満月衛星。-ss-38℃のぬくもり 満月衛星。 ss - 38℃のぬくもり

『38℃のぬくもり』

 社会人の平日の朝は早い。そして前日の眠りも浅い。だけれど今日の俺にそれは関係ない。眠りは浅かったがその理由は別に会社があるからじゃなかった。
 そろそろいいかな。
 始業時間の10分前、俺は隣で寝ている少女を起こさないように電話をかけた。数回の呼び出し音の後、電話の繋がる音がして声が聞こえた。
「お電話ありがとうございます。富士芝、川浪でございます」
「あ、おはようございます。営業の和木瀬です」
「おはようございます」
「おはようございます。すいませんが並木部長にお電話お取次ぎいただけますか」
「並木部長ですね。少々お待ちください」
 普段会社に外線で電話すること無いため珍しく耳に入る保留音を新鮮に感じながら、少しの時間を保留音と過ごす。やがて電話が変わり取り次いでもらった相手が出た。
「おはようございます、和木瀬です」
「おう和木瀬君、どうした? どっかの電車が遅れたか? 先に言っておくが今日はどこの路線も事故は起こしてないぞ」
「いや、そーゆーんじゃないんで。遅刻するときはきっちり寝坊です言いますよ、私は。」
「確かにそうだな。ということは、なんかあったか?」
「ええ、まぁ。ちょっと今日お休みをいただきたいんですよ」
「なんだ、風邪でも引いたか?」
「まぁ風邪は風邪なんですけどね」
「その割に声は元気そうだな。仮病ならもう少し気の利いた声を使えよ」
 ゲラゲラ笑いながら碌でもないことを言ってくれる。っていうか、気の利いた声を出せば仮病を使ってもいいのか。よし、上司の許可は得た。今度使おう。いやいやいやいや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。本題に入らないと。
「私も風邪はひきません。並木部長同様、風邪はひかないことにしてますから。原因不明の発熱が起こることはあっても。風邪を引いたのは私じゃなくて、うちに泊まりに来てる子なんですよ」
「おお〜っ、和木瀬君にも春が来たか。おめでとう」
「は? それってどういうことですか」
「え、同居してる女の子の看病なんだろ? そうかぁ、和木瀬君にもとうとう彼女ができたかぁ。いや、おめでとうおめでとう」
「あの〜、部長。お言葉ですけど、誰も同居なんてしてませんよ? 『泊まりに来てる』って言ったじゃないですか」
「それじゃあプロが居ついちゃったのか? そりゃ危険だな」
「なんですかプロって?」
「デリヘル嬢」
「確かに危険ですけど違いますっ。それ以前にンなもん呼んだ事もないですからっ」
「不健全だな」余計なお世話ですっ。それだけ一つツッコミを入れるとメンドクサそーに上司殿は言った。「じゃあいったいなんなんだよ」
 ボケだかマジだかは分からんけど上司もいい加減疲れたらしい。俺はいい加減以上にツッコミ疲れた。ちゃんと話しを聞く体制をとってくれた上司に、状況を説明する。
「うちに泊まりに来てるの私の姉の娘、要は姪っ子なんですよ。で、その子が体調を崩したというわけです」
「ああ、そういうことか。ふむん、大体分かった。それでその女の子はいったいいくつなんだ」
「いくつだったかな……」
 記憶を辿ってみるが正確な年齢なんていちいち覚えて無いな。子供に対して思うことは、俺らからしてみれば一つだ。すなわち、子供の成長って早いなぁ〜ってことである。
 確か去年、いや、一昨年だったかに小学校に入学したはずだ。ってことは今年で小3。
「多分9歳くらいのはずです」
「和木瀬君、はんざ――」
