満月衛星。-ss-はんばーぐ狂騒曲 満月衛星。 ss - はんばーぐ狂騒曲

 今日も一日働いたぁ〜 明日も元気にがんばろお お〜っ ♪

 調子っぱずれな歌を歌いながらスーパーの袋をぶら下げて俺はアパートへの道をほてほてと歩いていた。
 後は飯作って汐と喰って、風呂入って湯上りにビール飲んで寝るだけだな。いつもと同じ、明日もきっとこんな感じだろう。

 でもまぁ汐も中学生に上がったから、そろそろおかずの一つくらい覚えてもよさそうだったが、その辺のことについては余り詳しく聴いてない。
 ふむん、本日の食卓での話題が決まった。さてさて、ヤツの家庭科の腕は、果たしてどんなもんなのかね?
 渚も早苗さんも料理は美味かったから、俺の血が濃くない限りはまとも料理を出て来る筈だ。かく言う俺だって、不味いもんは作ってないと思う。
 そう考えると幾分安心できる。そんなこんなで晩飯の事とかを色々考えつつ、俺は家路へと急いだ。


『はんばーぐ狂騒曲』


 部屋の前に着くと、何やら匂いがする。ふんふんと鼻を立てて匂いを嗅いでみるが、肉を焼いている匂いだと言うことくらいしか解らなかった。
 この部屋に住んでるのは俺と汐だけだから……ヲヲッ、ってことはアレか? 父の考えていた事が娘にもテレパシーか電波かで通じたっつーことか!?
 そいつは嬉しいぜっ! イヤッホーイッ!!

 バーンッ!!

「ただいまぁ〜」
「あ、パパお帰り。も少し待っててね、今ご飯できるから」

 元気よく開けて帰ってきた俺の声を聴いて、汐が台所から返事をしてきた。
 靴を脱いで部屋の中に入ると、狭い台所でエプロン姿の汐がせっせと料理に励んでいた。フライパンからジューと言う食材が焼ける音が聴こえる。
 蓋をしているから中身に付いては良く分からない。まぁ、折角娘が作ってくれる料理だ、中身に付いて文句を言ってはバチが当たる。
 俺は気にせずに待つことにした。

「おう、待つ待つ。っていうかどうしたいきなり? おまえが晩ご飯を作るなんて。今までそんな素振りもなかったじゃないか?」
「えへへ、今日ね、家庭科の授業でハンバーグ作ったんだ。それで今日の課題ってことで、おうちの人にご馳走してあげるって言うことになったの」
「ああ、な〜る。そゆことね」

 それじゃあと、待ってる間にビールでも空けよかと企んで冷蔵庫の前に立つと、そこには家庭科の授業で配られたと思しきハンバーグのレシピがだんご大家族マグネットで止められていた。
 だんご大家族マグネットは勿論お手製。随分前に欲しいと汐に珍しく駄々捏ねられて、町中探し回ってどこにもなかったから、それじゃあ作っちまえと100円均一で丸型のマグネットを捜してそれに顔を落書きしたのだった。
 それが今は藁半紙を冷蔵庫にくっ付ける役目を担うために、藁半紙の上をうぞうぞとひしめき合っていた。
 う〜ん、自分で作っておいて言うのもなんだが、だんご大家族、相変わらず、気持ち悪し。

「だんごっ、だんごっ」

 なんていうか、親子だよなぁ〜。料理しながらだんごを歌う汐に、俺は思わず苦笑してしまう。
 どうせだからちょいと父親の古い思い出にでも付きあっていただきますか。

「なんだ、汐はだんごを作ってんのか?」
「パパ……もうもうろくした? ハンバーグ作ってるって言ったじゃん」
「いや、だんごだんご歌ってるからさ、だんごでも作るのかなぁと……」
「だんごは歌いたいから歌ってるだけだよ」
「それだったらいっそ、はんばーぐっはんばーぐって歌えよ。そっちの方が紛らわしくない」
「語呂悪ッ!!」

 くすくす笑いながら答える汐とそんな他愛もない会話そしてしばらく時間を潰す。ハンバーグは作り上がったようで、出来上がったハンバーグが順繰りに三つづつ皿に盛られていた。
 ハンバーグを盛り終わると、冷蔵庫からケチャップを取り出して何やら仕上げの作業をしていた。
 運ぶのくらいは手伝わないと悪いか、と思い台所にたつ汐の傍まで行き、出来たと思しきハンバーグの盛られた皿に目を落とす。
 ……さっきだんごマグネットを見た所為か、ハンバーグまでがだんご大家族に見えてきた。ぐあっ……
 おまけに気の所為か、皿に並べられたどのハンバーグにもケチャップで顔が描いてあるように見える。

「おい、汐」
「なに?」

 一応確認を取っておくことにする。

「パパの気のせいだと思うんだが……」
「気の所為、気の所為」
「まだなんも言ってねぇっつーの」
「なに? ハンバーグの顔が気に入らなかった?」
「そーなんだよ、もーちょっと笑顔なのがよかったなぁ〜って思ってたんだよなぁ〜……ってちがーうッ!」
「じゃあなに?」
「なんでハンバーグに顔が描いてあるんだ?」

 俺の質問は至極いたって当然の質問だと思ってたんだが、汐にとってはそうではなかったらしい。
 あごに人差し指を当てて首をかしげている。なんでそんな事を聴かれているのかが解らないといった様子だ。

