満月衛星。-ss-every bless you take 満月衛星。 ss - every bless you take

『every bless you take』

 そわそわ、そわそわ……

 さっきからあたしは自分が落ち着かない事を自覚しつつも、落ち着けずにいた。
 昼間、朋也から聴いた言葉「お前の横だと凄く安心して寝られるんだよっ!!」って言う台詞があれからずっとあたしの頭の中でエンドレスでループされている。
 その言葉を思い出すたびに何故か凄く恥ずかしくって、だけれど朋也が安心してくれてるんだって言うのが解って、それが凄く嬉しくって照れてしまう。
 家に帰ってもそれは止まらなくって、焼き魚を作っていたはずがいつのまにやら備長炭を作っていたり、味噌汁を煮立たせすぎて物凄くしょっぱくしてしまったり中に入れた野菜がグズグズになっちゃったりと、普段のあたしらしくないミスをしまくった。

「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
「ん、大丈夫大丈夫……」

 と、あまりの惚けっぷりに椋には真面目に心配されちゃったけど、その間にもまたあたしは朋也の言葉を思い出してボーっとしちゃって、あまりのハズカシさにテレ隠しで椋をバシバシ叩いちゃった。

「痛い痛い、痛いよお姉ちゃん」と、真面目に素で抗議する涙目の椋。その声で我に帰ったあたしは椋をぶっちゃっていた事に気が付いて、本当に申し訳ない気分になってしまった。
「っえ!?あっ、ごめーん、椋。大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど、お姉ちゃんの方こそ、さっきっからずーっと様子が変だけど、なにかあったの?」
「どーせあれでしょ、岡崎くんにあーんなことやれこーんなことやれされちゃって、杏チャンうれしはずかしぃ〜〜〜っ!! ってなってたクチでしょ?」
「おっ、お母さん。ちょっとデマは止めてよね、まだあんなこともそんな事もされてないわよっ!」

 唐突に会話に加わってきたお母さんにツッコミを入れてから、あたしは気が付いた。己が見事な墓穴を掘っちゃっていたということに。

「あ、そうなんだ……」
「そうなの……」
「なっ、なによ、文句ある!?」

 なんでか真面目にかわいそうな目で見られてるし。
 2人はお互い顔を見合わせてあたしの顔をじぃとぉー見やる。

「べぇ〜つにぃ〜」
「なんでもないよ」
「っていうかねぇ〜?」
「顔を紅くして言っても」
「説得力ないわよ」
「ねぇ?」
「ねぇ?」
「そこっ! 親子仲良く娘、姉をからかわないのっ!!」

 お母さんだけでも疲れるっていうのに、その上双子の片割れにまで加われたらたまったもんじゃない。
 自覚してやってるお母さんも性質は悪いと思うけど、天然でこーゆー事をしてくる椋はそれ以上にある意味厄介だ。
 ひとしきりあたしをからかって満足したらしいお母さんは台所をちらりと見た後に椋の方を向いた。

「まぁ良いわ。それじゃあ椋、レストラン行ってご飯食べよっか?」
「……そうだね」台所の方をチラッと見て、アレはちょっと……って言う顔をした椋がお母さんに賛同して玄関の方へと向かって行った。
「えっ!? あたしは?」
「あんたは自分で作った炭焼きと、しょっぱい味噌汁を片付けるように」

 ビッ! っとあたしを指差して罪状を言い渡すお奉行様みたいに言うお母さん。
 ……すっかり忘れてたわ。自分で作った失敗作の数々を。確かに、処理しなくちゃさすがに不味いわねこれは。

「それじゃあ、がぁ〜んばってねぇ〜」
「お姉ちゃん、無理しないでね」

 そう行って2人はレストランに行っちゃった。椋、励まさなくて良いから手伝って……って無理よね。とりあえず「よよよよよ……」と泣き崩れる振りをしてから、どうしようかと考える。
 まぁ魚には申し訳ないけど、さようならするしかないわね。味噌汁は、水を足して味を調え直すしかないわね。そのまま明日の朝ご飯もご飯に味噌汁ね。
 ああそうだ、どーせ皆居ないんだから朋也呼んで手伝わせても良いかも。
 部屋で2人っきりで過ごす恋人の時間……キャーキャーッ!! どうしようどうしよう、あたしかわいいし、朋也男の子だし、本当にあんなコトやこんなコトになっちゃうかもっ!! キャーキャーキャキャーキャーッ!!!