「言っときますけど、ロリコンとは違いますからね。別段連れ込んだわけでも拉致ったわけでもありません。彼女が来るんです、ここ数年コンスタントに。自分から」
「餌付けでもしたのか?」
「誰がンなことしますかっ」
「なんだ、面白くないな」
 電話越しで受話器から口を離しはしたのだろうが、確かに聴こえた。残念そうな「ちっ」と言う舌打ちの音が。聴こえましたよぉ〜確かに聴こえましたともさっ!! チックショーッ! これだから上司はっ、部下をからかうことを楽しみの一つにしてやがる。ああ、俺も早く偉くなって部下をからかいたい……。
 って、そう言う問題じゃなくてだな。
「面白く無くて結構です。とにかく、振り休使って良いですか。いつのか分からないけど、結構溜まってるはずなんですけど」
「それは却下」
「ああ、やっぱりですか」
 分かっちゃいた返答だったが即答だった。早い早い。予想していただけに俺の返答もまた即答だったわけだが。
「当たり前だろ。基本的に振り替えで来た日から規定営業日以内だし、おまけに休日出社の申請をする際に振り休日を指定してるだろ。その日き来た君が悪いんだから、今回はおとなしく有休を使え」
「ハイ」
 流石部を統括する立場だけあってそーゆーところはしっかりと言うかちゃっかりとしてらっしゃる。ごもっともです。ハイ。チクショー、良いじゃん俺だって好きで振り休日にまで会社来て仕事してたわけじゃないんだから。折角取れた休日だったが、なんでかしょんぼりした気分になる。
「ま、今回は身内の看病ってことで有休ってことにしたが、振り休はまた別途話し合うってことでな」
 それじゃあ姪御さんお大事にな、という上司にお疲れ様ですと挨拶をして電話を切った。
 やったぁ〜っ、これでまた別途休みが取れるっ。
 ……いや、ちょっと待て、冷静に考えるんだ俺。あの上司殿が早々簡単に部下の休日を許すと思うか? いや、無い。そこから導き出される答えは一つ。
 またどこかのタイミングで休日出社がある。
 これだ。これしかないよなぁ、多分。会社にいれば休日出社なんて仕方がないことなんだけどさ。はぁ、でもやっぱ休日は休みたいよなぁ。
 今度こそキッチリと振り休日は休んでやる。と心に決めつつ、やっぱ無理だろうなぁ〜と頭の片隅に浮かんだ現実を追いやっていると、そばでクスクスと楽しそうに笑う声が聞こえた。
「……ゆう君、おもしろい」
「あ? 起こしちゃったか、悪い」
「気にしないで」
「おう、さんきゅ。で、なにが面白いって?」
 声がした方に顔を向けてみれば当分起きないと思っていたはずの病人がしっかり起きて、熱を帯びた赤い顔でクスクスと嬉しそうに笑っていた。
 普段元気なこの姪っ子が風邪を引いたのは昨日のこと。原因はなんだったか。かき氷の喰い過ぎか、クーラーに当たりすぎか、バカが引くといわれる夏風邪に中ったか。昨日会社からそそくさと帰ってきてみれば土色の顔をした姪っ子が弱々しく俺を迎えてくれた。
 そんなわけで、仕事から帰ってきた俺はそのまま姪の看病という新しい仕事に付いて、今朝にいたる。
「だって電話してから顔が怒ったりニンマリしたりしょんぼりしたり、色々変わるんだもん。見てておもしろかったよ」
 しょ、小学生にまでおもしろがられちゃってるよ俺。どーすりゃ良いのよ? とりあえず次からは人が居る部屋で仕事の電話するの止めよう。
「ほら、またしょんぼりした顔して。いつも私に見せてくれない顔してるんだもん。ふふふ、カゼひいて良かったかも」
「そりゃ良かったな。ほらよ」
 額に乗っかってたタオルを取り替えてやる。タオルがぬるいでやんの。そういえば昨日寝る前に変えてからすっかり変え忘れてたな。起きてからすぐにやれよな。
