満月衛星。-暑中見舞い用SS-雪の国 満月衛星。  暑中見舞い用SS - 雪の国



『雪の国』

 これは、とある雪の国の話でございます。

 ズポッ、ズポッ……規則的な足音を立てながら猛吹雪の中を一人の雪だるまが歩いてゆきます。

 何せ雪だるまですから、足は無くピョンピョンとジャンプしながら雪原の中を歩くしかありません。

「ああ……いい吹雪だ。仕事場で溶けた体もだいぶ元の大きさに戻ってきたな」

 そう思いながら歩く体は仕事場から出たときよりも一回りほど大きくなっていました。

 仕事場の炭鉱は明かりを灯しているため室温が高く、体が溶けてしまいます。そのために亡くなった仕事仲間も見てきました。

「自分は運がいいんだ。それをこれからも大切にしていかなくちゃな」

 そんなことを思いながら歩いていると、向こうから近所に住む雪だるまがやってきました。

 その雪だるまは近くまでやってくると軽く手を上げて挨拶をしてくれました。こちらも同じように手を上げて返事をします。

 お互いに挨拶を確認すると真正面に向き合って口をあけます。何かをお互いに言い合っていますが、声は口から発せられたとたんに白い息になり、そして外気に冷やされてあっという間に凍ってしまいボトリと地面に落ちました。

 それを確認すると二人はにっこりと笑って凍った声を拾い会釈して分かれました。





 さて、凍った声を持って家に着いた雪だるまは家の扉を開き「ただいま」といいながら家へとはいりました。

 中では奥さんが心の温まる星の粒をコップに入れて「お帰りなさい」と笑顔で迎え入れてくれました。

 その笑顔を見るだけで夫の雪だるまは心が安らぎます。そのままリヴィングのいすに腰をかけてふぅ〜、と一息ついて言いました。

「今日の仕事はきつかったなぁ〜」

「くすくす、あなたはいつもそう言っていますね」

「しょうがないだろ、実際にきついんだから……」

「そうですか、ご苦労様です」

 笑顔を絶やさない奥さんの雪だるまから差し出された飲み物に、夫の雪だるまは口を付けてゆっくりとすすります。ゆっくりと体の中にしみこんでいく星の粒たちは男の心を温めてくれるのです。

 改めて男の雪だるまは自分が生きていることを強く感じながら色々なものに感謝をしました。

「もうすぐご飯が出来ますから、もう少し待っていてくださいね」

「わかった」

 笑顔で声をかける奥さんの雪だるまにそう返事をしながら夫の雪だるまはのんびりと新聞を広げながら奥さんの雪だるまの料理を楽しみにしました。





 食事をするころにはすっかり溶けた声からは挨拶と、あの雪だるまのちょっとした近況が語られていました。

 自分の職場はどんなだとか、最近は雪の降る日が少なかったからこういう吹雪はありがたいだとか、そんなことです。

 声から音がなくなってからは夫婦の雪だるまは二人で会話をしました。仕事場であったこと、家で家事をしていてあったこと、それから、これからのこと。

「あなた、私一人で家にいるの、少しさびしいです。あなたが帰ってくるのを一人で待つにはこの家は少し広いです……」

 寂しそうに奥さんにそう言われると夫としては申し訳なくなってしまいます。

 なぜなら自分には沢山の仕事仲間がいるのに、奥さんにはせいぜいご近所付き合いくらいしかないからです。

「そうだね。君に寂しい思いをさせてはいけないね。今までそんな気持ちに気づかずにいて申し訳ない」

「いいえ、私の方こそ何も言わずにいてスイマセンでした」

 そこまで言うと、さっきまで寂しそうだった奥さんの雪だるまの表情がいつもの笑顔に戻り夫の雪だるまに微笑みました。

 ああ……この笑顔を自分は失いたくない。夫の雪だるまは強く、強くそう思いました。





 やがて食事も終わり片付けも済むと、二人は普段はほとんど点けることの無い暖房に火を点けました。

 火がつくと鍋をつるしてその中に外からもってきた雪を少し入れました。空焚きにしないためです。

 火からはパチパチと松の焼ける音がして、煙突からはもくもくと煙が上がっていきます。

「さぁ、始めようか」

 夫の雪だるまは短くそういいました。そして、奥さんがゆっくりと、でも力強くうなずきました。

 そして、夫の雪だるまは上半身から、奥さんの雪だるまは下半身から自分の体にある雪を取り出しました。

 それから取り出した雪を丸く形作り、始めに奥さんの雪だるまが作った丸い雪を置き、次に夫の雪だるまがその上に同じく作った丸い雪を乗せました。

 そうして小さな雪だるまが出来たタイミングを見計らったかのように空から二人の家の煙突に星屑たちが入ってきました。

 星屑たちはそのまま煙突をゆっくりと通って鍋に着地しました。

 二人はそれを見ると暖炉から鍋を外して、鍋の中にあった星たちを小さな雪だるまに二人でゆっくりと、心を込めて振り掛けました。



 やがて沢山あった星屑たちが鍋からなくなると、小さい雪だるまがゆっくりと目を開きました。そして

「始めまして、お父さん、お母さん」

「こちらこそ始めまして。僕が君のパパだよ」

「私がママよ。生まれてきてくれてありがとう。これから三人で仲良く暮らしましょうね」

「うんッ!」

 そういって元気よく返事をした子供の雪だるまの笑顔は、まるで雪の結晶が笑ったかのような笑顔でした。

 新しい家族が出来た日、それは夫の雪だるまが父親の雪だるまに、奥さんの雪だるまが母親の雪だるまになり、二人の間に子供が出来た、そんな暖かな記念日。



 これは、そんな幸せがおきた、とある国の話でございます……



fin

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