一番いい。






 49日が過ぎた頃、学校を自主休校にして春先だというのに人の少ない『アノ』公園を訪ねた。
 ベンチに座り噴水の音をBGMにして、あの頃の結末が解っていながらも、それでも幸せだった、幸せ過ぎたあの頃を思い出す。

 そして、俺は少しだけ泣いた。


<fin>

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