「んっ、冷たくて気もちいい……」
 ほにゃっと崩れた笑顔を向ける我が姪。うんうん。子供はこんくらい素直な笑顔をしてる方がかわいいもんだ。
「さて、朝飯はどうする?」
「食べなきゃダメ?」
「喰っとけ。でなきゃ薬も飲めん」
「甘いシロップ?」
「アホ」
「うぅ〜、アホいわれた」
「当たり前だ。一人暮らしの男の家にそんなものがあったら素で引くわ」
「いいじゃない引かれたって。それで女の子一人が苦いクスリのまなくてダイジョブになるんだから」
「オンリーユーの為にシロップ置けってか」
「うん」
「そーゆーめんどくさいこと抜かすやつには座薬を提供してやる」
「ざやくって?」
 興味本位で聴いてきた姪を無視して座薬を探そうと俺は布団のそばを立った。
「確か前に罰ゲームで……いやいやいや忘れよう。思い出したくない、思い出したくない。思い出したくない」
「ねぇ、ざやくって?」
 俺の表情を見て不安がこみ上げてきたんだろう。嬉しくはないが、こういう時に表情が顔に出るってのは相手にストレートに伝えられるものがあって便利だ。不安な表情を見せる姪っ子を無視して薬箱を取り取り出してガサゴソと探すと
「あった。座薬〜」
 物が出て来た時に必ずやりたくなる猫型ロボットの真似をして座薬を高々と掲げる。そのまま姪に向かって放物線を描くように投げてやる。
「おっと」
「ナイスキャッチだ病人」
「これが、座薬?」」
「そだ、それが座薬と呼ばれる薬だ」
「これをのむの?」
「ンなモノ飲んだら体壊すわい」
「じゃあどうするの?」  要領を得ないといった風な顔で首をかしげる姪っ子にそれはだな、声を潜めて耳元で説明してやる。
 ゴニョゴニョ。
 ボンッ。
 ゴニョゴニョ。
 サーッ
 とまぁ懇切丁寧に説明してやったら見事に顔を赤くして青くした。はっはっは。こりゃ面白い。さっき人の顔を見て面白いなどといってくれた御礼じゃ。大人をからかっちゃいけないぜ譲ちゃん。
「で、どうする? これも立派な薬の一種だ。こっちを使うか、おとなしく飯を喰って薬を飲むか。二つに一つのダイス」
「嫌なダイスだね」
「赤い髪のエイリアンはロリコンじゃないがイタズラ心満点で喜びそうだな」
 ちなみに俺はうちの会社のエイリアンどもは大変親切に俺に罰ゲームを執行してくれた。……ほんのり自殺したくなるね。変わりに泣こう。もっとも、ゲームに負けた俺が悪いんだけどさ。おならジェットはもうヤだよ……。
「私はちぃ〜っともうれしくないよ」
「んなこたぁ知らん。とりあえずさっさと選べ。選ばないんだったら両方服用させるぞ」
「そのほかに選択肢はないの? 例えばゆう君がコンビニまで子供シロップを買いに行くとか」
 ああ、その手があったか。すっかり思いつかなかった。
「いい案だがメンドイからヤダ。って言うかコンビニにそんなものって売ってたか?」
「さぁ? 行ってみればわかるよ。でも、めんどくさいって、ゆう君の方が子供みたいだよ」
 そういってクスクスと笑う姪っ子。うわっ、超上から目線で笑われてるよ、俺。
「チックショ、子供で結構だっ。あ〜、もぉめんどくせっ。座薬やるぞ座薬」
「えっ? あっ、ちょっと、まってまってーっ、キャーッ、へんた〜いっ」
「おら、てめ、大人しくしやがれっ」
 一応言っておくが、あくまでオフザケである。姪っ子もそれが分かっている。でなければお互いにケラケラ笑いながらこんな頭の悪い押収をしているわけがない。
 決してワタクシめが変態的行動に走っているわけではないので、あしからず。子供なんて引ん剥いたら逆に自分が居たたまれなくなって自殺したくなる。怖い怖い。いや、子供でなくても無理やり引ん剥いたら犯罪だけどさ。