「気に入らなかった?」
「いや、そーゆーこっちゃなくてな……」
「だったら好いじゃん」

 気にいる気に入らないの問題じゃないような気がするんだが、汐にとってはそこが重要だったらしい。
 「ねっ?」とだけ短く言って、ハンバーグ大家族の皿を俺に渡した。

「ほーらっ、そんな複雑そうな顔してないで、折角の愛娘の始めての手料理なんだから、美味しく食べてよ」
「……そーだな。ま、いただくとしますか」
「おーっ!」

 箸を握った右拳を上げて自分の皿を運ぶ汐。とりあえず俺に出来ることは、苦笑するくらいだった。

 そんなこんなでご飯を茶碗に盛って、いざ

「いただきます」
「いただきます」

 二人の声が重なり、小さな緊張が走る。普段ならのほほんムード漂う食卓だったが、今日は違う。
 日中に家庭科の授業で一度作っているとはいえ、一から十まで全部やったのは今回が始めて。果たして美味く行っているか……
 俺は慎重に箸をハンバーグに通し、二つに分ける。もわっと湯気が上がり紅い部分がなくなったハンバーグの内部が姿を表した。
 火は通っているらしい。まず一つ安心。さて、問題はここからだ。汐が見守る中、二つに割ったハンバーグの片方を箸で挟んで口へと運ぶ。

 もぐもぐ……

 咀嚼。

 ごっくん……

 咽を通過する。
 次の瞬間、世界の色がネガポジ反転した。……なんだこのえも言われぬ味のハンバーグは。っていうかこれはホントにハンバーグか?

「どーしたの?」

 作った本人が顔を覗きこんでくる。俺はなにも言わずにもう片方のハンバーグをつまみ上げ、汐の口元にもって行く。
 意図を察した汐は、躊躇いながらも素直に口を開いてパクついた。同じように咀嚼して、咽を通す。そして次の瞬間、汐は固まった。
 多分、俺とおんなじように世界の色がネガポジ反転したんだろう。
 どうやらショックだったようでしばらく肩を落としていたが、やがてその肩をブルブルと震わせたかと思うと

 ぶわっ

 目に涙をためて……

「わたしの料理は失敗作だったんですねーーーーーーーっ!!」

 とだけ言って、そのまま家を飛び出して行ったしまった。
 しばらくアホな子のようにボーっとしていた俺だったが、我に帰ってみるとツッコミたいことがいっぱいだった。

「ちょっと待てちょっと待て、おまえそのキャラは違うだろう。っていうか失敗作はその通りなんだから家飛び出してくこたぁねぇだろうがよ。おまけになんだ、俺は追っかけなきゃならんのんか?」

 とまぁ突っ込んではみたが答えは何ひとつとして帰ってこない。そりゃそーだ、聴いてる人間がいないんだからな。
 ……やむをえまい。俺はおもむろに立ち上がりそして

「俺は大好きだぞーーーーーーっ!!」

 と、夜の街中追いかけっこを開始したのだった。渚とすらしなかったことを、まさか汐をすることになるとは……っ!



「おま、マジで家庭科の授業で配られたプリント通りに作ったか?」

 10分後、何とか汐をとっ捕まえた俺は、家に帰る道すがら汐に訊ねた。

「えへへ、実は……」

 バツが悪そうに汐は種明かしをする。

「入れちゃいました、色々と。」
「なんだよ、色々って」
「ハンバーグに入れたら美味しいかなぁ〜って思しきものです」
「具体的混入物の告白を求めます」
「……パイナップルとミカンとグレープフルーツ」
「なんだそりゃ、肉が柔らかくなりそうだとか言う理由で突っ込まれたみたいなセレクションだな」
「まさしくその通りです……」

 適当に言ったのに、まさしくなのかよ。汐の肩身がどんどん狭くなるのが分かる。
 っていうか、アイディア勝負で負けまくってる早苗さんを見て育ったのに、そゆことにチャレンジしちゃうのかおまえは……
 まぁ……なんだ。落ち込ませっぱなしってのは良くないか。そう思って汐のサルベージを試みてみる。

「ああ〜、とりあえず、だ。以後食べ物は粗末にしないように」
「ハイ」
「それから帰ったら残りのハンバーグの処理な」
「えぇ〜っ!!?」
「口答えは許しません。パパも手伝ってやるから、片付けるぞ?」
「……ゴメン」
「次ぎに美味いもんを喰わせてくれれば好いよ」
「がんばるっ」

 そう言って胸の前で拳を握って気合を入れる汐。

「気合を入れるのは良いが、次ぎはちゃんとレシピ通りに作れよ」
「大丈夫。パパに美味しくないものはもう食べさせませんっ!」
「ん、期待してる」

 家に帰って2人で生死の境をさまよいながらもハンバーグを平らげた。
 たかだかハンバーグで生死の境を様よう羽目になるとは思いもよらなんだった。
 食後、家庭科のプリントに食べた人間のコメントを貰えと言われたらしく、汐がコメントを求めてきた。
 散々迷って一言だけ、コメントを残すことにした。

「次に美味いもんが喰えることを期待してます」








おわり







---あとがき---
 第三期CLANNAD SS祭り 第三回に出展したものです。お題は「宿題」でした。
 悪くないけど、投票するほどの物でもないと言う作品だったようで、ちょっとしょんぼりでしたみたり(笑)
 ほのぼのしてて割と気に入ることの出来た作品だったんだけどな。残念。

   それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/06/25)

 P.S.感想なんかをメールBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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