 ………………

 …………

 ……

 そんな事を考えながら料理してたもんだから、まだ修正可能だったはずの味噌汁が、かえってとんでもないコトになっちゃったって事だけを伝えておくわ。
 詳しくは聴かないのっ! ……朋也呼ばなくてよかったぁ〜。



 それから夏休みが終わるまで、あたしは宿題に追われたり志望校を覗きに行ったりとで、ちょっとバタバタした日々に追われた。
 それでもお互い時間を見つけては落ち合って色々と話しをしたり散歩をしたりする時間を作った。
 ちょっと前まではこんな事のために時間をつくろうなんて考えもしなかったのに、今はそんな時間を作るのがとても楽しくて嬉しい。
 この時間の一つ一つが、朋也のと思い出に繋がるから。

 高校最後の夏休みがこれかと思うとちょっと悲しくもなったけど、進学校で進学組みと来れば、大概がこんなもんなんだろうって思う。
 むしろ彼氏がいるってだけでもあたしは恩の字なのかもしれない。


 そんなこんなで結局最後は宿題やら受験勉強やらでバタバタした夏休みが過ぎて、二学期が始まって数日が経った土曜の夜。

 コン、コン……

「はぁ〜い、どーぞー」

 それだけ言うと、カチャッて音と一緒に中に入ってきたのは2学期に入ってから妙に落ち着きがなくなった椋だった。
 まぁ、朋也と一緒になってからこっち落ち着きがなくなったあたしが言えた台詞じゃないんだけどね。

「お姉ちゃん、今ちょっと時間いい?」
「全然オッケーよ。どうかしたの?」
「ちょっと、報告したい事があって」
「何、新しい彼氏でもできたの?」
「……っ!!? ……うん」
「えっ! うそ!? マジッ!!? どっちからコクったの!?」
「私から……」
「どーゆーシチュエーションで?」
「アルバイト帰りに、たまたま帰ることに一緒になって、こんなチャンスはあんまりないかもしれないからって、私から……」

 そこまで言うと赤らめた頬を両手で隠しながら、ますます顔赤くしていく椋。なにやらどうやら、告白したシーンを思い出して再び照れているらしい。
 数日前のあたしも、きっとこんなだったんだろうなぁ〜、なんてことを思ってたら

「キャーキャーキャー!!!」
「ちょっ、椋っ、椋っ!?」

 バシバシバシバシ

 ……叩かれた。そうよ。数日前のあたしも、確かこんなだったわ。流石双子の片割れだけあってやる事が一緒だわ。
 なぁ〜んて感心してる場合じゃないのよね。あたしの声なんか聴いちゃいない。このままほったらかしておいたら2次攻撃がきかねない。
 そう判断したあたしは椋のリーチが届かない所に退避した。
 数秒後、

「キャーキャーキャーキャー!!!」
 スカスカスカスカ……

 さっきまであたしが居た所に向かって素振りをしている椋の姿があった。……退避しててよかった。
 腕を振り下ろした先に感触がなかったからか、椋はハタと正気に戻った。不思議そうな顔をしてる。

「あれ? お姉ちゃん? どうしてそんなところに居るの?」
「不意に訪れたバイオレンスな侵略者から命からがら逃げたのよ」
「わけわかんないよ」
「わかんなくて良いわよ」
「そう?」
「そう」

 変なお姉ちゃん、といって苦笑する椋。椋に隠れるようにため息をつくあたし。
 ……ナルホド。バカップルって言うのは自分がやる分には幸せいっぱいだけど、他人のを見るには幾分体力が要るのね。ひとつベンキョになったわ。