 ……それにしても、風邪引いてる子供相手になにやってんだかね、俺。


 俺が一人暮らしを始めてもう10年? 学生時代も含めるとそれくらいの年が経つ。地元には割りとコンスタントに帰っている方だと思う。金銭的にはちょいとキツかったが、それでも学生時代は金を出してくれている親への一応のけじめと思ってまぁ、ぐーたらしに帰ってた。そんな生活が今も続いている。
 寂しいかと聴かれれば、「別に」としか答えようがない。勝手気ままな一人暮らし。多少の不自由は有ってもさびしいということはない。まぁ確かに、一人で飯を喰ってるときに虚しさは感じるが。あんまり美味くないんだよな、一人で食ってても。
 そんな一人で食っててもうまくない食生活をある一時期にだけ改善してくれたのが姪っ子だった。ただ、ぶっちゃけてしまえば、うちに転がり込むようになったいきさつと理由を、俺はまだ把握してなかったりする。ねぇちゃんには「面倒見てあげてよ」といいながら俺に諭吉を数人握らせ、自分はいい機会を得たとばかりにどっかに旅行に行っている。
 そう言えば、初めて転がり込みにきたときに理由を聞いてみたら「ゆう君が寂しそうだったから」という答えが返ってきた。まさか子供に同情されるとは思わず、その時思わず苦笑して姪っ子に怒られた。機嫌を直すのにいい銭が飛んでいったと記憶している。確かに、あの瞬間から彼女のいる時間は寂しさを感じなくなったな。
 しかし、旅行に行ったねぇちゃん夫婦の次にできるのはまた娘かね、それとも今度は息子かね? これまでは大丈夫だったが、いつこの姪っ子のクローンかコピーか廉価版かが出てくるのかと思うと、ふかぁ〜いため息が出てくる。面倒を見るときに世話せにゃならん子供が増えるってのは、考えるだけでなかなか心に重いのだ。一人ですらこんな状態なのにな。


 そんなこんなで和木瀬家座薬攻防戦ボロアパートの陣が終わると姪っ子は大人しくおかゆ喰ってくれた。あ゛あ゛〜疲れた。そのまま布団に寝かしつけると
「年?」
 とボソリ一言抜かしやがった。
「うるせー、まだ20代だ」
「四捨五入すると?」
「……30歳だ」
 凹む。この返しは正直凹む。子供は無邪気に残酷だね。背けたいと思ってる現実をまざまざと見せ付けてくれるよ。
 しょんぼりしながら食器を片付けてコップに水を入れる。風邪薬と一緒に姪の元へ持っていくとしぶしぶながらではあったものの、結局薬を飲んだ。最近のガキはいちいち憎たらしい手を使ってきそうだからなぁ。飲んだ振りして人が見てないところで吐き捨てるなんて普通にやりそうだし。……俺が昔使った手なんだけれどさ。
「よし、いい子だ。薬も飲んだな。じゃ、さっさと寝ちまえ」
「ねないとダメ?」
 粉状の風邪薬を水で一気に流し込むと、苦そうな顔をしてそれだけ呟いた。
「風邪を治したいと思うんだったらな」
「じゃあもうちょっと治らないでいい」
「なんでやねん」
「だって、そしたらゆう君にかまってもらえるもん」
「普段からも十分構ってると思うがね」
「でも私が元気だったら朝から会社に行っちゃうでしょ?」
「そらまぁそーだわな」
「だったら、治らなくていい」
 なんと言いますか。子供らしいわがまま、って言うのかね。病人の弱気な発言と言うべきかね。
 割りと普段が普段なだけにこういう発言をするのは珍しい。普段だったらあっちこっちをみて回って、その日にあったことをノンストップでまくし立てるのが姪っ子がきた時のうちの夕飯時のスタイルだ。割りと一人でアクティブに動きまわるイメージが強いのだが、実際は一概にそう言うわけじゃなかったらしい。まぁ、確かに一人で見て回る自由ってのもいいもんだが、寂しいと感じちまうこともあるよな。寂しいなら寂しいと言ってくれていいのだがな。かと言ってどうにもならんことはあるわけだが。
