満月衛星。
文
- 病は気から
病は気から
ここは白鐘邸、双子の部屋である。居るのは双子の沙羅と双樹、それから二人の彼氏君の3人。
コレだけ言えば普通に女の子の部屋に男が上がりこんでいるってだけの話であるが、今回はちょっとだけ事情がある。
というのも、双子の片割れ沙羅が、風邪を引いた、ソノお見舞いである。
双樹は洗面器の水にタオルを浸し、搾る。そして沙羅の額に乗せた。
タオルは水気を少々多く含んでいてちょっと気持ちが悪い。勿論そんなことは口が裂けても言わないが・・・
『ありがとう』と短く沙羅は言って双樹の細い腕を見やる。
触っただけで折れてしまいそうな白く、細い腕は見た目と寸分違わない双樹の力の小ささを物語っていた。
「双樹、お飲み物もって来るね。二人とも何か飲みたいものある?」
「私は何でもいいよ。」
「僕の方も。気ぃ使わなくていいッスよ。特に飲みたいものがあるわけでも無しですし。」
「そうだぞ双樹、こんなやつに気を使う必要なんかない。」
「まぁ沙羅ちゃんてば、ひっどぉ〜い。おにーさん傷付いちゃった。責任とってね。」
「気色悪い事抜かす・・・げほっ、げほげほ・・・」
急に怒鳴り散らそうとした所為だろう。沙羅は咳き込んでしまった。慌てて双樹が『沙羅ちゃん無理しないで。』といいながら背中をさする。彼も心配しているようだが、
「あ〜あ、急に大声なんか張り上げようとするから・・・。大丈夫?」
という台詞にあまり心配した様子は見られなかった。むしろ明らかに白ばっくれている。
「誰の所為だと思ってるんだ!!」
「さぁ?」
なみだ目になりながらも訴える沙羅だが、彼の方は一向にそんなことを気にした風でもない。
更なる怒りを上げたい沙羅だったが、双樹に『まぁまぁ沙羅ちゃん、落ち着いて。双樹お飲み物持ってくるから、ちょっと待っててね。』となだめられると、渋々と身をベッドの中に戻す。
双樹はついつい笑みをこぼしてしまう。彼女には解っているのだ。
彼が沙羅をからかって楽しんでいる事も、沙羅も怒ってはいるが、まんざらでもない事も。解っているからこそ、ついつい笑みを零してしまうのだ。
沙羅が―熱とはまた別の所為で―顔を赤くしながら、微笑んだ双樹を睨んで『なんだよ。』と目で訴えて来る。『何でもなぁ〜い。』とアイコンタクトを送るが、やっぱり笑みが零れてしまう。
双樹はクスクスと微笑みながら部屋を出た。
「それにしても珍しいッスね。沙羅ちゃんが風邪ひくなんて。」
二人だけになった部屋で彼は濡れタオルを洗面器に浸し、絞った物を沙羅のおでこに乗せながら言った。
「悪いか。私だって風邪くらいひく。」
「ま、そりゃそーだわな。」
「おまえだって風邪くらいひくだろう。」
「まぁ風邪の一つや二つ、僕だって人間ですからひきゃしますけど、それを風邪だと思い込まないようにしてますわな。」
「・・・・?」
『どういうことだ?』とでも言いたいのだろう。沙羅の周りにハテナマークが飛び散っている。彼は笑いながら
「ま、ようは病は気からってことでござんすよ。」
そう言って続ける。
「病気って、病名を知らされて自覚して、それで初めて症状が現れる事が多いじゃないですか。例えば『おまえは風邪だっ!』みたいな。それじゃあ始めっから病気だと思わなけりゃ良いんです。」
「・・・なんだか滅茶苦茶だな。」
「んなこと無いッスよ。例えば、40度の熱を出して風邪を引いた人間が『私はただの風邪』って言うと軽く聴こえるけど、『私は40度の流行性肝炎』って言ったらなんだか重病そうに聴こえない?」
「まぁ・・・確かに、聴こえなくはないな。」
「でしょ?病名が病気を生むんだから、風邪だナンダってのは気にしない方が良いもんですよ。風邪なんて、体力低下がもたらす一時的な強制自宅療養を強いる為の体の防衛手段ですからね。」
「なんだかもっともそうなことを言ってはいるが、要は屁理屈だな。」
「屁理屈でも思い込みってのは結構な力になるもんでさな。」
納得がいかないという顔をしている沙羅に、それじゃあ。と彼はニッと笑って切り出した。
「もう一つ、取って置きの治療法を行っちゃいましょう。」
彼は次の瞬間、なんだろうと沙羅が思う暇も与えずに、沙羅のそのやわらかいく唇に自分の唇を当てた。
沙羅の頭が真っ白になる。
そうして真っ白になった顔をどんどんと真っ赤になっていき、ついには頭から湯気が出た。
『ぷしゅ〜』という音が聞こえそうなほどの湯気を噴出しながら、とうとう沙羅はそのままぶっ倒れた。
怒りだとか気恥ずかしさだとか、兎にも角にもそういったもんが限界地を突破するほど出たらしい。
『うおっ!あぶないっ!』といいながら彼が沙羅の体を支えた事を、果たして彼女は認識しただろうか。
兎にも角にも、沙羅の意識はそのまま深い所へと沈んでいった。
沙羅の意識が戻ってから、彼は散々沙羅に怒られこってり搾られた。
さらに風邪が治ってから数日間、口をきいて貰えず双樹に泣き付いては沙羅に張り倒されたいた。
ついでに言っておこう。数日振りに口を聞いてもらえた沙羅から発せられた第一声は『ばかっ!!』だった。
それは、彼の部屋で彼が風でうんうんと唸っている最中だったという。
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