「ま、何はともあれ、思いが伝わってよかったわね」
「うん」
「ところでその彼氏って、前に言ってた『ちょっと気になってる』って言ってた人? 鉄平? 権兵衛? 波平? そんな感じの名前だったわよね」
「勝平さんっ!!」

 ……椋さん、怖いです。マジギレしかかってる椋って始めてみた気がするわ。普段大人しい子が怒ると怖いって本当だったのね。
 でも仕方ないじゃない、素で名前忘れちゃったんだから。
 そんな言い訳をしようもんなら、藪から蛇になりかねない。ここは素直に謝っておくことにする。

「ごめんごめん。で、その勝平ってどんな子なの?」
「子って……勝平さん、私たちより年上だよ。それに」
「それに?」
「将来のお姉ちゃんのお兄さんになる人だよ」

 ゴンッ!!

 い、痛い。後頭部思いっきり床にぶつけたわ。話がもうそこまでぶっ飛んでるのね。
 人のこと言えたクチじゃないと思うけど、ほんとに思う。恋する女の子は盲目にして無敵、だ。
 それにしてもなんだろう? 椋の行動を見ているはずなのに、なぜか自分の行動を振り返って眺めているような気になる。
 もしかして……いや、もしかしなくてもあたしも普段こんなことやって椋に迷惑かけたんだろうなぁ〜。
 妄想の世界に旅立って戻ってこない椋を見ながらそんなことを思う。よし、今日はお姉ちゃんが可愛い妹の将来の夢について1時間でも2時間でも一晩でも付き合ってあげようじゃないのよ。

「キャーキャーキャー!!!」
 バシバシバシバシ
「椋、椋、ちょっと、じゃなくてそこはかとなく痛いからねっ!!」
「でね、勝平さんがね、私に向かって言うの」
「椋、人の話を聴きなさいって」
「その時の勝平さんがね、とっても可愛くてかっこよかったのっ!!」
 バシバシバシバシ!!
「人の話を聴けぇーーーっ!!」

 ……ごめん椋、お姉ちゃんちょっとあんたを今すぐ部屋からつまみ出したくなったわ。
 そんでもってこの椋の大暴走はあたしを巻き込んで、本当に一晩繰り広げられたのだった。
 疲れきってグッタリとしてるあたしとは裏腹に椋は元気いっぱいに「あれ、もうこんな時間。そろそろバイトに行く準備しないと」といって立ち上がった。
 ようやっと開放される、そう思って胸を撫で下ろすと、あっ、と思い出したように椋が振り返った。

「お姉ちゃん、今晩空けておいて貰えないかな?」
「今日はもうあんたの惚気話に付き合う体力はないわよ」
「違うよぉ〜、お姉ちゃんたちがないし」

 ちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇい。その台詞は聞き捨てならないわよ。
 あんたつい数分前まで思いっきりあたし相手に惚気話してたじゃないのよ。まさかアレを惚気話と言わないなんてこたぁ言わせないわよ。
 たとえお天道様が許してもあたしの目の黒いうちは、って言うか、耳が地獄耳であるうちは、アレを惚気話以外の何物とも認めないからねっ!!
 そういおうと反論しかけた所で、椋がこれまたビックリするようなことを言ってきた。

「今日勝平さんが家に来るから」
「……は?」

 なんですと?

「だから、今日お父さんたちに勝平さんを紹介するから、お姉ちゃんもちゃんと家に居てね」
「それ、お父さんたちにはちゃんと言ったの?」
「勿論」

 絶句する以外にどーしょーもなくなったあたしをよそに、椋はパタパタと部屋を出て行った。
 椋……あんた行動が早くなったわねぇ〜。お姉ちゃんビックリだわよ。ここ一晩でまたパワーアップした感じがする。
 おかげであたしがパワーダウンした気もするわ。パワー吸い取られたかしらね?
 そんなことを何するでもなくボーっとしていたあたしだったけど、そんな事が長続きするはずもなく、直ぐに飽きてしまった。
 とりあえず、今できることをしよう。そう思ったあたしは、ベッドにボフッと倒れこんで目を閉じた。
 あ〜。疲れた。