 それでも今はこうして一日姪っ子に構ってやれているのだ。今のところはできればそれで勘弁していただきたいもんなのだが、子供にそれを言って納得をさせていいものか。折角の子供時分、目一杯甘えさせてやるのが大人の役目って気もする。じゃあそれだけのために仕事を休めるかって言うと休めない。大小個人格差があるとはいえ、俺も社会人の端くれ。それなりに社会というものに対しての責任というものを抱えている。でもそれは、例えば人一人の命の重さと天秤にかけた時に責任の方にはかりが傾くかと聴かれればそんなはずはなくて。
 ……はぁ、深く考えると泥沼にはまりそうだな。止めだ止め。ンな御大層なことを考えてもな〜んも始まらん。俺、今すべき事、看病。そんなわけで、もうちょっと風邪で良いとか抜かすワガママ娘のドタマに
「チョップッ」をかましてやった。
「ギャンっ」
「白兵専用モビルスーツ」
「? なに言ってるか分からないし」
「スマン、ギャグがつまらなさ過ぎた」
「あやまるとこそっち? ほかにあやまるところがない?」
 涙目になりながら頭を抱えて非難GOGOな姪っ子。
「だまらっしゃい。人様が看病するってのに治らなくて良いとは何事かっ。風邪を治す気も無い子供に看病するほどの親切心なんぞ俺にはない」
「でも、だって……」
「風邪時に弱気になる。一人の時に急にうつ病スイッチがオンになる。過去の恥ずかしい思い出が急に頭の中にフラッシュバックして死にたくなるなんてことは俺も時々あるから理解しよう。だが、人が看病するという好意に甘えないで、甘えるという好意のみに主眼を置くのは許さん」
「……ごめんなさい」
 しょぼ〜んとしょぼくれて謝る姪っ子。言っていることを理解してくれたのだろう。なんだかんだで頭のいい子ではある。こちらの行っていることが悪ければきっちり反抗するが、言ってることに納得さえすればちゃんとそれを認める。ガキの頃の俺にはとーてー無理な話だった。
 まぁ、ガキの頃の俺と比較したって仕方がない。別段昔と比較したところで、今の俺の頭がよくなるわけでもなし。今は、目の前の娘っこを寝かしつけるのが俺の仕事。
「分かればよろしい。そんなわけで、まずは寝な。風邪をきっちり治したら遊び連れてってやるから」
「ホント?」
「嘘ついてどうする。ただし土日祝日な」
「どこでもいい?」
「無茶のない程度の場所だったら何とかしよう」
「どれくらいならダイジョブなの?」
「とりあえず日帰りだな。泊りがけは移動がダルイから勘弁」
「それじゃあ遊園地に行きたい」
「ま、その辺が無難だわな」
 飯を喰って薬を飲んだ所為だろう。目元がトロンとしてきている。眠いのを我慢しながら喋っちゃいるが人間としての欲求には勝てないもようだ。うん、俺も時々仕事中に負けそうになるよ。大概そういう時は顔洗って表にタバコ吸いに行くけど。体の中の空気を入れ替えるってのは大切なことだ。
 ここで病人が眠ったところで何かあるわけでもなし。むしろ病気を治すために寝るんじゃ進んで寝てくれることを推奨する。
 そんな眠気に耐えながら姪っ子は布団から手を出して小指をちょんと突き出す。
「じゃあ、約束」
「ん、了解。約束だ」
 ほっそりとした姪っ子の指に自分の指を絡ませる。小指なんざ元々人間ぶっとくできてないからこれが太かったら逆にビビルわけだが。小指が親指くらい太い人間ってのも見てみたいな。さぞかし爆笑できることだろう。今度仕事してるときにどさくさまぎれて探してみよう。なかなか面白い画像と出会えそうな予感。
「ゆう君、へんなこと考えてる?」
「小指がぶっとい人間がいたら爆笑だなぁって考えてた」
「……よくそんなこと、考えるね」
「普段からそんなことくらいしか考えることないからな」
「もう少し真面目に考えようよ、色々と」
「真面目に考えたって仕方ないことが多いからな、世の中。それだったら少しでも頭の悪いこと考えないとやってらんないさ」
「そうなの?」
「大人の社会では大人の社会なりの、な。小学校にだってあるだろそういうこと」
「夏休みの宿題とかテストとか?」
「まぁ、そんなところだ」
「ホントだ。考えたく、ないね」渋い顔を一つして眠いながら笑顔を作った。ほんにゃぁ〜って感じの。「それじゃあ、私も今は風邪のこと考えないで、楽しいこと、いっぱい、考えるよ」
 いよいよ限界らしく言葉が途切れ途切れになってる。
「そうしときな」
「そする……」
 とうとう舌まで足りなくなってきてる。そんなに眠いのにまぁ、よく会話を続けようと思うもんだ。そんな会話に付き合ってる俺も俺なのかもしれないが。
 思わず苦笑が漏れる。そんな俺を見て「えへへ」と小さく笑った彼女は、そのまま俺の手を握って
「いっぱい、いっぱい……楽しいことしよう……ね」
 と小さな声で俺に伝えた。握られた手は彼女の熱がそのまま伝わってくるように熱くて、少し汗で蒸れていた。
「ん」
「やくそく……だよ……」
「約束だ」
「やくそく……」
 何度も噛み締めるようにそれだけ呟いて、彼女は眠った。繋がれた手は意外と強く握られていて外せそうにない。無理やり外すと言うのもひとつの手だったがどうにも気が引ける。
 どうにもこうにも子供ってのは保護欲を誘われてならん。俺、親になったら親ばかかバカ親になれるだろうな。それ以前に彼女がいないけど。……いや、まぁそれはどうでもいいんだけれどさ。
 とりあえず今は何にもできないこの状態を打破すべく、俺も横になった。何時も通り早起きした上にすることもないもんだから、眠くてたまらない。一緒に寝て時間さえ経ってしまえば何とかなるだろう。
 そんな浅はかな考えと38℃の体温を手に感じて、俺はもう一度浅い眠りについた。






 さて、姪の風邪の方は一日の看病が効いたようで次の日には大分落ち着いていた。そんなこんなでまぁほっといても大丈夫だろうと出社してオフィスの皆々様に挨拶をばしてみれば……
「おはようロリコン」
「ちびっ子萌だったんだな」
「犯罪には気をつけろよ」
 などなど素晴らしく暖かい挨拶で迎え入れられた。
「…………」
「♪〜 ♪〜」  無言でそれまでゲラゲラ笑っていた部長を睨むと、くる〜りと視線を明々後日の方向に向けて口笛なんぞ吹きはじめやがったっ。す〜〜〜っげぇわざとらしいぞおいっ。
 チックショーッ、いいもんいいもんっ。こーなりゃネタで使ってやるもんっ。ネタにして営業トークしてやるもんっ。
 悔しくなんてないもんっ。







おわり







---あとがき---
 ろりコン2に出展しました作品ですわ。
 順位を決めるような場に出す作品じゃないなぁ〜とは思ってましたが、モノの見事にびみょ〜極まりない順位でした。
 まぁ、それはさておいても、私的にはなかなか好きな話しであったりはします。自己満足のレベルですけどね。
 まぁまぁ、兎にも角にもウサギにもツノにも、色々な方に、ありがとう。

 (07/03/21)

 P.S.感想なんかをmailformBBSにいただけると、嬉しいです。是非……おひとつ……

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