 週明けの月曜日、学校が終わってから朋也と待ち合わせて、あたしたちは迎えに来たボタンの散歩がてら商店街を歩いていた。
 足にボタンを、腕にあたしをくっつけた朋也はとっても歩きにくそうに、だけど払うようなことはしないで一緒に歩いていてくれた。
 へへぇ〜。

「それにしても、随分と大変だったんだな」

 これが週末に有った事の顛末を話した朋也の一言目だった。

「本当よ、自分がするならともかく、人の、それも双子の妹のだって思うとなおさら疲れたわよ。人の惚気話ってホント疲れるわね」
「そう思うんだったらお前も少しは自粛しろな」
「それとこれとは話が別よ」
「いやいやいやいや、全く持って同じだからな」

 そんな他愛もないことを話してたあたしの目に、一枚のポスターが視界の端に入った。
 ちょっと気になって足を止めると、歩いていこうとしてた朋也とボタンは急停止する羽目になっていた。

「いきなり止まるなっつーのっ! ん? どうした?」
「これ……」

 そういって指をさしたポスターを見て、朋也がつぶやく。

「花火大会、9月9日」
「あたしの誕生日」
「んなこたぁ知ってる」
「朋也……」
「行くか?」
「うんっ」
「ま、折角の誕生日にこんなもんがあるんだもんな。記念にはいいだろ」
「任せときなさいって、あんたにも忘れられないような記念日にしてあげるからっ!!」
「お前の誕生日うだろうがよ。ああそうだ、誕生日っつったら、なんかプレゼントに欲しいもんはあるか? そんなに値段の張るものは買えねぇけど、できるだけ希望には沿うようにするぞ」
「なんでも良いの?」

なんでも、という単語ひとつがあたしの頭の中で変形を始める。あたしが今、欲しいもの。それは物理的に手に取れるものじゃなくて、でも、とても大切なもの……

「値が張らなきゃな」

 『なんでもいいの?』といったあたしの言葉に、それだけ苦笑して朋也が言うと「どーしよっかなぁ」なんて答えを返す。朋也はますます困ったような顔をして勘弁しろよ、って言った。
 こんな些細な会話の間に、あたしの心は次第にひとつの方向に向かって歩き始めた。歩き始めてしまった心、後には引き返せない。

「じゃあ、ひとつだけ」
「ん、なんだ?」

 大丈夫、って自分に言い聞かせてゆっくりと目を閉じる。深く呼吸をして閉じるのと同じくらいのスピードで目を開いて、視界に朋也を入れる。
 まっすぐに見つめてくる朋也の目を見てあたしの中での覚悟を決めて、朋也の暗闇の中に入る一歩を踏み出す。
 そして、あたしは言った。

「朋也の家のこと教えて欲しい」

 あたしの言いたいことがちゃんと伝わったんだと思う。あたしの目に映った朋也は、こわばった顔をして、あたしをみつめていた。
 大丈夫。朋也の過去がどんなでも、今の朋也が好きなあたしの気持ちは変わらないから。


 だから、


 朋也……


 あなたとのこれからを、私も一緒に歩かせて。


 あなたを見つめさせていて……









おわり







---あとがき---
 次回で終わりです、っていうか終わらせます。展開が多少強引くさいのは勘弁してください。
 一ヶ月ぶりに書くもんだから、書いてる私はパッツンパッツンです。
 次回……どーやって終わらせようか? 他の所にはないような解決のさせ方したいな。
 ま、できる限りほのぼので終わるように捏ね繰り回してみせますよ。出来上がりがどーなるかは知んねぇけど。

 ちなみに、『週明けの月曜日』は杏エピローグの日とお考えくださいましよ。

 それではそれでは、ここまで読んでくださった方々に沢山の感謝を込めつつ、今回はこの辺で。ではまた〜
 (05/07/31)

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